名前をうばわれた少女 わたしはエファじゃない
ジョアン・M・ウルフ/作 日当陽子/訳 朝倉めぐみ/絵 (フレーベル館)
この本は先週の「本の楽しさをてわたすーブックトークへの誘い」杉山きく子氏講演で紹介されたもので、もしこの講座に出ていなかったら読んでいなかったと思います。
ドイツ純血主義については『ひまわりの森』トリイ・ヘイデンが思い出されます。
主人公の母親は少女時代にアーリア人らしい特徴を持っていることで選別され、張る乳房から溢れ出る母乳を隠そうとしたばかりに、母性がないと決めつけられ産まれたばかりの赤ん坊を取り上げられてしまいます。
少女は戦後結婚して子供を産み育て、幸せな生活を送っていたはずですが、心を病み、事件を引き起こします…
副題「わたしはエファじゃない」とは、ミラダという少女がエファというドイツ人の名前をつけられ、ドイツ人教育を受け、ドイツ人の家庭に養女として引き取られる物語だからです。
ある日突然ナチスが襲って、村人は男たちと女子どもに分けられ、男たちは農場に送られ、銃殺されてしまいます。この物語はミラダの視点から描かれているので、ミラダが事実を知ったのは戦後、彼女を迎えに来た国際赤十字の女性からでした。
ドイツ人化教育を受ける中で、教えについていけない子どもはほかの施設に送られてしまいます。それは死を意味するのですが。
ドイツ人一家の中で暮らし、かつて自分が暮らしていたチェコスロバキアの村やチェコ語を忘れそうになるのを必死で食いとめようとするミラダ。
実際にあったチェコのリディツェ村で起きたナチスによる殺戮とドイツ人化計画を基にした物語ですが、作者は実際にこの村(の跡地)を訪れ、生存者4名に話を聞くことができました。そのあとがきは作品と同じくらい衝撃的でした。
ブックトークのテーマは「もうひとつの名前」でした。
カバー・挿画の朝倉めぐみさんの絵は昔読んでいたCREAでよく目にしていて、かろやかでお洒落な線だなあと思っていましたが、ここで再会するとは。『ブリジット・ジョーンズの日記』のイラストもすきだったなあ。
紙に刻まれた文字と書物の物理的な重さが、なにかを残していく気がします。
ではでは♡