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第19回文化庁メディア芸術祭マンガ部門にて優秀賞を受賞した作品です。

私は『自虐の詩』でファンになったのですが、これは線もストーリーもスマートに洗練されていて、あれ?と一瞬思ったのですが、エピソードのひとつひとつに込められた愛がやっぱり
『自虐の詩』の業田さんだ!と思わせられました。

ロボットと人間をテーマにした小さな物語集なのですが、いずれにも、ロボットの向こうに、
同じ人間を人間扱いしないものへの批判、家族愛、生きる喜び、尊厳などについて考えさせられます。

優秀な刑事ロボットと彼を愛する上司の物語です。

読書好きで、仕事では熱く、しかし上司の指示を素直に受け入れる、そんなボノボが
まさかの偽札作りで逮捕され、困惑する刑事。

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偽札をばらまくことで、明日にも死ぬかもしれない人や、空腹のひと、苦しんでいるひとを助けたかった。後悔はしていません、というボノボに下された刑罰はあまりに残酷でした。

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記憶を消され、存在をなかったことにされるより残酷な罰。
それは虫にされること。

ボノボの優しさも知性も、尊厳も、すべてが踏みにじられるおそろしい刑罰。

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優しさが罰せられ、知性は疎まれ、ただ従順であることだけを求められるロボット。
ボノボのために泣いている刑事は、ボノボがあまりに人間に寄り添いすぎたために受けた罰を涙しているのでしょうか。自分がこの刑罰を決めた人間とおなじ、人間であることに涙しているのでしょうか。

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育児ロボットのお話も出てきます。

彼は病弱な奥様を助け、家事に育児に尽くすロボットでした。

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しかし、不慮の事故から元気だった女の子が亡くなり、遺された母親は、どうかこの子のことを
忘れないで、とロボットに託します。

しかし、彼は二十数年後、すっかり廃れた体で重労働を課せられ、
いまにも壊れてしまいそう。

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そんな絶望の中、彼は一筋の光明をみつけ、遺されたすべての力を注ぎました。

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それは自分のICチップをあらゆる家電に組み込むこと。修理されてそれぞれの家庭にもどった家電から、人々は一瞬、あの奥様と女の子とロボットの幸せだった記憶を幻のように体感するのでした。

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アンデルセンの「マッチ売りの少女」のように、家電がもたらす幻を夢想しながら、彼は機械の人生を終えてしまうのでした。

ロボットたちは愚かで未熟な人間を精いっぱい愛し、尽くしてくれます。

どのエピソードも紹介したいくらいなのですが、劣等ロボットのエピソードを。

劣等、からレット―というあだ名で呼ばれていたロボットは、じつは優秀すぎるロボットの店長に人間が反感をもたないよう、バランスとして劣等にプログラムされたロボットでした。
ロボット店長から、他店でプログラムを書き換え、店長ロボットになる道を示された劣等ロボットは、この店が好きだからここで働きます、と言い切り、ぼくは心まで劣等じゃない、と胸を張ります。

この劣等ロボット、という矛盾した形容に(ロボットのような、という言い方は良くも悪くも、人間離れして正確だとか能力があるという意味でつかわれますから)、もちろん、あのネコ型ロボットのドラえもんを連想するのですが。

ドラえもんがポケットから次々取り出す未来の秘密道具に似ず、じつはロボット工場の落雷がもとで劣等ロボットとして製造されてしまったというエピソードとか。
のび太君は劣等生だったけれど、そののび太君を救ったドラえもんは決して優秀なロボットではなかった。ドラえもんだからのび太君と友達になれた。
そんなことも連想しました。
ロボットたちは能の面のように、かすかにしか感情をみせませんが、その奥に隠された人間より繊細なさざ波のような心に、ロボットのように優しい人間になりたい、と思った私です。