みゆきさんの「夜会」がBunkamuraシアターコクーンではじまったのは1989年。
 
89年の夜会は映像化しなかったけれど、みゆきさんの対談やほかの人がみゆきさんについて書いている文章などで、
 
「十二月」の歌で窓から飛び降りる衝撃のラスト、ということは知っていました。のちに「夜会の軌跡」で問題のシーンを見た気がします。ご当人が対談かインタビューで中学時代陸上部だったのが役に立った、とおっしゃっていました。ベリーロールで窓の外に飛び降りるわけです。そういえば「夜会1990」でも歌われた「ショウ・タイム」にも、
 
私特技はハイジャンプ私苦手は孤独
 
とあるので、陸上部では走高跳の選手だったのか?
ちなみに高校では天文部だったという過去が「夜会vol・4 金環食」において活かされている…

 

 

と、話はずれてしまいましたが、この「リトル・トーキョー」は夜会30年20回を織り込んだ、ミュージカルの要素の大きい作品でした。

 

夜会公演一覧(Wikipedia)

 

舞台は厳冬期は営業を休む北海道の山間にあるクラシックホテル(というものがあることをこのチラシで知りました)。

 

みゆきさんは両親からそのホテルを引き継いだ女主人アンヌ。エンドロールで確認したら、

 

大熊杏奴

 

…おおくま。アンヌとの乖離がすごすぎる。

 

片足が少し悪い、おそらく先代の頃からの支配人らしい男性から旦那様に電話をかけるように言われて、しぶしぶ電話をかけるシーンがある。

 

ふーさん、とアンヌはいい、事情がまだはっきりしていないので、

アンヌはふーさんの2号さんなのか?と思ったりする。「シャングリラ」はそういう設定だったし。そもそも舞台が北海道と知っていても、名前はアンヌだし、髪は栗色だし、なぜかヨーロッパの社交界デビューみたいな本気のドレスだし、事情がのみこめない。

 

誰もいない隙に舞台にたって、「リトル・トーキョー」「野ウサギのように」を可愛らしいフリで歌って踊るアンヌ。全体に可愛い。セルフパロディっぽくもある。「夜会vol3KANTAN(邯鄲)」ではOLが2次会のカラオケで「わかれうた」を熱唱する、という場面があったのを思い出す。

 

そのうち銀色のミルク缶を運んでくる体のしっかりした男(石田匠)が現れる。近くの及川農園の農園主だとのちにわかる。ゴム長靴に作業着で、ワイルドである。及川と一緒にやってくる緑色のエプロンにゴム手袋の女はのちにわかるが、獣医の手伝いをやっているようだ。手術着みたいな緑色のエプロンなので、なんだろう?と思っていたのだ。みゆきさんの夜会の常連で、「2/2」ではみゆきさんの双子の妹を演じた植草葉子さんだった。夜会のメイキングではみゆきさんのアンダースタディもやっていたなあ…。

(ファン歴が長いのでいろいろ重ね合わせて脳内は大忙しである)

 

男はホテルのパブにあるステージ「リトル・トーキョー」に慣れた感じで乗り、力強く歌う。

ここから一転して賑やかになる。アンヌの姉、リズ(李珠 杏と李の姉妹である。「2/2]の茉莉と莉花のジャスミン姉妹を思い出す。こっちは全然似ていないけど)が登場し、生き生きと歌い踊る。全身から虹色の光が出ているような明るさと華やかさ。シンガーソングライターの渡辺真知子である。「ウィンター・ガーデン」では谷山浩子が登場していたけれど、この渡辺真知子のリズはまるでミュージカルかステージを見ているようだ…っていやステージではあるんですけど。

 

やがてホテルはクリスマスイブを迎え、みんなでツリーの飾りつけをしている。歌われる歌は、みゆきさん2曲目のクリスマスソング(なのか?)「LOVER ONLY」である。

 

メリークリスマスが繰り返し歌われる、浮かれる街の中でひとり若れた「あなた」の言葉を繰り返し思い出している…そんな歌ですが、聴いているとなにかハッピーな歌のような気になってくる不思議な歌です。ちなみに中島みゆきによるクリスマスソング第一号は「クリスマスソングを唄うように」で夜会に先駆けて1886年両国国技館で開催された「歌暦Page86 恋唄」で歌われ、のちにCDに収録された。考えたらこの「クリスマスソングを唄うように」は夜会っぽい歌だったし、歌い方もすでに夜会がかっていたと思う。

 

