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3/27に、

盛岡劇場で夜八時からのお芝居、八時の芝居小屋


なんだりかんだり読みがたり vol.21「家族の見える場所~森浩美作品集より~」

を見てきました。

 26日:「イキヌクキセキ」
 27日:「かわいい娘」


26日もぜひ見たかったのですが、送別会と重なり断念。あとで盛岡劇場に録りがあったら、DVDを借りたいです。
(ライブラリー利用も窓口で受付ています。)




開演前にタウンホールに入ると、まず舞台セットにみとれてしまう。
郊外の街並みを描いた背景の手前に、シルエットのような厚紙かベニヤの家が2軒あって、いくつもある窓は照明によって、ステンドグラスのようにカラフルに灯っている。

その手前に、木製の何の変哲もない、ややクラシカルな椅子が三脚。

舞台美術と照明が融けあっているようだった。



27日の「かわいい娘」の登場人物は、主人公が水道管工事を請け負う自営業の男性。50代くらいかな。
口うるさくて出会った頃より2倍に太った、明るくて元気な奥さんと、大学を出て勤め出した一人娘の三人暮らし。

父(大塚富夫) 母(小野寺育子 演劇集団9月とアウラー) 娘(佐々木仁美 劇団このゆびとまれ)


最初に三人の役者が登場し、これから取り上げる森浩美さんの作品について少し語って、舞台から一度立ち去る。

父が登場し、真ん中の椅子に座って、朗読劇のページがひらかれる。



彼は結婚後かなりになる、水道工事の仕事をしている男だ。なにげない日常の一ページの描写だが、大塚富夫の響かせる低い声がいい。年末の文士劇の現代劇の大塚さんとは別人のような、引き締まった声だ。だが、わざとらしいわけではない。地の文を役の声で読んでいるのだ。その微妙な声の選び方が腑に落ちて好ましい。


彼が家に帰る途中、たまたま、娘を見かけ、なんだろうと気にしていたら、彼女が男と別れるところだった。

娘は大学を卒業し、いまは会社勤めをしている。その娘に彼がいて、別れようとしている。
しかし、その別れはあまりに残酷だった。

「お前のせいで恥をかいたんだ」
「よくあんな小倉みたいなブスと付き合っているなと言われたんだよ」

思わずその場に飛び出して相手の男を殴ろうかと思う父。彼は若い頃は腕っぷしに自信があったようだ。だが、そんなことをして娘に迷惑がかかったら、とブレーキをかけた。

娘は悪いところは直すから、というが、相手の男はバカにしたような態度を改めず、ふたりは別れた。

この場面は椅子に座った父親、

横顔を見せて、完全に横向きになったままの娘(照明が暗く、シルエットになっている)という影絵劇のような効果もあっておもしろい趣向だった。父役と娘を振る若い男の2役を演じるのだが、そこより、父親としての傷つけられた娘に対する思いがにじんだ声に打たれる。

そのまま父は飲みに出かけ、若いころからの友達に娘がバカにされたらお前だったらどうする、などと訊いてみる。相手が、殴ってやる、というのを訊いて、殴らなかったことを後悔する父親。



家に戻ると、けたたましいほど陽気な妻(原作ではでっぷりふとって貫禄がある妻なのだが、朗読劇なので細身の女優さんでもいいか…でもやっぱりちょっとちがうな)にさりげなく娘の様子を訊いたりする。

なにも変わりのない、という妻の言葉にホッとしながらも、ほんとうは深く傷ついているのではないかと心配する父。

少し前にバレンタインデーのチョコレートを拵えていたことが思い出される。
あれはあの男に渡そうとしていたものだったのか…。


やがて妻が去り、娘と父だけの場面になる。
娘はふられて傷心していることなどおくびにも見せない、明るい素直な表情である。

父親はそんな娘に胸が痛む思いだ。

父はやっぱり娘のふられたところを見ていたとは言えない。
ただ娘を励ましたい思いで、お前は可愛い娘なんだ、と言う。

俺のせいだ、と父親は思い、そのことを娘に言わずにおれない。

言霊というものがあって、おれがお前のことをずっとひどく言っていたから、
もしずっと可愛い可愛いと言っていれば、と。


ほんとうは、お前はあんなひどい振られ方をするような娘じゃない、
お前はもっと大切にされるべき娘なんだ、

とストレートに励ましたかったのかもしれない。

だが、職人気質でスラスラと言葉がでてこない父親が絞り出すように娘にかけた言葉は、
なんでもないようにふるまっている娘の心を明るく照らしたのではないだろうか。

とにかく大塚さんの声がよかった。音響と照明、舞台美術も朗読劇を引き立てるハーモニーとなっていて、≪声≫と≪物語≫に浸っていられた。


終演後の挨拶で、父を演じた大塚さんが、劇中の父親をやっていたときと雰囲気がガラッと変わったのがまた興味深かった。


朗読ブームで朗読をしたがるひとは多いが、朗読を聴こうというひとはそう多くない、という言葉も印象に残った。演劇も耳を傾ける場面があるが、朗読劇はもっと耳を澄まして本の世界に入り込んでいくような気がする。


娘を演じた佐々木仁美さんが森浩美さんのファンで、盛岡文士劇のスタッフだった佐々木さんが現代劇の小道具にも森浩美さんの本を使ったりするうちに、まわりにも森浩美ファンがふえ、今回の企画に至り、それなら役者に佐々木さんを、ということになった、そういう裏話も楽しかった。

朗読劇はなかなか見る機会がないけれど、盛岡劇場では年に2度ほど演じられるそうなので、また機会があったら見に(聴きに?)行こうと思う。