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『脳が壊れた』鈴木大介 この本の著者による紹介をネットで
読んで興味はもっていたのでしたが、
 
美術館のショップでみかけて、あ、あの人の本だ、と思って手に取り、
読み始めたら止まらないので、その後パティオに移動して読みました。
 
マンガの原案をやっているだけあって、すごく読みやすい。読ませる。
41歳という若さで脳梗塞になったライターの鈴木さんが、リハビリを経て、
それでも思うようにならなくなった脳みそと体に苛立ちながらも、いままでの自分だったら気づかなかったひとの気持ちに共感するようになり、自分で自分がなぜ脳梗塞になったかを腑分けしています。その馬鹿正直なまでの自分のさらけ出し方がカッコいいと思ってしまいました。
 
脳梗塞になる前の鈴木さんは、脳梗塞にならなかったらうつ病になっていた気がします。
なんでも背負い込む体質で、職場でも家庭でも、自分がやった方が速いとなると親切心からその仕事を自分がやってしまう。
 
奥さんの千夏さんは私も身近にいいサンプルがいるのですごくわかるのですが、ADHDでLD児でもあり、高い知能はありながら、いいサポートを得られず、家庭においても母親がすべて先回りしてやってしまい(もちろん千夏さんを大事に思えばこそなのですが)、結果として自分に自信がなく、家事が苦手で典型的な片付けられない女の子として育っています。
 
読んでいると、なんでも自分でやりたい、自分のやり方がいちばんだと思っていた脳梗塞以前の鈴木さんも、
 
手際が悪いと家のことをすべてひとが代わりにやってしまって、そのためなにもできない(でも手際が悪くてもおいしい料理をつくるし、時間がかかってもきちんと洗濯物をたたむ、そういうところもある)千夏さんも、
 
どちらも私のなかの一部分だなあという気持ちになり、
 
「週刊モーニング」に連載されていた「ギャングース」の中にも鈴木さんや千夏さんのカケラがあった気がしてくるのでした。
 
もともとなんで脳梗塞について本を読もうと思ったかと言えば、美術館の常設展示室にある舟越保武が脳梗塞に倒れたあとも作品をつくりつづけたことからで、
 
脳梗塞って何?
 
と思っていたこともあります。
 
脳梗塞という病やリハビリのくだりのディティールもひとつひとつが絵になって見えるほど、興味深かったのですが、
 
脳梗塞になってはじめて、それまで自分が取材してきた貧困女性のことや発達障害のことを実感として理解できたところに打たれます。また、私自身も発達障害じゃないのかなーと思うようなタイプだし、息子はもろに発達障害だし、貧困シングルマザーについての著者もある鈴木さんですが、私も考えてみたら貧困シングルマザーだった時期があり、ところどころ刺さるようだった。
 
でもそれって私が特別なんだろうかとも思うわけですよ。
 
誰の中にも鈴木さんや千夏さんのカケラがあり、脳梗塞予備軍でもあり、発達障害に気づいていないまま、生きにくさを感じているひともいるのかもしれない。
 
脳梗塞だけではなく、誰にとっても、自分の性格のこわばりというか癖と家族や職場との関係など、自分について腑分けするきっかけにもなる本だと思いました。