『ルイズ・ブルックスと「ルル」』大岡昇平 (中央公論社) 1984年

もう36年も前の本がヤフオクで手に入って驚きです。初読は21歳ですから、その時の自分には読み込めていなかった部分もありますが、




大岡昇平さんが伝えたかったのはルイズ・ブルックスの表情変化の多様さ、多彩な魅力。四方田犬彦さんとフィルムセンター版「パンドラの箱」から四百枚の写真をとり、その中から本書に選ばれた写真群。







大岡昇平さんというと『野火』を連想される方も多いと思いますが、

その頃読んだ天沢退二郎さんの『「中島みゆき」を求めて』だったか、べつのエッセイで、大岡昇平さんの『成城だより』に中島みゆきについての言及があると知って、私が最初に読んだ大岡昇平は『成城だより』だった気がします。って言ってももう36年前なので曖昧ですが。



エッセイや評論の明晰で若々しく時にミーハーな大岡昇平さんがイメージの中心かなあ。推理小説は元々好きなので『事件』とかメロドラマも好きなので『武蔵野夫人』とか、自伝的小説の『少年』とか…『野火』や『俘虜記』はだいぶ後になって読んだと思います。

この本でも大岡さんのこだわりのなさは眩く、ルイズ・ブルックスのボブについて桃井かおりや「コールガール」のミーちゃん(ピンクレディー解散後だった)についての言及があり、さすが!と喜ぶ。少女マンガにおけるヘアスタイルやルイズの太めの腿について「渡部絵美ちゃん」が引き合いに出される。文章は脱線しつつも知性的でやんちゃで若々しい。

「ルイズ・ブルックス讃を思いのままにやる」文章なのだけれど、

大岡さんのスクリーン・ラバーは「ブルックス、ローレン・バコール、ミレーユ・ダルク、アンナ・カリーナ、ジーン・セバーグと男の子みたいな美女の系列を辿っている(ジャンヌ・ダルクを入れてもいい)。」というところがまるっきり自分の趣味と一緒で、だから読んでいて気持ちがいいのかもしれない。




緒川たまきは中原淳一的美少女めいた潤んだ大きな瞳なので、ルイズとはタイプが違うはずなのに表情に似たものを感じて、並べてみました。

きょうは店に黒髪のおかっぱの鳥子さんがきてくださったので、そうだ!『ルイズ・ブルックスと「ルル」』について書こうと思ったです。

私がルイズを知ったのは、





「ギャルズライフ」という当時の言葉で言えばツッパリ・スケバン御用達の感のあった雑誌のムック本『がんばらなくちゃ美人になれない』で、この映画の中の美女たちについての文章は中野翠さんだ。

(本誌とムック本があまりに違うので、本誌を飾るあの黒いマスクにカーリーヘア、足首までのスカートという不良少女たちの写真は私の妄想?とさえ思う)

次に金井美恵子の『文章教室』(1984)でルイズに似た人形作りをエコール・シモンで習っているユイちゃんに出会って、本書に出会い、ああユイちゃんってこんな感じなんだなあと。
ユイちゃんは「現役作家」を振り回す若い美しい女の子で、意地悪なところや男の子のように構わない感じもあって魅力的。なぜ現役作家と付き合っているんだろう、という感じだった(もちろん爽やかに去っていく)。

本書の膨大で魅力的な写真を眺めているだけでしあわせな気持ちになれるのである。