もりげき王2日目(11/26)の記事です。
観客投票が大きくモノを言うもりげき王。
2日目の観客数は54名でした。
審査員票は1人18票となります。
ご覧のように投票用紙の右上にナンバーがふってあって、くらもちひろゆきさんが1組目の幕前にお話をしているタイミングで、
観客数をメモした紙が手渡され、きょうの観客数発表。もりげき王はスタッフの方が全員劇団の人なので、その仕草もコミカルでおかしい。
1日目もベテラン2名に若手1名でしたが、
2日目もベテラン2名に今大会最年少の大学生1名。キャリアの長い順の発表です。
☆高村明彦(現代時報)
「ibc」
キャスト 三好永記(現代時報) 福島史絵(九月とアウラー) 榊原明徳(現代時報)
盛岡市内にある、IBC岩手放送を想起させるタイトルですが、幕が上がって飛び込んできたのは、
学ランに鉢巻の応援団員と、中央に枕がふたつ並んだ布団、奥に大きめの椅子というシュールな場面。応援団員の若者は誰かにエールを送っているようなのです。
新婚さんがんばれ的なシチュエーションか、と思う間もなく、
介護される男性(紙オムツで一切体を動かせない)と、彼の介護をつとめる女性が登場。
「トオル先輩とルル先輩を応援」する応援団員タカシの張った声が高校時代のふたりの輝きといまのふたりを伝える。
物語の意図と離れて、介護を受ける人、介護をしているひとへのエール、と受け取って、瞬間、暖かいものに包まれる。
タカシの声はほんとうの応援団のものではなく(腹の底から出ていない)、そこに、ふたりのための応援団になりたい、という気持ちが伝わってくる、切なさがある。
ibc、それは岩手放送ではなく、アイスバケツチャレンジ。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)への一般の認識を広めるべく、著名人が氷の入ったバケツ一杯の水をかぶるかとALS協会に寄付するというイベントが2014年に話題になったが、
ルル先輩が行ったアイスバケツチャレンジの様子がスクリーンに流される。
この動画のなかのルルの屈託のない笑顔とタオルをかける友達。その爽やかで青春を感じさせる画面。
布団のなかでトオルに話しかけるルル。
トオルが突然跳ね起き、駈け出す。ハイニーランニングで走り続けているのだ。市内一周継走(盛岡に実在の大会です)で輝かしいランナーだったトオル。ルルの夢の中でどこまでもどこまでも笑顔で走るトオル。
トオルはルルの夢の中や、タカシの夢の中で走り続ける。笑顔で。年を取って走れなくなるまで走り続ける、それだけは誰にも負けないと思っていた、というタカシ。
走り終わって布団に戻る瞬間、ぐにゃりと落ち崩れ、またALSの状態になるのだ。
やがて、トオルが夢の中でルルに別れの歌をうたう。笑顔で一生懸命にうたう。
そしてルルから去って行ってしまう。
タカシはふたりのためにアイスバケツチャレンジをする、と宣言し、褌一丁(トオルの紙オムツとの明確な違いを見せるため?)でバスタブに入ると、スーッと現れたトオルがアイスバケツを頭からかけてやる。
女神のような献身的なルルとトオルとふたりを応援し続けるタカシ。
ルル、そしてタカシが寝ているトオルと同じ布団に入るとそれがスイッチのようにトオルが跳ね起き、走り出す。
同床異夢という言葉があるけれど、これは同床同夢だろうか。ルルの夢であり、トオルの夢で、夢のなかでふたりは話をしている幸福そうだ。
ルルはパジャマで、トオルがランニングに紙オムツで手をつないで舞台の終わりに現れたのが印象的だった。
「アイスバケツチャレンジを自らの指名によって行います!」というスクリーンの中のルルの笑顔と、夢の中のトオルのランニング。
20分の舞台とは思えない密度だった。
