赤瀬川原平さんの「今日の偶然」は、
ある出来事から始まる。
親しく付き合っていた美術評論家の石子順造氏が亡くなり、葬儀や追悼会なども
落ち着いたころ、奥さんから令状がとどいた。
その手紙を娘の櫻子さんに読んであげていたところ、
「このごろはじゅんちゃん(石子順造氏の息子さん、当時2つ)も落ち着いてきて、
家の中に虫が飛んでくると、お父さんが会いにきたのだといって迎え入れています」
その中の、「家の中に虫が飛んでくると…」の「虫」のところに何かが小粒なものが落ちた。
それは黒字に赤い斑点が左右にあるテントウムシだった…。
虫という文字を読むと同時にその虫という文字の上に虫が落ちた…という偶然から
赤瀬川さんはあちこちで起きている偶然の背景にはなにがあるだろう、と「今日の偶然」メモをつけはじめるのだった。
(「偶然×偶然+偶然÷偶然=□
それは私も常日頃感じていたことなので、おおいに共感して、共感するとなおさら日常の偶然が
気になるものであります。
帝国ホテルや霊南坂教会や、都美術館といった由緒ある名建築が
壊されるとき、その建物のわずかなカケラの一つをもらってきてコレクションしている、
一木努さんのエピソードもすごくすきだt。
赤瀬川さんもぜひその現場に立ち会いたいと言って、
府中刑務所の正門で待ち合せたりする。府中刑務所の取り壊しなのだった。
いずれ茨城に帰って敗者をつぐという当時三十代なかばの
一木さんの夢は、つぐことになる歯科医院のとなりに自分の家を建てること。
集めたカケラを各所に生かした夢の家である。私はコレクションの趣味はないのですが、
一木さんの夢はほんとうに素敵だなあとあこがれるくらいです。
ということで私の偶然メモに話はつづくのでした。