{AD5785F8-79E7-4BC4-A1D9-3CE1B5F33EFE:01}


《楽屋》3ステージの最終回を見にやってきました。

舞台でも本でも展覧会でも、1回よりチャンスがあれば、2回3回と見たい方です。

{E28FF9EC-7EF8-424B-9A7C-5FC836178518:01}


きょうは整理券1と2であります。


で、きのうとおなじ最前列の真ん中あたりに座る…きのうと同じじゃん(笑)。

開演前の注意のアナウンスがきっちり決まっているのですが、
そのアナウンスさえ楽しみなのです。


「ケータイ 電子機器など音の出る鳴り物は、いっそいさぎよく音の出ないよう
処置をしていただくことを、やんわりとお勧めいたします」

上品でたおやかな口調にくるんだ毒とユーモア。いつ聞いてもすてきだ。


舞台は最初から幕が上がっていて、中央に姿見が観客を映すように置かれている。

ニーナ役の女優Cのドレッサー(というのか支度用のテーブル)。テーブルの上には上等のワインや
洋酒の瓶が林立していて、特装本らしい台本とワイングラス、たぶんファンからのプレゼントらしいチョコレートかウィスキーボンボン(女優の楽屋に置かれてあるお菓子といったらそのふたつしか思いつかない)。

化粧道具にスタンドミラー、レースのフリルのついたティッシュボックス。

あ、やっぱりワイングラスはひとつだけだ。

というのは、最後の場面で、女優A、B、Dがワイングラスを片手に乾杯するのですが、
あれ?いつのまにワイングラスがそんなに増えていたの?と思っていたんです。

きょう見ていたら、ニーナ役の大女優、女優Cが黒のドレスに着替え、化粧をし直して出て行ったあと、
三人の女優たちが話をしていて、「三人姉妹」をやろう、ということになって、女優AkaBがどこからともなく、グラスを人数分もってくるんでした。

最後の場面で演じられたのは、

アントン・チェーホフの《三人姉妹》。

戦争中に女子挺身隊で工場の爆撃を受けて死んだ女優Aは長女オリガを、
女優Aよりはあとの時代に生まれた女優Bは次女マーシャを、
いちばん若い女優Dは三女イリーナを。

音楽が次第に大きくなる中で、不安な時代の空気と死んだような田舎の町で知らず知らずのうちに若さを失っていく残酷さを語る姉妹。働いて生きていかなくては、という三女、

《楽屋》という舞台に埋め込まれたレリーフのようなお芝居、《かもめ》《三人姉妹》《マクベス》《斬られの仙太》、

なかでも《かもめ》のニーナはみんなの永遠の役であって、

実際に舞台でニーナ役を演じる女優Cは、モダンダンスか?というような大仰な振りで、
「私はかもめ!」といきなり舞台を始める。

と思いきやそれは楽屋で舞台に出る直前に自分のセリフをチェックしていたのだった。
赤紫色の光沢のあるドレスに、花の飾りのある、ピンクの大きな帽子。


ニーナを演じる女優Cを演じる女優…。

ニーナを演じているときは、大仰な身振りがおかしいのに、

女優D(おそらく精神的な病で入院していたのか?と思わせられる雰囲気)が枕を持って、
さあ、あなたは疲れている、この枕で安眠して、私に役を譲れ、と迫って来ると、

大根女優ながら、ずっと主役を張ってきたという女優魂が炸裂する。


たとえにしては悪いが、岩下志麻は《極道の妻たち》の姐さん役が最高で、それまでは
たしかにきれいなんだけど、なにをやっても形だけで魂が入っていないというか、つまらなかった。
大根だった。大根のままでいい!と思ったのは、相手役が桃井かおりだったからこその、
松本清張原作の《疑惑》くらい。桃井かおりが凄みのある厭な悪い女なので、その弁護士である岩下志麻が硬い感じなのが対照で引き立ってよかった。

女優Cはチクチクイヤミを交えながら、ニーナの役はほんとうは私のものだったのよ、という、
若い女優Dに女優であることがどんなに残酷なことか、でもあたしはその残酷さに飢えているよの、と言い切る。身体中から血が噴き出すような激しい感情や、狂気じみたトレーニング。

それらを語る女優Cは、生き生きとして輝いている。
楽屋でとはいえ、ニーナのセリフを無様に腕をバタつかせてやる時と別人のようだ。


印象的な最初の場面は、4人の女優がひとりずつ出てきて、舞台中央の姿見の影に隠れてしまう。

つぎにその姿見を中心にして、舞台のセリフを語る…。

最後の場面では女優Cはいないが、3人の女優は《三人姉妹》になって、
黒い衣裳をつけて、手鏡を手にセリフを語る…。血のように紅い照明のなかを銀色の雪と白い薔薇が降りしきる…。

最初と最後の場面に使われた鏡はなにを意味しているのか。
そして私は《楽屋》のほかの劇を見たことがないので、

どこからどこまでが劇団よしこの演出によるものかわからないのですが、
オリジナルだったと言われても信じてしまったような、よしこの舞台になっていた気がします。


✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩

きょう、《かもめ》の看板をよーくみたら、

劇団445×劇団よしこ となっていました。


445…よしこさん?


舞台にあった、屏風仕立ての過去の公演ポスターには、

《嵐が丘》《ハムレット》《夏の夜の夢》《桜の園》《三人姉妹》…などがあり、

《三人姉妹》のポスターは劇団よしこの《三人姉妹》(チェーホフのものではなく、オリジナルのタイトル)公演ポスターがそのままだったのが楽しかった。

女優A、Bの使っていたスタンドミラーと《かもめ》の看板の装飾が重なっていたり、
女優Bga化粧道具をつかっている、と思ったらなぞのチンアナゴのあみぐるみだったり、

ちょっとしたところにクスッと笑ってしまうなにかが隠されている。


不思議で残酷でユーモアと少女性があって、小道具のひとつひとつに至るまで丁寧につくられていて、楽しい。

《楽屋》の戯曲も、登場した有名な戯曲もよんでみたいと思いました。

ではでは♪