♡ベロシモンズ(ボーイズドレッシング)
「ホワイトフィルム」
キャスト あぶ潤 澤口夏実(全てボーイズドレッシング)
部屋に置かれたソファと中央に大きなスクリーン。
スクリーンには、劇中のイメージを思わせる映像が映し出され続ける。
でもよくわからない。
ところどころ記憶のない詐欺師が臓器移植されるお話だった。通りがかりのJKなど、
いつものベロシモンズに比べてすごくマイルドなのに、スクリーンに気を取られ、印象がぼやっとしてしまった。
審査員の評価でも、劇自体は意欲的であり、興味深かったが、スクリーン映像の存在感が大きく、役者の表情がよく見えず残念、
という指摘があり、私もそうだそうだ、ですが、
13歳の息子に言わせれば、
それが持ち味でいつもの世界じゃない、
で凄くよかった、そうだ。
わからない自分がちょっと悔しい。
♡村田青葉(劇団かっぱ)
「ベンチウォーマー」
キャスト 村田青葉 皆川泰亮 菊地淳也(全て劇団かっぱ)
舞台を暗幕で狭い細長いフレームにして、
ベンチと、そこに腰掛けているベンチウォーマーである野球部の補欠のふたり。
味方のプレイが決まったら、立ち上がって歓声を送らなくてはいけない。
小柄で真面目そうな右の選手と、
大柄で真正面を見据えたままの左の選手の何気ない会話のやり取りがおかしい。
左はずっとガムをクッチャクッチャやっている。
そのリズムというか音がなんとも言えず気になるのだ。右が聞くと、
エアだ。
とニコリともせずに言う。
そんな時々ふたりに監督らしい男が現れては、ちゃんと試合をみていろ、と喝を入れる。
右はドキドキしているのに、左は泰然として憎らしいくらいだ。
やがてなぞなぞを出し合ったりしているうちに、
ふたりの間に絆が生まれていく。
ついに右に声がかかった。この時を待っていたはずなのに、立ち竦む右に、
いままでずっと無表情だった左が、
お前が向こうに行ったら俺が全力で応援してやる、と激しい感情を剥き出して励ます。
黒いテープで全身をきつく巻かれる右。
指名を受けてベンチの向こうに行くこととはなんなのか。
ベンチウォーマーのふたりの関係性に井伏鱒二の「山椒魚」も重ね合わたり、
ふたりは刑務所の中の囚人で、執行の日を待っていたんだろうかとも思ったが、
正解より、待ち受ける不安で避けられないものと、誰かがそばにいてくれること、ただ1人でも自分を見ていてくれる人がいることなど、
名前のない感情を噛み締めたい。
ふたりの表情のコントラストが強調される舞台設定と、終始表情を崩さず、ある意味ロボット的だった左がついに感情を露わにする場面が印象的だった。
観客票をごっそり集めた高村さんが勝者に!
息子はきょうも自分が入れた人が勝者で勝ち誇っていた。私は高村さんだよな~と思いながら、村田さんに1票。
私が票を入れると負けるんですすみません。
審査員票を集めたのは村田さんだったのも興味深い結果です。
村田さんは岩手大学で県産の雑穀を活かしたお菓子の開発をしているそうで、
インタビューで、お菓子をみなさんに配っておけば、と冗談めかしていっていておかしかった。
ベロシモンズさんは厳しい評価にも、これからもひねくれて作り続けます、と言葉とは裏腹に爽やかに言っていたと思う。
二日目は審査員からのコメントが懇ろで、そこも良かった。
十七戦地の柳井祥緒さんからは初日の「参加者募集」ともに「ibc」にも、脚本演出からの目線でアドバイスがあり、批評ではなく、作品をリスペクトする気持ちからの言葉が熱かった。
ということで、一日目の勝者はベテランでもりげき王だったこともある斎藤英樹さん(劇団ゼミナール)、
二日目の勝者は決勝のベテラン高村明彦(現代時報)。
現もりげき王、安保美沙(劇団しばいぬ)との三つ巴の戦いはどうなるのか。
(つづく)