やっぱり、アルバン(ザザ)役の市村さんのオトコ夫婦の妻・母役が
もういじらしくて可笑しくて、最高でした。
夫・ジョルジュが若い日に、誰でもやってることじゃないか、と
出来心でやっちゃって、つい、子供ができてしまったのですが、
その相手のシビルは子どもを押し付けてどっかに行っちゃった。
みかねたアルバンが20年、子どもを大事に育ててきたんです。
もう泣けるんです、それを想像しただけで。
そしてどこからか、大島弓子の「七月七日に」が重ね合わされました。
鼓という少女の、美しいお母さんがじつはほんとうの母親ではなく、
女ですらなく、彼女の父を愛していた青年が両親を失った鼓のもとに、
偽物の母親として現れ、丹精込めて育てた十数年だったという物語。
青年に召集令状が来て、彼は鼓のもとを去った、だった気がしますが、
もう30年も前に読んだきりなので違っていたらすみません。
しかし、大島弓子の美青年は娘を母として育てるだけですが、
(いやそれだって相当なものですが)
アルバンは母として育て、歌姫ザザとしてゲイ・キャバレーの大スターをつとめて
お金を稼ぎ、ジョルジュを愛するその心根の可愛らしさであります。
鹿賀さんのジョルジュがまた、かるみがあってぴったりなんですよー。
市村さんと鹿賀さんは四季で同期だったし、その後もいくつかの芝居で共演をしてきたそうですが、
こんなにおもしろい組み合わせの舞台はないんじゃないかなあ。
ほかを見ていないから断言できないけど。
どちらかというとザザのほうがジョルジュを余計に愛しているんですよね。
だから年をとった私なんか魅力がなくなったんでしょう、と拗ねたり、
ジョルジュのちょっとした言葉や仕草で傷ついたり、切ない表情になる、そこがすごくいい!
倦怠期のオトコ夫婦に嵐を呼んだのは、可愛がって育ててきた息子の反逆。
なんと、婚約者とその両親(父親はオカターイ職業)を連れてくるから、
ザザには引っ込んでいてもらって、自分を捨てた母親だけどちゃんとした
女のシビルをよんで1日だけ、ちゃんとした一家を演じたいんだ、と。
深く傷ついたザザは家を飛び出しますが、ジョルジュがもちろんフォロー。
そして、男らしい仕草を身に着けて、叔父さんということにして
パーティに参加したら?という折衷案を出します。
ここで「男らしい仕草」のトレーニングがまたおなかが痛くなるくらい笑わせる!
息子が連れてきた、バレエの上手な女優さん、と思っていたら、
愛原さんって、「マッサン」にも出ていた女優さんだったんですね。
エリーとマッサンが大阪で暮らしていたころの大家さんの若いのち添えで、
長女に心を開いてもらえず苦しんでいたあの耳隠しのモダンな髪型の、
陰鬱な表情の奥様ですよ。
つかこうへいさんの長女ということも検索して知りました。
いやー、ほんとうになにも知らないんですよねえ私(笑)。
でもそのぶん、すべてに新鮮に驚けるから楽しい。楽しいほうがお得なのでこれでいいのだ。
森公美子さんはアンヌのお母さん役。なんと、このラ・カージュ・オ・フォールが
初上演された1985年からずっと、彼女がダンドン夫人です。
知らなかった―。
コメディにぴったりだし、やっぱり華があって、あ、出てきた!と思っただけで
その場がパッと明るくなる。最後の場面では、ダンドン夫人もオンステージで踊っちゃうんですが、
その踊りが最高です。
この踊り子たちはもちろん、全員ゲイ!
振り付けは真島茂樹さんで、もちろん真島さんも
ずーっとこの舞台に立ち続けています。
衣装も派手で早がわりも鮮やかだし、ショーの楽しさを
堪能できます。
しかし、なんといっても一番の見どころは、
1幕のやる気のなさそうなザザがジョルジュに優しく宥められて、
舞台化粧をしながら歌うところですよ。
だんだん化粧とともにザザになって、スター!になる。
市村さんの表現力はやっぱりすごいなあと思う。
ガラスの仮面に例えたら、
鹿賀さんが亜弓さんで、市村さんがマヤちゃんのような気がする。
書いても書いてもとても書ききれませんが、
よくあんないい席をゲットできたなあと思って。
あとかなり前に用意したチケットなのですが、
それを一度は失くしたんだけど、ちゃんと見つけて
行ってきたのも奇跡だなあと。
二階席、三階席から見たら照明がきれいだったろうなあ。
何度も何度も出てきてくれて、アンコールで泣きそうになりました。
よかったー。