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がんばって取ったB列ど真ん中の席からパチリ。

実物はもっと生き生きした笑顔の柔和な安藤サクラさんなのですが、

会場は映画館なのであの溌剌とした表情が撮れなくて残念であります。

主題歌《百八円の恋》(この歌詞も映画と戦っていてカッコよかった)のダダダダダダダダダダダ(痛い痛い痛い痛い痛い痛い♪のサビ部分)を入場曲として安藤サクラさんがスクリーン前の舞台に登場。

顔ちっちゃ!黒のパンツスタイルがキュート!オードリー・ヘップバーンみたい。女優としてはキャサリン・ヘップバーンに近いと思うけど。

最初に、

やっとお会いできました~と柔らかい、伸びをした猫みたいな顔で言って、

きょうはこちらの盛岡が4館目です、みなさんといっぱいお話ししたいです、仲良くしてください、と話されて、

えーーーー、なんでこんなに謙虚でラブリーなの、と、私はこの映画の予告でファンになったいわゆるニワカなので、前からのファンの方なら驚いたりしないところでびっくりだ。

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トーク付き上映のこのチラシの安藤サクラさんも、一子風味、一子後遺症、一子臭がありますよね。もう全然違うひとです。

映画の予告を見て、この日のチケットを衝動的に買った時から、絶対質問しよう、と思ってはいたんですが、

才能のある若い女優さんなので、気難しい、ピリピリした雰囲気だったら諦めようとも思ってました。なんだかんだ小心者です(笑)。

でもなにこのいきなりのキュートなジャブは。会場全体がキュン死しそうである。気がついたら真っ先に手を挙げていました。私は手を挙げ慣れているので、ほかはバカみたいにトロいが、挙手のタイミングでは負けないぞ。自慢になるのかそれ。

私の質問は、映画に圧倒されたという感想とお礼、あのリアル・デブ生活を痛いくらい活写した演技への感嘆のあとに、

前半の一子さんと後半の一子さん、どちらが演じ甲斐がありましたか?

という内容だったと思います。安藤サクラさんの可愛いさにキュン半殺し状態なので上ずっていたと思われる。

さらっと、それは前半ですね、とか、後半の一子ですね、と答えることも予測していたのですが、

言葉を選んで、自分の感じていることや考えをどうやったら正確に相手に伝えられるだろう、と考えながら(でも重い空気になるんじゃなくて、質問を楽しんでもいる)、

前半の一子さんはラクに演じようと思えばただのダラダラした、イヤなやつとして演じられたけど、ラクはしたくなかった、とまず答えられて、

最後の試合の場面につながるように、一子さんの中にあるものを表現しようとしたというようなことでした。

あのリアルなダラダラしたデブ生活では、
臭うようなリアルさを追求した、とおっしゃってもいて、思わず頷いてしまいました。

特にアルバイト先の「百円生活」の特売の下着セット(黒のレースのブラとショーツ)を狩野との初デート前に着けている場面は、

お尻にボツボツのニキビまででているし、おしりも胸も脇腹も、見ていて顔を背けるタイミングを探したくなるくらい

臭うようなデブっぷり


でした。


そのあたりのことも丁寧に楽しげに話されて、私も嬉しかったけれど、そのあと手を挙げるひとが雨後のタケノコ状態になったのは、この答えの丁寧さフレンドリーさにみんな勇気付けられたんだと思う。

映画への感想や、よく来てくださいました、という中で、

きょうは4館(福島ー山形ー仙台ー盛岡)目だそうですが、なにかおいしいものを召し上がりましたか?という質問がありまして、

盛岡ではさっき、こっぺぱんをたべました、と言った瞬間、

(福田パン)(福田パン)(福田パン)

の小声の応酬があちこちから…。安藤サクラさんが、福田パンはなにがおすすめですか?と会場にむけて問いかけたら、

(あんバター)(あんバター)(あんバター)

思わず笑っちゃった。


じつは美術館で広野じんさんの《あんバター》(木彫のコッペパンあんバター、当然モデルは福田パンね)を見てきたので…。

仙台では笹かまの試食でいろいろ食べ比べて、喫茶店で隣の人からモンブランをもらってたべ(誰だその謎の隣の人(笑))、

福島で食べる予定のお弁当がたべられなかったので、移動中の電車で駅弁の「牛肉ど真ん中」をたべました、と。

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これだな!私も牛肉の入った駅弁についてはエキスパートの《隣の人》がいるので知っているぞ!

