羅針盤計画 vol.3 自主演劇企画第二弾


「風雷」


 作:遠藤雄史

演出」モリコウキ


会場:盛岡劇場タウンホール


日程:2014年12月24日20:00~、

25日20:00~

 26日13:00~、16:00~



塔が国家を象徴し、

塔が人々を支配する時代――。

反政府組織『3R』のメンバーは、旧時代の兵器を求め廃墟となった地下施設に潜入する。


しかし、政府直轄防衛部隊『舞鬼』と思われる者によって入り口は破壊され、チームは完全に閉じ込められてしまう。

舞鬼からの命令で3Rに入隊、スパイしていた三角(みすみ)は、予定外の事態に困惑する。

そんな中、一人、また一人とメンバーが殺されていくのであった……。



パンフレットにあったあらすじですが、正直このあらすじだと私は苦手だなあーと思っていました。


SFが苦手なんです。


人間の脳みそにはSF脳と推理脳があると思う。私は推理小説好きだが、

SFは苦手だ。


でもお芝居をみるのはすきなのでやってきたのでした。


photo:04



ちなみに羅針盤計画の自主演劇企画を見るのは2回目です。



正直、旗揚げ公演は私はすきじゃなかった…このみもあるかもしれないけれど、

動きが整理されていない気がした。


動きというか、役者の肉体の動きに興味があるので、そこが好みじゃなかったのかな。



しかし、きのうの「風雷」はちがいました!



なんやこれ、すごくおもしろいやん!


なんなん、この1年でのこの変わりよう、ってくらいの差がありました。



劇作家はトラブルカフェシアターの遠藤雄史氏で、2007年新人公演初演のもの。



演出は羅針盤計画の代表モリコウキ氏です。


どこまでが作でどこからが演出なのか、素人なので境目がわからない(笑)。



そして初演時の舞台セットや衣装と今回がおなじなのか違うのかも。



舞台セットは黒い壁、4段ほどの階段、白い二つのドア。


シンプルだが、近未来の廃墟らしい空気が漂う。



舞台がはじまる。


七人の黒い僧服に身を包んだ、白いマスク(「オペラ座の怪人」と違って、

口元まで覆っているので、声がくぐもって聞こえづらい。だが、男なのか女なのか、


どの役者なのか、フラットにするという効果があっておもしろい)の者たちがあらわれる。


舞台セットは階段や舞台の上の台(なんていうんだろう…)などによって高低差があるので、

最初のこの場面は非常に演劇的でカッコよかった。


7人は声をそろえて、人類の近未来史を唱える。

ギリシャ悲劇のコロスのようだ。


と、ひとりのものが仮面を投げ捨て、素顔をさらし、

「私は私が守りたいもののために闘う!」と叫ぶ。


彼女が主人公の三角(ニヅサ)だった。



反政府組織≪3R≫に入隊した三角は、隊長・雅王、妃羅(女性、三角の上司)、

戦華(三角の同僚クラス)、僧司(新人)とともに、政府側の≪舞鬼(ぶき)≫と戦っていた。


≪舞鬼≫と思われるものの仕業により、潜んでいた地下施設の入り口が完全に塞がれ、

そんな中で≪3R≫の仲間がひとり、またひとりと殺されていく。


自分と同じ使命を受けて≪舞鬼≫から派遣されたものがほかにもいる、と、本部にいる歩墨(鈴瀬利也)との

交信によって知らされ、三角は疑心暗鬼にかられる。


三角以外のメンバーのだれが≪舞鬼≫なのか。そしてその潜入している者は三角がスパイであることを知らないらしいのだ。同士討ちの可能性もありうる。


下手に聞いたらスパイだとバレてしまう。しかし、知らないでいたら、腕の立つそいつに斬殺されるかもしれない。そいつは刀のようなものでメンバーを一人ずつ殺しているのだ。


情報を求めて必死で歩墨と交信する三角だったが…。


入ったばかりで場違いな言動を繰り返し、気の荒い士堂に「誰だよ、こいつを連れてきたのは!」とまで言われてしまう、僧司。ほかのメンバーよりだいぶ小柄で、もちろん演技なのだが、銃の構えも、危機管理もなにもなっちゃない。


最初の殺人の第一発見者はこの僧司なのだ。もしかしてじつは僧司が舞鬼?


