終わってほしくなかった漫画「それ町」が終わってしまった。

最終巻を読んで、エピローグ以外、地味な話が多いと思ったけど、繰り返して読むと最終巻らしい話ばかりであることに気付いた。

 

第122話 未来の夢

最終巻の1話め。これはそれほど最終巻らしいってことはないが、エピローグへ向けて、ずっと探偵になると言っていた歩鳥が文学部に行って小説家を目指すきっかけが描かれている。

 

第123話 Detective girls final

まず紺先輩の家族にだけ見せる「素」と歩鳥の前とのギャップが笑える。

最終巻ということで、歩鳥と真田の関係はどうなるのか?ってところが気になったりするわけだが、これが「それ町」らしい示し方。恋愛漫画ではないから最終巻だからといって、安易にくっつけたりはしない。結局のところ歩鳥はまだまだ恋愛に疎くて真田は単なる友達以上の大事な仲間ぐらいの認識で恋愛感情というものは抱いていないというか気付いていないという感じ。それよりも今、毎日を楽しく過ごせていることが幸せ。この漫画の世界観というか、歩鳥が一番失いたくないものは、大好きな家族や友達や丸子町商店街の皆との楽しい関係、時間であることが描かれている。この歩鳥の価値観は1巻から通して度々描かれていて、作者の価値観だとも思っている。単行本の最終ページには必ず「あとがき」が書かれているが、「ミシンそば」というタイトルの話が載っている巻で「歩鳥は何故泣いたのか。単に真田家に同情したわけではなく、日常というものが、それを維持しようとする一人一人の善良さで保たれているという事に気付いてしまったからではないでしょうか。」と書かれている。性善説と性悪説でいうと性善説で成り立っている世界。

 

第124話 大事件

これまた最終巻に必要?というような話だが、歩鳥の探偵ごっこ話は定番でもあるので。この話でもポイントは歩鳥のセリフ「本当に事件が起きりゃ加害者がいて被害者がいて、暴いた所で皆傷つくんだよ」。前述の歩鳥の価値観から、憧れていた探偵が自分に合わないことに気付く。それと歩鳥の「2階から飛んできてくれたのカッコ良かったよ」に照れる真田。それを見て真田の気持ちを察する辰野。恋愛に関してはこれでおしまい。これが「それ町」らしい締め括り方。

 

第125話 紺先輩スペシャル

これまで何度か出てきていた紺先輩の中学時代の過去エピソードを締めくくる話。他人と関係を作るのが下手な紺先輩。中学の卓球部で仲良くなれたと思った先輩とも結局上手くいかなかった。そして、いつのまにか歩鳥が一番の親友になっていたというお話。また、歩鳥は普段おっちょこちょいで何も考えてなさそうだが弟妹がいることもあって案外しっかりしていて、紺先輩の方が実は子供っぽい、というところも表現されている。それに紺先輩も辰野も歩鳥のおかげで素の自分が出せるように変わった。

 

第126話 悪

これは本当に最終巻に必要というわけではない話。ただ、これまで2回登場した森秋先生の画家だった祖父の絵の謎の解決編。摩訶不思議な余韻を残す話も「それ町」の定番なので。

 

第127話 至福の店フォーエバー

これは普通の漫画の最終話的雰囲気のお話。受験を控え辰野がバイトを辞めるのをきっかけに、メイド喫茶シーサイドは普通の喫茶店に戻る。歩鳥と辰野の回想シーンがいかにも最終話っぽい。

 

第128話 嵐と共に去りぬ

これと次の第129話がいかにも「それ町」らしい最終回。「それ町」は度々、宇宙人とか未来人とか幽霊とか化物とかSF的なもの、オカルト的なもの、摩訶不思議なものを扱い、日常系マンガとしてはちょっと変わっている。今回も宇宙人というか神みたいなヤツが出てきて、明日、東京は大型台風により大災害が起こるが、このボタンを押せば災害は起きない、けれど歩鳥は元々この世にいなかったものとして世界は続く、さあどうする?と問う。自分ひとりの命で皆が災害に遭わなくて済むのならと歩鳥はボタンを押す。ここでも歩鳥の価値観を繰り返している。

 

最終話 少女A

第128話と繋がっていると思わせて、実はそうではないドタバタコメディーで締めくくるという「それ町」らしい終わり方。

 

エピローグ

でも、第129話みたいな終わり方ではあまりにもあっけなさすぎるので、うん、終わったな、ってしみじみと感慨にふけることが出来るお話。歩鳥が書いた小説が雑誌に佳作入選し、授賞式で小説家、門石梅和であることを隠していた静と会う。静は「歩鳥は私のもう一つの目なんだ。もう少し内緒にしておきたい。それに奴は自分から見破るよ」と言っていた。そしてその通り、歩鳥は見破った。ちょっと大人に描かれた歩鳥が印象的。

(ちなみに歩鳥の作家としてのペンネームが「風ヶ丘飛鳥」で、ああ、歩鳥って名前は作者が飛鳥という実在する名前からお遊び的に思いついた名前なんだと気付きました)

 

個人的にはエビちゃんとタケルの話が1話あって欲しかったなぁ。