映画についても、映画以外のことでも、なんでも聞いて聞いて、なかよくしましょう、という雰囲気が体全体から匂いのいい石鹸であらったみたいにふわっと香っている感じ。

たまたま一緒の上映を見に来ていた友達の中村さんも質問をして(はじめてマイクを通した声を聞いたけれど、あきらかにほかの人と違うプロフェッショナルな声だった)、

武監督は現場ではどんな印象でしたか、
(言葉は違うと思うけど、だいたい)と。

武監督はいまの監督の中でいちばん多く、いろんな監督の下で働いてきた監督だということと、

その現場がほかにないくらい、楽しい、ということをことを答えられていました。

撮影期間14日間でリアルに太って、過酷に絞る壮絶な日々を楽しい現場だと。武監督への信頼が伝わってきました。

そう、ほかの若い女性が質問していたんですが、どのくらいで太りどのくらいで絞ったのか、という問いの答えがこれでした。

いろんなところで何度も聞かれたと思うんですが、これを直接聞くこととYouTubeやパンフレットでよむことは体験の質として全然ちがう!!

ほかの質問もそうですが、みなさん、よく聞いてくださいました、と思う。

まず撮影前に3ヶ月ボクシングのトレーニングをしつつ、前半の一子になるためにやせないように筋肉をつけて体を大きく。

そして2週間の撮影は、髪を切ったあとは時系列順の撮影(カツラってわけにもいかないし)だったけれど、あとは時間がないので、撮影場所ごとにまとめて撮っていたから、

後半の体だけど、前半の一子さんの撮影という場面もあった、

でも、下着のシーンはいちばん太った状態でやろうと決めていて、そこを撮ったらそのあとは絞る、と。

10日間であのぶよぶよしてデカイ(ただ太っているだけではなく、小山のようなデカイ感じがあったのは、脂肪の下に筋肉がガシッとついていたからだったんですね)体からボクサーとして説得力のある体になるために、

ガムシャラなだけではなく、その前の3ヶ月で筋肉をつけつつ太る、という冷静な作戦があり、撮影期間ではどんだけ壮絶な減量があったのかと。

その過酷な戦いがあるから、狩野が去ってからの一子の変貌がリアルで圧倒的なんです。

最後の試合はもう、呼吸も忘れていた。パンチを喰らい、顔面は腫れ、口の中を切り、鼻血で汚れた顔で白目を向いてダウンし、なんとか立ち上がろうとする一子。

その場面はもちろん、相手役とのリアルな試合ではないのだけれど、撮影期間の間の安藤サクラの壮絶な戦いと一子の人生が重なって、白目を剥いて倒れている一子に、

「立てよ、この負け犬!」

と叫ぶのは犬猿の中だった妹の二三子だったのだけれど、

たぶん、観客も撮影スタッフも、全員が


「立てよ!立ってくれよ!」

と叫んでいた。それは一子になのか、負けっぱなしの人生に倦んでいる自分になのか、誰の中にもいる、このまま負けっぱなしでいるのはいやだ!という本能なのか、

立ち上がれよ!と叫んでいる時、それは自分に向けて叫んでいるのと同じ。映画に戻れば、二三子も子どもを連れての出戻りで、しょぼい弁当屋を手伝っていて、到底勝ち犬ではない。

一子の試合を見に来ていた狩野なんか、負け犬の典型である。

だからみんな叫ぶ。

立てよ!(自分)と。

一子は短大を出てからずっと実家に引きこもっていて、社会性はないし、太ったことのあるひとなら経験があると思うけど、太ると顔についたお肉のせいで表情が乏しい。

嘘だと思うひとはためしに10kgくらい太ってみて。絶対表情がどんよりすると思う。女性だと特に太ってしまった自分、という哀しみが拍車をかけてどよどよすると思う。

その一子が後半の顔のお肉も落ちてから、一子をたずねてきた父親と外食する場面で、一子の笑い方で笑う場面があった。トークショーで壇上にいる安藤サクラのキュートな笑顔ではなく、

一子が笑うならこの顔だ、という笑顔。


質問の中で、ある男性(多分私と同じ50前後の方)がいま盛岡フォーラムでやっている「娚の一生」も見たのですが、

撮影期間は重なっていたのですか?