と思っているうちに僧司も殺害され、現場にはダイイングメッセージが。


気が弱い隊長より的確な判断を下し、冷静に行動できるタイプ…だった妃羅も殺害された。


最後に生き残ったのは三角。

だんだん、3Rに気取られるかもしれない、という配慮も吹っ飛んで、本部の歩墨との交信が長く、

頻繁になってゆく。


歩墨は最後に謎のような言葉を残して、交信はふっつり切れてしまう。




気も狂わんばかりの三角の前に、スーッと白い縄が下りてきた。それは縊死へのいざない…。


SFと思っていたのにいつのまにか、「そして誰もいなくなった」だ。

萩尾望都の「11人いる!」は、宮沢賢治の「座敷ぼっこ」とクリスティーの「そして誰もいなくなった」が

下敷きになっているのだが、まさしくそんな感じだ。




「そして誰もいなくなった」では、じつは犯人は途中で死んでいた人物だったのだが、


じゃあ、途中で死んだ誰かが実は舞鬼側のスパイで、死んだと思わせてフリーに暗躍を続けて

いるのでは?と推理しつつ、緊迫感あふれる舞台に目を凝らす私。



白い縄が、銃弾で切れ、三角は救われた。

銃弾は誰のもの?みんな死んでいるはずではなかったのか。


最後に三角の前に現れたのは、死んだと思われていた一人と、

もうひとり意外な人物だった…。



廃墟での戦いに生き残った三角だが、

舞鬼とはなんだったのか。そして3Rの戦いはどこへ向かうのか…。



まだ3回公演があるので、連続殺人の犯人が誰だったのか、

三角を最後に救ったのは誰だったのかは秘密です☆



もしかしたら、トラブルカフェシアターだったらここは笑わせる場面かなあというところも

あったのですが、全編、シリアスで熱のある舞台でした。



≪塔≫が国家を象徴し、出口の塞がれた廃墟で勝ち目のない戦いを続けるというシチュエーションは、



いま話題になっている「進撃の巨人」(連載は2009年~)とも重なりますが、


(廃墟の中の戦い、塔=巨人と考えれば、今この「風雷」をやる意義はそこにもある、

とか思ったのですがどうなんでしょう。


私は「進撃の巨人」の自傷行為によって巨人化する人類、自分たちを守っていたはずの壁の中に塗り込められていた巨人、というイメージがまるで人間の深層心理のようで興味深いと思って読んでおります)


塔、廃墟というモチーフから連想したのは安部公房ですね。



あれ?SFが苦手とかいいつつ、それなりに読んでいたみたいですね。

あんまり本格的なSFは苦手なんですが、


SFの設定の中で、本質的なことや現代社会にある歪みや人間の心理を

描くというかたちなら私にもなんとかわかるんですよ。



気弱でなめらっぱなしの隊長、気の強すぎる女戦士たち、場違いの新人、

傲慢な俺様ナンバー2、これはどこの組織にでもあることですよね。


そのバラバラな組織を最後まで守ろうとしていたのは誰だったのか。


日常と非日常という遠藤雄史氏のテーマのひとつがこの作品でも描かれていますが、

今回はグロテスクな欲のかたまりとなって人格化していて興味深かったです。



3Rと出口のない廃墟、組織に潜入した舞鬼、誰が敵か味方かわからない状況のなかで、

自分と自分の守りたいものを守るために闘う…。



これは日常の中の戦いの姿でもあると思われます。

私の中にも、自分を攻撃する自分がいて、その攻撃するものから自分を守ろうとする自分もいる。

前へ進もうとする自分の足を最もひっぱるのは他者ではなく、自分自身。



石川淳曰く、「おまへの敵はおまへだ」



物語が終って、また最初とおなじ、7人が白い仮面を被っておなじポジションに立つのですが、



「DADADADADA]DADADADADADADADADADADADADDADADADADA…」と続く叫びが圧巻でした。



拍手の中、舞台から去った三角が白いドアに仮面をたてかけて行った、その絵もよかった。


(息子はたまたまだろ~といい、私はあれは演出だろう、という。どっちもありでもいいんだけど)


中学生以下は無料でした。


あと3回公演あるので、もう1回みたいなあ~と思っています♪