『やっぱ志ん生だな!』ビートたけし (フィルムアート社) 2018年6月25日初版

図書館の落語の棚にあって、「いだてん」の志ん生を演っているしなあで借りてきました。


たけしの本は、「たけしくん、ハイ!」と「バカ論」を読んだほかに、週刊ポストの連載を読んでいたくらい。

映画は話題になった「キッズリターン」と「菊次郎の夏」、たぶんあんまりヒットしなかった「アキレスと亀」。ピカソと芥川龍之介の「地獄変」をぶっこんだようなストーリーだったけど、

この本を読んだらあれも落語だったのかなと思えた。たけしの芸論というか芸についての話は素人にもよくわかって面白い。

「たけしくん、ハイ!」はドラマ化も舞台化もされているけど、強烈な教育ママというほかにたけしのご母堂が志ん生ファンで話し方が志ん生そっくりで、だからたけしの喋り方も志ん生に似ている、と言われることになったと。

たまたまだけど、「師匠歌丸」の桂歌助さんも理工系出身だった。おふたりともそれぞれ歌丸師匠、志ん生に惚れていて、その細かいところまでよく見て書いているのは、理工系だからでしょうか。あまり詳しくない人間が読むのに、すごく読みやすく楽しい読後感が共通している気が…ってたぶん自分の理数系コンプレックス笑。


志ん生の「黄金餅」を「その男、凶暴につき」でカーラジオから流したこともあるという。どんだけ惚れとるんじゃ。自分はほんとうに暴力が嫌いなので暴力的な映画はまず見ない(岩下志麻の啖呵が聞きたいので極妻は別)んだが、これを知るとちょっとそこだけ観たいなあと思う。

白竜が演じた殺し屋のカーラジオから「黄金餅」の道中付けをハマるだろうと思って流したといい、さらにこの道中付けを少し今風にして、

「下谷の山崎町を出まして、それから上野の山下に出て、三枚橋を渡ると上野広小路、アブアブの横を通り、」というネタをつくったこともあるーというように、たけしは落語をかなり取り入れている。

落語をやった時に「道具屋」に「火焔太鼓」をくっつけたような噺をして談志に「なんだお前の落語、志ん生師匠みたいだな」と言われたりもする。


この本は全編読んでいるとその噺聞きたい!となるんだが、巻末に「本書に登場する主な落語」とその落語についての「たけしコメント」がある親切な造りになっている。

「富久」について、

志ん生の得意ネタの一つ。一九六四年十月十日の東京オリンピック開会式の日に、三越落語会で演じた。

という注釈があり、「いだてん」ファンとしては、

ざわざわした。

たけしは終章「おわりに 勝負の行方」で、

「ふらっと客前に出てきて「たけしは出てくるだけで、なんか面白いな」と言われるところまでいけるか。この先、オイラと志ん生さんとの残された勝負だろうね。」と閉じている。


「いだてん」の東京オリンピック、ある意味たけしと志ん生の勝負だな、と思ってすごく楽しみ!