泉田之也展 土の波動
旧石井県令邸
2021年5月30日(土)〜6月6日(日)
11:00〜18:00 会期中無休
素晴らしい展示でした。旧石井県令邸を自由に、恣にしているというか…。県令邸という容れものの中を
自由に泳いでいるみたいでこちらも楽しい気持ちをもらって帰りました。
会場は2F、3F、屋根裏部屋の部屋をすべて使って、それぞれに
「地の間」「火の間」「水の間」「風の間」「空の間」と名付け、
そこに配された作品はひとつひとつが「地」であり、部屋全体として「地」でもあるようなおもしろさがあります。
きのう、31日(月)は作家在廊日だったため、泉田さんからお話を聞くこともできまして、
「地」と「空」の作品は薪窯で焼き上げたものだそうです。
肌の表面に浮き出た墨流しのような模様は灰が土肌についてできたものだそうですが、
ムラムラと燃えている火の爆ぜる動きのようにも思え、作品の肌もそれぞれで、眺めて飽きることがなかった。
同じ部屋にある作品でも、こちらは金属っぽい表現で、一枚の折り紙を中央でぎゅっと摑んだような
形です。そう見えるけれど、この形を窯のなかでどうやって保っているんだろう?
私はパンを焼いているのですが、パンは基本的に炉床に接地するものなので入れるときも出す時もそれほど神経を遣うものではないですが、これを窯に入れろと言われたら悩むなあ…。
水の間の作品は「積層」の手法で、まさしく水紋のような流れを表現されていて、
陶板の絵画のようにも見えました。すごく自由で楽しい作品。
「火の間」の作品は土と金属が入り混じったような質感と色艶で、部屋の中にある作品は
「火」という漢字を象っているようだなーと思いました。もちろん私の勝手な見方です。
火にくべた薪がポンと跳ね返るような、作品の思い切った屈曲にそんなうごきも感じます。
「風の間」には「風」1基のみ。
折り紙で畳まれた翅の蝶みたいだなと思いました。蝶が風をあらわしている。
「空の間」はもちろん、屋根裏部屋。
ここに配された2基の作品も薪窯で焼かれたものだそうです。
焼成時間をお聞きしたら1日半、30時間~40時間とのこと。
おもしろかったのは焼く時はこの作品はひっくり返った形で焼いているということ。
それを焼きあがってからマットをしいてふたりがかりで抱えひっくり返すとお聞きして、
私はこの作品がマット運動をしているところが浮かび、笑いがこみあげてきました。
泉田さんは饒舌でもありませんし、冗談が好きなタイプにも見えないのに、
作品自体には自由に遊ぶ楽しさを感じ、つい頬が緩んでしまいます。
「空の間」にある2基の作品は、私には空をゆく方舟に思えました。
見えないけれど神様がお乗りになって、空の海を漕ぎだしていくイメージ。
泉田さんの作品のタイトルは漢字1字とか2字で、突き放したようなそっけない感じなのに、
作品を見ると鐘を打ってしばらくのあいだ響きが残っているような感じで、ああ、この字が
響いているなあと思ってしまいます。
初夏の緑に覆われた煉瓦づくりの洋館、その窓から差し入る光ごと堪能したい展示でした。