高校生のこと。
わたしの採った英語科の教師は、長身でスラッとした、細身の女性教師でした。
ゆったりとした話方で、もの静かな方でした。
感情に任せたような人柄ではない、温厚で、誰にでも隔たりなく同じように接する人。
ですが、あまり好かれている教師でもありませんでした。
なにか、重たい『影』を感じていたからです。
男子生徒からは、気味悪がられ。
女子生徒からは、『根暗先生』と呼ばれていました。
その先生も学校を休みがちで、英語の授業が自習になることもありました。
そんな英語の授業の時間は、次第に生徒たちの「遊び場」のようになり、授業中にも関わらず、教室外に出ていってしまうこともあったほどです。
そんなある日、
少し騒がしくなった教室を見回して、
ほんとうに珍しく、『根暗先生』が怒ったのです。
「静かにしなさい、授業中なんですよ!」
わたしたちは、酷く驚きました。
先生の表情は、怒りなどは無く、どこか寂しげだったからです。
騒がしくしていた生徒も、驚いて静まりました。
それから数日して
英語の授業のため、教室に向かいました。
黒板には『自習』
と、書いてあります。
あぁ、自習か。
次の日。
『自習』
その次の授業も『自習』
先生の文字が黒板にある。
一週間、丸々自習か続きました。
なんだ、テストも近いのに。
自習ばかり続く。
そして、次の週。
自習続きの英語の授業の、ある日。
わたしは、友達二人と教室経向かいました。
教室には誰も生徒がいないみたい。
わたしたちが、一番先にきたみたい。
生徒はいませんが、先生がいます。
黒板に、細い腕で
『自習』
と、書いている。
先生の後ろ姿が見えました。
先生居るのに、自習なの?
わたしは言いました。
先生は振り返らずに、
「ごめんね、今日も自習なの」
そっか、わたしたち、ちょっとトイレいってくるね。
友達二人とわたしの三人で、トイレに向かい、教室に戻ると、先生の姿はありませんでした。
授業が始まり、
騒がしくなる自習中の教室に
別の教室がやってきました。
どうしたんだろ。
先生はみんなの前で、口を開きます。
「お前らを担当していた○○先生だけどな、先々週から入院していたんだが、昨夜亡くなったそうだ」
みんながざわつき出す。
「良い先生だったな。みんなとの授業、凄い好きだったみたいで。癌が見つかっても、がんばって学校に来てくださっていた。…冥福を祈ろうな」
先生は、わたしたちとの授業、凄い好きだったんだ。
痩せ細った身体に鞭打って、わたしたちに英語を教えてくれてた。
いままでの思い出が、一気に駆け巡って、寂しくなりました。
黒板には『自習』の文字。
先生の、見慣れた、自習の文字。
「さっき書いてた、『自習』の文字」