『グッドバイ』ケラリーノ・サンドロヴィッチ(白水社)

太宰治の『グッド・バイ』を元に(何しろ太宰治の作品は40Pほどで終わっている)、

女にだらしない作家が謎の怪力で大食いで化ければ楚々とした美女(ただしカラス声)と組んで愛人たちにグッドバイを告げて歩くというドライな味のユーモア小説を、

2015年仲間トオルと小池栄子で上演している。

その舞台が好評だったため映画化されたのが、



『グッドバイ 嘘からはじまる人生喜劇』で、田島を演じているのは大泉洋。

舞台も見たかったけれど、映画を見ることができてよかった。

昔から好きな小説で、でもあんまり知られてないのかなと思い、自分だけが知っている…と思っていた犀星の『蜜のあはれ』が映像化された時もやられたと思ったけど、『グッドバイ』にはやってくれたという気持ち。ほんとうは自分になんらかの表現方法があったらマンガか映画にしたかった。そのくらい好きなんですよ。自分の無能が苦しいわん。

好きな作品や作家が大人気になるのは嬉しいけど一抹のさみしさがありますよね。


バカにしないであたしこれでも綺麗好きだわ、とキヌ子が趣味のいい瀟洒な靴やドレスやアクセサリーの小部屋を田島に見せる場面が小説を読んだ15、6から大好きで、あまりに私の中で豪華絢爛になっているため映画でも申し訳ないが物足りないくらいだった。

シナリオではキヌコ子の変身!の要塞は見せられないままみたい。それとも舞台ではあったのかな?

小説のイメージではキヌ子は華奢なくせに怪力でカラスのような悪声で下衆なことばっかり云うし吝で意地悪なんだけど、何しろ化ければとんだお姫様でその上怪力なので女たちにグッドバイを告げに行脚する相棒としては断然頼もしい。

映画のキヌ子は親に捨てられ一人で生きてきた過去があり、過酷な人生を逞しく切り拓いてきた野性味のある美貌は小池栄子がぴったりだった。

本に戻って上演の記録を見たら、

映画では戸川恵子が演じた易者が池谷のぶえで(6役)、
『キネマの恋人』の緒川たまきは映画でも出ていたけれど4役。

そして草壁よし役が『ねじまき鳥クロニクル』の脇田麦。

おもしろい偶然だな〜と思ったのは、「あとがき」でケラさんが、

最も悩んだ第一部の結末とその2年後の第二部の入り口で、

前年に主宰劇団ナイロン100℃で上演した岸田國士作品(のコラージュ)がよぎったということ。

じつは映画『グッドバイ』を見にいく直前に、

新年狂想曲』『恋愛恐怖病』の2つの岸田國士短編戯曲を観ていたのだ。

岸田國士のお嬢さんである岸田今日子の大人のための童話が好きだったけれど(「ムーミン」も好きだった)、お父さんである岸田國士の戯曲は2年ほど前にやっぱり盛岡の劇団が上演した作品を観ただけだった。これがすごくよくて、上演を機に岸田國士の戯曲を読んだのだった。

ケラさんのあとがきで「紙風船」というき岸田國士の作品を知ったので今度はこれを読もうと思う。

最近、舞台と映画と本が繋がりあって楽しい。活字だけしか知らなかった時代が長いので、世の中がいきなりカラフルになった気がする。