覚えている限り、いきなりプロレスを観戦している所から夢が始まった。

と思ったらもう試合は終わっているようで、場内は歓声が凄い。

ひな壇席からリングを見下ろすと、リングの上ではなんと

あの小橋建太がいつもの如く、もうこれでもかという位の汗を掻き、

足元もおぼつかない程フラフラしながら、それでも懸命にファンの歓声に応え頭を下げている。

東西南北、四方に頭を下げ終えると場内が段々と静かになってきた。

沈黙の中リングに立つ小橋建太に観客達は期待の視線を注ぐ。

そして小橋建太が「いくぞー!!」と、例の雄叫びで沈黙を切り裂く。

それと同時に観客は熱い歓声を送る。

その歓声を噛みしめ、遂に小橋建太が動き出した。

なんと武藤敬司のプロレスLOVEのポーズをしようとする。

両手を口につけるその瞬間、大ブーイングが起きて戸惑う小橋建太。

もう一度気を取り直してモーションに入ると、更に大きなブーイングが起こった。

場内の怒りに満ちた空気に戸惑いを隠せない小橋建太。

ビンやカンが飛び交う場内、尋常じゃない位あたふたする絶対王者。

すると次の瞬間、武藤敬司が走ってきてリングイン。

そしてプロレスLOVEのポーズ。

当たり前のように大歓声。

ポリポリと頭を掻きながら、退場していく小橋建太。

僕は一緒に観戦していた友人A(幼稚園から高校までの同級生で、もう数年会ってない)と

「何だったんだろうね?」「そうだね…」とか席で言っていると観客はどんどん帰っていく。

そこから時空がすっ飛び、僕は中学の卓球部の部室に居た。

気づくと中学時代の卓球部のメンツがいて、何故か卓球の練習が始まった。

僕もあの頃みたいに卓球をして汗を流した。

ちなみに友人Aは県大会とかにも個人戦で出場してた上手いやつ。

高校も卓球やってたし、大学でもたぶんやってる。

練習が終わり、いつもの様に友人Aと家まで自転車で帰ることにした。

家まで帰ってくると僕の両親が家の外に居て、友人Aに声をかける。

友人Aとは家族ぐるみの仲。

親が友人Aに「元気?」とか「練習どうだった?」とか聞いてる間に

僕は自転車を小屋にしまい、戻ると何故か友人Aがフレディ・マーキュリーになっている。

さっきと同じ、自転車にまたがり両親の立ち話に付き合わされていた状態。

だが確実にフレディ・マーキュリーになっていた。

夢の中だから僕も特に気にならなかったが、友人Aは自転車にまたがりながら

「I was born to love you]を唄っている。CD音源さながらの美声で。

しかも今思うとフレディ・マーキュリーじゃなくて、

神無月がものまねしたフレディ・マーキュリーに似てたと思う。

そして何故か無視されているのに両親はひたすら「最近どう?」とか「どこに進学するの?」

とか聞いている。その目の前で胸毛を引っ張りながら歌い続けるフレディ・マーキュリー。

フレディは唄いながら自転車をターンさせると、そのまま帰ろうとした。

すると両親はフレディを呼び止め、「一回でいいから返事をして行きなさい」と言った。

それに対しフレディ、もとい友人Aは「そうだよ。僕なんだよ!」

と言ってからまた唄い出し、その重いペダルをこぎ出した。

僕は不可思議な言葉を残したその友人を、その背中が地平線に消えるまで見つめ続けた。

茜色の夕陽の中に両親は満足気な顔で佇み、玄関先のアスファルトには屋台の焼きそばが落ちていた。