「夜会vol2」の失恋したOLがさまようシーンに流れても合いそうな感じだった。クリスマスパーティのプレゼント交換でおめあての男性の持っていた小さな包みのリングはもらえず、子どもっぽい大きなうさぎのぬいぐるみを抱えてふらふら歩くのだった。

 

クリスマスの飾りつけが閉鎖中のホテルで楽しく行われている間に密猟者があらわれたという知らせがはいった。

 

密猟者はアンヌが寒さのあまり巻いていたマフラーを椅子から盗む。なぜそんなことを、と思ったけれど、いまわかった。

 

アンヌは舞台の始まりの方で、仕事のため東京に離れて暮らしているふーさんに電話で、白い大きな山犬がいて、氷柱と名付けたこと、氷柱には3頭の子犬がいて、一番大きな子には吹雪、2番目の女の子には霰、そして末っ子の小さな子には小雪。小雪はおしりのあたりに雪の結晶のような模様があるというのだ。

 

及川も吹雪にやってくれ、と鹿肉のアラをもってくるくらい、アンヌが山犬一家を可愛がっていることは知られていた…。そのアンヌのマフラーをおとりにして、密猟者は山に入るのに邪魔な山犬一家を撃ち殺したのだろう…

 

猟銃の音に吹雪を心配して外に走り出るアンヌ。その時、猟銃の響きで雪崩が起きて、アンヌは行方不明になった…。

 

ここまでが1部。

 

もっと歌のシーンだけなのかと思っていたら、いつものみゆきさんらしい物語が底にあり、しかし、「24時」や「今晩屋」のような一度見ただけでは何のことかわからないというような難解さはなく、2部ではアンヌとリズの両親の死が誰によって仕組まれたものか(このあたり「海嘯」を連想させる)、アンヌの夫であるふーさんが大熊家のホテルを乗っ取るためにアンヌまで亡き者にしようとしていることや、「おまえの母親まで一緒に養ってやった」という兄の声(声の出演は泉谷しげる)から、

 

どうやらふーさんは長男である兄とは違う母親の子であり、おそらくは正式な妻の子ではないという出自だったと推測できる。東京の料亭で障子のこちら側に背中を見せて端座している芸者がいて(それが植草葉子演じる獣医のアシスタントの女性が北海道に来る前の姿だった)、

 

ふーさんを密かに愛していた彼女はアンヌを助けるべく、店をやめて北海道に移り住み、大熊ホテルに出入りするようになった。

そしてこのシーンから、ふーさんの母親もまた芸者だったのではないかと考えられる。そんな説明はどこにもないが、そんなふうに取るのが自然な気がした。

 

雪崩で死んだと思われていたアンヌは雪にまみれて真っ白なドレス(これが紅いドレスとまったく同じデザインのようだった)で発見される。吹雪の末の子、小雪(香坂千晶)を連れて。小雪は子犬なのだが、歌と踊りを教えられ、やがて一緒のステージに立つ。

リトル・トーキョーのステージでリズ・アンヌ・及川・元芸者(もう芸者時代のきものに扇子である)、吹雪が楽しく踊って歌う「リトル・トーキョー」。

 

最後に白いドレスのアンヌはじつは雪崩ですでに死んでいて、幽霊だったとわかる。アンヌは愛する夫と彼を愛していた芸者のふたりの愛を見届けて、あの世に還っていく。

そしてカーテンコール。

 

印象に残った歌は、キャスト全員による「二隻の舟」。

 

おまえと私はたとえば二隻の舟

 

ずっと「おまえ」と「私」という二人の世界を歌っていると思っていたけれど、もっとひろく、「おまえ」は「おまえたち」であり、「私」も「私たち」のイメージで歌っているように聴こえた。あとはやはり「テキーラ―を飲みほして」。

 

みゆきさんが夜会をはじめた頃は、ご本人も10年とおっしゃっていて、まさか30年もつづくとは思っていなかったと思う。6回目の「花の色は」のときに、「折り返しだから」とメイキングでも口にしていたし。

 

「劇場版リトル・トーキョー」を見ながらいちばん考えていたことは、自分が30年続けられていることってあるだろうか、30年も続けて飽きず、ずっと挑戦しつづけることは可能だろうか、そんなことです。

 

なにかをずっと続けることで見つけることができる。

 

たとえとしてはおかしいけれど、青い鳥を見つけに出かけるより、いまやっていることを続けていくことの方が冒険なんじゃないか。まあなにかを新たに始めることも冒険ではあるんだけど、そのあとその冒険から降りないでずっと歩き続けるという方が難しいことのような気がする。

 

 

ではでは♪