「ファッションと私⑩」 | BESPOKE

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芸術をめぐる冒険と、最近思うこと、いろいろ。

3人のうちの2人は、
いわゆるどこにでもいそうな老男性重役風で、
質問内容や、感じの悪さは
どこにでもいそうな面接官という感じだった。
おそらくギャルソンを着てはいなかったと思う。
普通のジャケットに普通のシャツ。
ファッションに情熱なのどないのだろう彼等は
私の事も、私も彼らの事に興味を持つことはなかった。

もう一人は女性だった。
とてもラフな格好だったが、
おかっぱ風の髪型とギャルソンがとてもよく似合う雰囲気で
私は終始彼女へと語りかけるように
面接を進めていった。

志望動機と、他にどの企業へ応募しているかなど
いたって普通の質問だった。
初めての就職面接がギャルソンとは
不幸なのか、運がいいのかよくわからなかった。
当然ながらまったくと言うほど上手く答えられなかったけど、
女性面接官は親身になって聞いてくださっているようだった。
それがただ嬉しくて、一心不乱に話し続けた。
何を話したかは、よく覚えていない。

終わった後のなんとも言えない脱力感は
これから先味わうことはないだろう。
今まで生きてきた全ての経験と知識と気力、
情熱をぶつけた。

そんな対象はもうない。
今は、色々な情熱も薄れてきている。
あの時、上手くいってたら
きっとあの時以上の情熱を持って生きていられただろう。

あの面接から2週間ほどたって
またはがきが送られて来た。
次の面接の日時だった。

なんだか緊張の糸が途切れるほどほっとした。
それがいけなかったのかもしれない。