Eスク英語学の課題1の方が終わり、ちょっとほっとしたところでまたもや道草しています。
映画『モリエール』を観たついでに、こちらの映画を鑑賞。
- ドン・ジュアン [DVD]/マクザム
- ¥4,104
- Amazon.co.jp
この本と見比べてみました。
- ドン・ジュアン (岩波文庫)/岩波書店
- ¥518
- Amazon.co.jp
もともと、ドン・ジュアン(イタリア語でドン・ジョバンニ、英語でドン・ファン)は、スペインの伝説的な放蕩貴族。スペインで人気のあったドン・ジュアン劇を、イタリアで翻案。それをさらに、フランスで翻案したものの1つが、モリエールのこの『ドン・ジュアン』というわけです。
スペインでのドン・ジュアンは、キリスト教的意味合いが強く(悪い人は地獄に落ちる)、イタリアでのドン・ジュアンは、情熱的な喜劇だったようですが、モリエールのドン・ジュアンはまた少し違う。岩波文庫の解説によれば、この作品が古典として繰り返し上演される理由は、モリエールがこの人物に「複雑な近代的な性格」を付与し、「普遍的なタイプ」にまでひきあげたから、ということなのです。
確かに、信心深い従者スガナレルと、「信じるもの?2+2=4だけだよ」、と豪語するドン・ジュアンの、全編にわたるやりとりのあれこれは、17世紀という時代そのものをあらわしているようです。なにせ17世紀は、ニュートン、ガリレオ・ガリレイ、ケプラーが彗星のごとくあらわれた時代。いや、17世紀だけの問題ではないですね。現代だって、科学と倫理の問題は解決済じゃない、むしろ問題が先鋭化しています。
また、快楽に限りをつけられないドン・ジュアンは、華やかなりしフランス絶対王政の王宮の人々から、現代人までを連想させます。
この短い会話劇の中に、17世紀から21世紀までの人間の問題が凝縮されている。
ほーっとため息が出ます。
で、そんなモリエールの『ドン・ジュアン』を、ほぼ原作通り作ってある、映画版『ドン・ジュアン』。小さな場面の移動などはありますが、大きな翻案なくだいたい話の流れは一緒ですし、台詞もだいたい同じようです。しかも、エマニュエル・ベアールとペネロペ・クルス、という現代最高峰の美女を使っての映画化。期待も高まる…
かと思いきや、映画版の方は、最初に度肝を抜かれます。最初の場面で出てきた、腹が出て脂ぎった、安岡力也さん似のおじさん。このおじさんは、ドン・ジュアンじゃないだろう~、と勝手に思い込んでいたのが、はい、このおじさんが主人公だった、という衝撃![]()
おじさん、っていうか、もうおじいさん…?いや、分かりますよ。パワーに溢れる恋多き男性は、還暦になっても、若い女性と恋愛するパワーがあるらしいですね。組織に属していれば、お見かけします。だから、このおじさんの、いかにも押し出しの強そうな横柄な感じとか、まあ説得力があるといえばある気もしますが…、でも、髪の生え際の白髪とか、髪や肌の艶がなく、乾ききってたるんだ感じとか、それでいて脂ぎった感じとか、筋肉が衰えてきていそうな身体の感じとか…、これが、ドン・ジュアンって言われても、ドン・ジュアンって言われても…、エマニュエル・ベアールやペネロペ・クルスがぞっこんラブって言われても…、と涙が出そうでした。
知らぬ間に、自分もハリウッド映画の基準に毒されているんでしょうかねえ~。ドン・ファンがジョニー・デップとか、カサノヴァがヒース・レジャー、と、まあそこまでの色男は使ってないだろうとは思っていましたが、無意識のうちに、いい男がドン・ジュアン役だろう、と想定してしまっていたようです。
別に、ドン・ジュアンはいい男である必要はないんですものね。
ああ、でも、カサノヴァをやったときのヒース・レジャーは最高だったなあ…
さ、気を取り直して。
映画『ドン・ジュアン』は、背景は申し分なく楽しめます。スペインの赤茶けた大地と、そこにひっそり寄り集まって建つ貧しい村の小さな家々。海辺の修道院。貴族の館。小さな漁村の祭りの様子。変に小綺麗なセットや衣装でまとめておらず、そうか、ドン・ジュアンの時代ってこんな感じだったのかもしれない、とイメージを膨らませることが出来て、そこは大満足。
時間がよく分からないところも良い。昼と夜は分かりますけど、いったい何日くらい経っているのか、さっぱり分かりません。今日は何日の何曜日?なんて誰も気にしませんし、いついつ、どこで会おう、なんていうのもない。誰かに会いたい人は、直接家に出かけていくか、その辺を探し回るだけです。そうかー、これが均一な近代的時間ではない、「メシア的」時間、というわけなんですね。
熱風が吹く荒涼とした大地と、その上に生きる人々。
でも、スガナレルとドン・ジュアンの対話は、いまひとつ、エッジに欠けていたように思います。
願わくば、モリエールの描いた近代的な人間の矛盾や問題を主題としつつ、主演には色気のある俳優を迎えて、21世紀版『ドン・ジュアン』が再び登場しますように![]()
