『路上のX』桐野夏生 (朝日新聞社)

ネットで桐野夏生さんのインタビューを読んで、一刻も早く読みたくなってポチりました。

西川真以子さんの挿画がカッコよくて、単行本で買ってよかったです。原画展が少し前まであったことをいま西川さんのツイッターで知って残念ですが。

女子高生の物語ということで『リアルワールド』が頭にあったんだけど、『OUT』に似ているところも多い。

登場する三人の少女、だけどほぼリオナと真由のふたりについてで、リオナの幼なじみのミトは『OUT』でいえば邦子(映画では室井滋が演じていたけど、小説の邦子はもっと救いようのないグロテスクな欲のかたまりである)。

DV夫に臨月の腹を蹴られ、気がついたら夫を指していたふだんはおとなしい弥生にも重なる。ミトは妊娠していて中絶費用が必要だった。

リオナは雅子だろうか。17で妊娠出産中退でヤンキー同士の結婚をした母親の4度目の夫からのレイプ、娘より夫の機嫌が大事な母親。父方の祖母は小さな飲み屋をやっていて生活は苦しかったがリオナを高校にやろうとしてくれていた。が、火事で愛犬のプードルもろともの焼死。頼れるものは何もなく、家には帰れず、JKビジネスでかろうじて生きている。JK散歩といっても実際にはオプションと言う名の売春もある風俗業だった。


真由はある日いきなり両親が経営する飲食店が潰れたからお前たちは迎えに来るまで親戚の家で待って、ということになった。弟と離され、キツイ暮らしをしているところへ預けられたことで叔母から虐待のような扱いを受け、ひもじさと惨めな日々に耐えられなくなり、アルバイト先のラーメン屋を経て路上に出た。

生まれつきの寄る辺ないリオナと、そんなリオナから見れば育ちのいい(この言葉はなんでも繰り返される)真由はある日出会い、互いの傷の痛みから結びつく。

一方リオナの幼馴染のミトも散々な目に遭い続けリオナを頼ってやってきて、3人の居場所のない少女たちは架空のお家ごっこのような大学生の家で共同生活を始める…。

すべてが破綻に向かうに決まっている危うい仕事であり人間関係ばかりだが、たとえ蜘蛛の糸だとわかっていても、底に縋るフリでもしなければ生きていられない、そんな少女をどうやれば救えるのか。

『グロテスク』ではお嬢様校に潜むいやらしい差別意識と、エリートキャリアウーマンでありながら強迫観念に憑かれて立ちんぼを続ける女性が描かれていたけれど、彼女は殺されてしまう。

真由もリオナもミトも物語が終わっても彼女たちの戦いは続くのだろうと思う。

桐野夏生の小説は主人公が60代の専業主婦でも40代のパートの主婦でも、みな傷つけられた少女であって、この世界に抗議し続け、終わらない戦いを戦いつづけている。もちろん、戦う者たちである読者と共に戦っているのだ。