【ネタバレあり】ハリウッド 実写版 劇場版 GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊の感想


日本のマンガ、アニメのハリウッド映画化は全く期待できないんですが、これも期待を裏切らない駄作ぶりでした。

ストーリーも全然違うので、当然テーマ的なものも全く異なる。

最後の締めのモノローグだけで全く異なる作品だと観てない人にも分かってもらえると思う。

 

「私の心は人間。体は人工組織。私は第一号だけど、仲間は増える。人は記憶に自分の証を求めるけど、何をするかが人を決める。私の中で生き残ったゴーストが、人間性の大切さを教えてくれた。私は自分が何者で何をすべきかを知っている。」

 

実験体として勝手に全身義体化され、偽の記憶を植え付けられた悲劇のヒロインが自分のルーツと人間性を再確認し、己れの使命として公安9課で闘い続けることを選ぶというある意味分かりやすいヒロイックストーリー。

一般的な正義感や倫理観から逸脱した、超越したところがあり、全身義体化した己れのアイデンティティ、つまり自我を確立する要素に人間の姿は大して意味がないと考え、AIと融合して電脳世界における人間の多様性、可能性の海に飛び込んでいったオリジナルの少佐の面影は微塵もない。

ストーリーを変えても構わないが作品の魅力のポイントを変えてるからダメダメ。

まず少佐を正統派ヒーロー(正しくはヒロインか)にしちゃダメ。正義感から公安9課で任務を遂行しているわけではなく、自分の身体能力、電脳ハックのスキルが活かせるということと警察では手が出せない悪どい政治家や権力者が嫌いという個人的な理由からであり、9課のメンバーとは仕事仲間であって人間関係的な信頼を寄せてはいない。バトーだけ少し特別で他メンバーとのつなぎ役を担っていてチームが保たれている。独断も多く、孤高のダークヒーローというかアウトロー的なところが魅力。信じているのは自分の能力、判断力、直感で「そう囁くのよ。私のゴーストが」という台詞や、冒頭ビルから飛び降りて突入、ひと暴れしたのち、不敵な笑みを浮かべながら光学迷彩で闇夜に消えていくところが格好良かったのに、この映画では芸者ロボットの「ハンカ社と関わると破滅する」という言葉と自分の記憶にバグがあることに感づいて終始不安げな顔(上のキービジュアルのように終始眉間に皺を寄せてる)で身体的には強いんだけど頼もしさがない。

(ちなみに日本語吹替版はアニメの声優が多く起用されているので飛ばし飛ばし観たんだけど少佐の声の違和感が半端じゃない。声優さんも困ったと思うがわざわざ同一キャラに選ばれたらアニメの声を期待されてるんだろうからアニメと同じ声にするしかない。するとあのカッコいい声が終始不安を抱えている映画の少佐とミスマッチを引き起こすのは必然。それでも字幕と吹替の翻訳を比べると吹替版はアニメの雰囲気が出る口調に変えて違和感を減らしてはいる。バトーに対して「どうしてあなたが汗を?」→「ビクついてるの?」という感じで。)


そしてアウトロー的が故に公安9課としては人形使いはネットから遮断した上で捕獲、研究・監視対象とすべきところを独断で、そして己れの好奇心から融合を選択するという電脳世界が行き着く生命体の形態の一つを示した物語の結末が「融合、進化して復讐しよう!」「それは出来ない」になってしまっていてもう。。。「復讐しよう!」じゃオリジナルの少佐なら「くだらないわね」と一蹴するだろうし、この映画の少佐は正義感が強いから拒むわなぁ。。。

「さて、どこへ行こうかしら。ネットは広大だわ…」の台詞で終わるから、融合してどんな変化があったのだろうか、これからどのように生きていくのだろうか、と想像を掻き立てられるゾクゾク感がたまらなかったのに。

 

というわけで、全く異なるシロモノが出来上がったわけですが、ストーリーが全く異なるのにアニメ版の構図そのままのシーンが沢山あって、これはこれですごいなと。(原作漫画とアニメも相当別物ですし、SACシリーズもまた違うコンセプトの作品ですが、それはここでは置いておいて)

全く異なるストーリーなのに、冒頭は光学迷彩を着た少佐が飛び降りるところから始まるし、水場でゴミ収集車のオッチャンと格闘(アニメではごみ収集車のオッチャンを利用してた男)、バトーと船の上で語らうシーンがあって、最後の見せ場は多脚戦車との格闘。でも、見た目だけであって、例えばバトーと船の上で語らうシーンも語らう内容が全く違うという具合で、本当に全然違う物語。それが逆にすごいな、というよくわからない感想をいだきました。

(人形使いの代わりに「2nd GIG」で登場したクゼヒデオを出し、草薙素子とクゼヒデオは幼少期に旅客機事故に遭い義体化したらしいというアニメのシリーズ化に伴い出てきた要素を埋め込むあたり、アニメシリーズ全体へのリスペクトが感じられ、それが構図やガジェットのデザイン等に現れているとは思いました)

 

傑作、良作品も好きだけど、B級映画や駄作も思わず観てしまう人。おすすめです。