と聞いてくれて、「娚の一生」の安藤サクラさんの撮影期間は2日間だったけれど、この「百円の恋」の前半の一子さんを撮っていた時期でした、ということだった。ヤバイスケジュールだなそれ(笑)。

「娚の一生」のなかでは主人公つぐみの友達なんですが、確かに太めの体型だった。一子とはちがう要領のいい、人懐っこい性格なんだが、

つぐみと海江田と食事をしている場面で、にっこり笑う笑顔が、

お父さんと焼肉屋で食べている時の笑顔と同じだった。

お父さんが来たのは、お母さんが腰を痛めて、自分も手伝いたいが二三子の足手まといになっている、だから、実家に戻って弁当屋の手伝いをやってくれないか、ということだったんだけど、

じつはその前に100円生活の本社から来ている店長代理(その前の店長は鬱で退社)をついに殴って首になっていたので、

そこは丸く収まったのだった。

一子はダメな大人の典型みたいだけど、表情が重くてわかりづらいけれど、正義感と優しさも心の中にあって、

コンビニではいつも募金箱にチャリンとコインを一枚入れていて、

(優しさではなく、子どものような純粋さかもしれない)

甥っ子といつもテレビゲームばっかりする上に夕食まえにオヤツを勝手に上げる、とニ三子に嫌われていたのだが、

ピリピリしている二三子には話せない悩みを聞いてあげていたのかもしれない。

ただ、

一子は哀しみも怒りも、分厚い肉に埋もれさせていて、周りには一子の感情がわからない。無神経にでぶでぶ太って、図々しく不潔な女を捨てた女に見えるかもしれない。

お母さんからもらったお金で引っ越して、小さなアパートに落ち着いた一子の足の裏は真っ黒で、

それも「臭うような」ダメっぷりを強調していてよかった。

パンフレットは600円だった。トークショーのあと、進行を務めた配給サイドの男性が勧めていたので、買おうと思っていたけど、みんながレジに殺到したらいやだな、と焦った(笑)。

薄い小さなパンフレットだったけれど、一子と狩野を演じた安藤サクラと新井浩文について監督が、

ふたりとも演技について繊細で、こちらの仕事はどう撮るかというだけだった、とか、


あの最後の試合で負けた狩野がギョーザをたべる場面は、試合のシーンに後に用意されていて、その撮影順に監督の愛がある、と語る安藤サクラとか、

買ってよかったです。

そして売り切れてなくてよかった(笑)。

〈百円の恋〉は随所に笑わせる場面があって、一子がレイプされたあと、

冷静にラブホ(相手の同僚ですごく嫌な男に鳩尾を殴られ連れ込まれた)から警察に電話をかける場面にすら笑いを感じた。

泣きながら電話をかけるわけでもなく、いつものトーンで、はい、レイプした犯人はいま~というホテルの部屋で眠っています、と警察に電話しているんですよ。

勤務中一子に執拗に話しかけてきたり(その内容もマイミクがどうのとか、外人は嫌いだとかウザさ最高潮である)、狩野の試合を見ながら乳を揉んできたり、もういい加減こんなやつにはガツンと言ってやれよ!と思っていたら、レイプ。

店の金をレジから盗んで防犯カメラに向かってバーカ!と罵っている、ほんとうのダメ人間。そのダメ人間に処女を奪われて、ってショッキングな話のはずだが、

通報した後、痛さに顔を顰めながら、イタタと繰り返しながらあるいて帰るだけ。

ここで泣きながら地面を拳で殴りつけ、ボクシングのトレーニングに精進し、試合に出ては勝ち、快進撃をつづけついに世界チャンピオンに…ってなラクな映画ではなかった。

そのラクは絶対しない姿勢が脚本、監督、俳優、音楽、スタッフに至るまで貫かれていて、


カタルシスのない物語のはずなのに、このラクをしない構えに強く惹きつけられ、

もう一度あの息のできない空間で映画を見たいと思わせられるんでした。