息子が買ってきた肉を放出中。
きょうは豚の塊肉5、600gがあったので、気は進まなかったけどおちおう、選択肢として、
酢豚がいい?
ポトフにする?
と聞いたらポトフがいいと言ってくれる。わかってらっしゃる。
ポロネギじゃなくてネギだし、カブじゃなくてダイコンだけど、
ローリエ、クローブ、ペッパーを入れて、ゲランドの塩を揉みこんだ豚肉を鍋に入れて、
オンザストーブ。
ポトフは高校時代ハマっていた倉橋由美子の『暗い旅』に、失踪した「かれ」と主人公の「あなた」が「西洋おでん」と呼んでよく作っていた料理として出てくる。
いまではポトフはラタトゥイユとかブルスケッタとかチーズフォンデュとかアヒージョとかカンパーニュと同じくらい、誰でも知ってる料理名で、
和風ポトフという言い方をするくらいになっている。
『暗い旅』は「パルタイ」でデビューした翌年の1961年に発表され、盗作か下敷きかで議論を呼び、江藤淳と論争になった…というのを1979年の高校生は知っても、ネットもない時代なのでその論争読みたい!と思ってから実際に短大の図書室で文芸雑誌を読むまで数年かかるのでした。ああまだるっこいしい時代だったわ。
あまりに期待しすぎていたので、
論争は思っていたよりつまらなかったし、それから少しして就職して一人暮らしになり、父に買ってもらったアルミのズンドー鍋で作ったポトフはただ野菜と肉を煮ただけの手抜き料理にしか思えなかった。スパイスは高校時代から乏しいお小遣いでよく買っていたので間違いなく入れたのだが、なんというか、もっとステキなものをイメージしていたのだ。
倉橋由美子の小説がすきなあまり、モンクのLPを買ってでもステレオがないので祖母のポータブルレコードプレイヤーで聴いていい気になったり、
意味もなく喫茶店に入ってみたり、
『聖少女』に出てくるサド侯爵を読んだりシュールレアリズムの絵を高校の図書室の画集で見たりしていた。うーんなんか貧乏ったらしいという気もするが、楽しみ方としてはすごく楽しかった気がするのでいい。
京都の修学旅行はまさに『暗い旅』の舞台なので、胃袋を裏返しにして川で洗って来たいと思うくらい乗り物酔いが激しい私だったが、野中ユリのカバー装画の新潮文庫をぎゅっと握りしめて、旅行を楽しんだと思う。
というようなことを、ポトフをつくると3回に1回は思い出す。