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レジより愛をこめて 曽根富美子

週刊モーニングを月イチ買っていた頃、連載の3回目の「レジより愛をこめて」に出会いました。

曽根富美子先生と言ったら、骨太の人間ドラマを描くマンガ家、のイメージだったので、主人公レジノさんの周りのパートさんたちやお客さんの中に、あー、確かに!というキャラクターはいたのですが、

あんなにたくさんの読み応えのあるマンガを描いてきた先生がなぜレジ…単なるチャレンジ?

と疑問だらけでした。

疑問は単行本を読んですぐに解けました。出版不況と心が疲れて動けなくなった、このふたつが重なってお金がなくなり、知人の言葉でレジへ。

レジで過不足を出してしまった時のおちこみや、金券やビール券の処理の仕方や焦ってミスが重なること。レジをやったことのある人間なら、胸の痛くなるような懐かしさと共感を覚えるのではないでしょうか。

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もうひとつ、レジノさん(曽根富美子先生)にはマンガ家として、採用され連載につながる作品を描きたいという思いがあり、

一歩ずつ成長していくレジノさんですが、本業のマンガはなかなか採用されず時間も作れず、時に落ち込みます。

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50代になって、それまで自分のフィールドで認められていた人間がまったく未知の、どちらかというと苦手なことを仕事としてやる厳しさや辛さ。

レジノさんは同時入社のイズミちゃんと励まし合い、同僚たちとも先輩たちとも付き合っていきます。マンガをまた描きたいという自分のことも、悲壮にではなく、一歩引いて読み手が笑えるようなヌケをつくっている。

レジノ星子さんのことを言っているのか、曽根富美子先生のことなのか、混然としてしまうのですが、読んでいるときは自分がレジノさんになり、レジノさんを見守る気持ちにもなっているので、

自分のこととして読んでもいる気がします。

連載を読んでいた時私は定職はなく、生協のレジで週5働くレジノさんが眩しかった。棒金をぶちまけても、なぜか操作ミスで小銭が噴き出しても、張り出されるレジスターの成績で最下位に近くても、リアルな暮らしに憧れていた気がする。


現在、パン屋になって思うのは、なにをあんなに恐れていたんだろうということだ。

パン屋を開くまでには、いろんな出来事やひとの言葉が背中を押したわけですが、

毎日恥をかいたり傷ついたり自己嫌悪に陥ったりする、リアルな暮らしをしたいというのもその中の一つだった気がする。

定職についていなくても、様々に刺さることはあるんだけど、あの頃、逃げられない仕事で傷ついたり悩んだりしたいと思ったんだよね。

現在まさしく逃げ場のない自営業をやっているわけですが、日々自分の心は鍛えられているなーと思い、『レジより愛をこめて〜レジノ星子』を読み返すのであった。