大奥19巻、最終巻のカバーです。8代将軍吉宗がセンターは当然として、現代に近い(最終巻に近い)将軍たちは夜明けの空を晴れやかな表情で望み、

女将軍の始まりだった3代家光(父家光の身代わり)、5代綱吉は凍てつくような銀河を見ている。

家光のセリフにあった、「念仏を何度唱えても楽になる暇もないくらい次々に悲しみの襲ってくる者たちはどうしたらよい?」を思い出す。幼くして母や乳母を斬殺され、会ったこともない父家光の身代わりに男装を強いられ、城内の庭で手籠にされる。相手の男を手討ちにしてやったと虚勢を張り悲しみに耐えようとする彼女だったが身籠り、生まれた我が子に愛情を抱いて間も無く、乳を呑まなくなった赤子は夭逝してしまう。




メインの5人の将軍だけではなく、影の薄い9代家重さえ忘れがたいエピソードが浮かぶ。

初期のエピソードと終盤のエピソードになにか共通するものもあって、そういえば前にこんなエピソードがあったと自ずと復習したりした。まったく同じではないけれどね。

幼き日からずっと自分の存在を傷つけられ続けてきた3代家光と、将軍である父に慰み者にされてきた13代家定。2人とも美少女であり孤独で毒舌だった。家光には有功が、家定には天璋院がその孤独から救い傷つけられていた自尊心を取り戻す言葉と愛情を注ぐ。

家光と有功の愛は、戦乱のない平和の世を維持するためには世継ぎは血族で、と考える春日局によって引き裂かれるが、それでも生涯有功は家光を案じ続けた。家定は腹心の老中阿部正弘によって父の醜悪な強制から逃れ、御台天璋院を迎えることができた。


自分を天下を取る器だと信じてついてきてくれる腹心が家定を強くし、




自身を卑しめるようなことを言わずにおれない家定を天璋院は上様は忍耐と知恵で地獄を潜り抜け、将軍の座にあると伝える。



19巻で滝山の養子になっていると告げられ、即座に走り出す仲野。

このエピソードに4代将軍綱吉を思い出す。生類憐れみの令の犠牲で許嫁を犬に咬み殺された男が夜伽に紛れて綱吉を殺害しようとし、右衛門佐の機転で綱吉は助かったが、疲れた、ひとりになりたいと告げた瞬間、右衛門佐はあなた様は自害なさるおつもりだと見抜き、自分自身の存在意義を失って疲れていた綱吉に、生きるということは、男と女ということは、ただ女の腹に種をつけ家系を繋いでいくこちではない、と強く言い、初めて愛を告げる。

仲野と滝山は主従愛ですが、大切な誰かが死を選ぼうとしているのを察知して必死に止めようとするエピソードとして重なったであります。


初期の有功が周りから酷い嫌がらせを受けていた時、澤村が素振り1000回という凄惨なシゴキ をしたおかげで周りの有功を見る目が変わったことは、男娼上がりで女の仕草が抜けない滝山に激しい稽古をつけた吉川のおかげで、滝山が周りに溶け込めたというエピソードに重なる。

お万(有功)の方好みの流水紋はこの物語で繰り返し出てくるけれど、流水紋のように少しずつ変奏を加え繰り返されるエピソードに、

歴史は繰り返されるという言葉と、繰り返しながら少しずつ上昇していくものの姿を感じる。




坂本龍馬の後ろ姿で語られるこの言葉はまるで家光流の皮肉の響きにも聞こえなくもないが、女将軍の中でも、もっとも心優しく人を信頼する気質だった14代家茂のような心で発された言葉だったら。

男女逆転大奥という荒唐無稽な設定を見事に現在に着地し縫い跡がわからないくらいきれいに縫合した「大奥」。

19巻16年を最初から一緒に長い長い旅をする様に読んできた人にもこれから読みはじめる人にも、きっと自分の聞きたかった言葉が見つかった!という場面があり、「大奥」は江戸時代を描いて現代にも通じているんだなと感じられると思います



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ではでは♪