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11月はリアルの月、

だったよな~と思っていたのですが、なかなか見つからず、
日曜日にやっと上野の売店でゲットであります。

奥付を見たら12月24日になっていました。

表紙は誰かと思ったら、高橋君でした。

「リアル」の3人の主人公のひとり。成績優秀、俺様バスケ、
傲慢街道をつっぱしっていたところで、交通事故(しかも自分が悪い)で
膝をやられ、障害を負う。

その高橋君がついに車椅子バスケをはじめました。



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戸川君は高橋君より先に片足を膝から失っています。

しかし、ある出会いによって車椅子バスケをはじめ、もともとが
個人種目のスプリンターだったこともあり、最初はチームワークを
乱してばかりでしたが、少しずつ変わってきました。

いまは彼を車椅子バスケに導いてくれた「虎」のチーム、タイガースで
全国をめざし頑張っています。



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そしてこの男である。

野宮君。

高校を中退して、プロのトライアウトを受けるも落ちてしまい、
体重も15kg増量。

若いから太るのもすぐなんですね。でも若いから絞るのもすぐ
だと思うので、また軽い体に絞ってトライアウトを受けて、


というような簡単な話だったらリアルにならない、ということで
この巻では確実に前に進み、進もうとしている他の登場人物の
光と、野宮君の闇のコントラストが心に突き刺さります。



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13巻はこの男、スコーピオン白鳥が主人公でした。

やはり事故で下半身不随になり、リングに上がるのは無理だと
思われていたのに、リングに上がり、障害者であることを最後まで
客に気づかせず、奇跡の試合を見せてくれました。

もちろん、試合が終わったあと歩けるようになっていた、なんて展開はありません。

また地道にリハビリの日々です。


しかし、白鳥さんはリングにあがって自分の伸びしろに気づいた、と
周りを驚かせる発言をし、またリングに復帰する目標を立てております。


そんな白鳥さんも、いつも心が強い男ではなく、同期でタッグを組んでやってきた
松坂が太陽として、自分はダーティヒーローとして引き立て役に落とされた時は
荒み、ついに妻は幼い娘を連れて出ていってしまいました。

そんな時、あからさまに嘘で塗り固めた「ブルーム」からの手紙を
白鳥さんはじつは待っていた。俺宛の手紙はなかったか?と聞いて、
ブルームからの手紙を見ながら、このクソ野郎、といいながらも
支えられていたのだと、

そのブルームだった花咲君に感謝を伝える場面です。


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花咲君の手紙のはじめのほうは、高校で居場所がなく、
外見からジジイと呼ばれていることなどが描かれてありました。

その後、大学生デビュー、起業、ついに海外に進出だったか、
別荘を買って、だったか、大げさに話はふくらみ、それは嘘だと
はっきりわかる嘘だったら、傷つかずに済むから。

本当の姿を書いてみじめな気持ちになるより、華やかなホラで自分を
慰撫し、同時にこんなわけないでしょ、という逃げも打っていたという、
自分の臆病さや醜さを受け入れてくれた白鳥さんへの感謝の気持ちが
あふれ出ています。

彼の高校時代の孤独は、いま救われたのでした。

(ま、その顔を写メに撮って高橋君に送信、というのが白鳥さんなのですが)

白鳥さんの試合は日本中の凹んでいる人を生き返らせたはずですよ、
とナースが口にしていましたが、その凹んでいるひとの中に、

高橋君もいました。






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プライドが高かった高橋君が、車椅子バスケのチームに入れてほしいと
申し出て、練習に参加しはじめました。



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野宮君は高橋君と高校のチームメイトだったのですが、傲慢な高橋君との
仲は悪く、しかし、それなのに、野宮君はトライアウトを受ける、という
ことを高橋君に言いに来ていました。

まだ心のふたをしたままだったときの高橋君に。

そして、野宮君は戸川君とは友達なのですが、一歩前に進んだ
戸川君を見て、おめでとう、と祝福の気持ちになりながらも、
さびしそうな顔をしています。


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トライアウトで思い知らされたプロとの差。

友の前進する姿を見た後、やってきたのはトライアウトで落とされた
プロチームの試合でした。野宮君を見下していた安西さんは鬼のように
活躍しています。さらに凄みをまして。


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そのことに嫉妬もせず、安西ファンになる予感すらする野宮君。

しかし、会場を後にしたその時、涙は自然にあふれでていました。



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この男はトライアウトの時に野宮君をぼろくそに言っていた、
トライアウト仲間だったのですが、

今回は最初から打ち解けていました。あのトライアウトでの野宮君を見て、
あきらめない気持ちをもらったのだと。


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Tシャツの黒の分量が効いています。

その心が折れて、どこにも行き場所がなくなった野宮君の目に映ったのは、

子どものころの自分とウゴの1対1でした。


ウゴは一時的に日本に来ていた外国の子で、言葉は全然通じません。
ただ、ウゴ、トモと呼び合ってバスケをしていたのです。
たぶん、ごく短い間の友達だったと思いますが、その出会いが


肥満児で、彼の潤沢なお小遣い目当ての友達しかいない、
ほんとうに孤独だった彼を変えたのでした。


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あのころの野宮君は、肥満児で動きも悪かったのに、
ウゴに負けると本気で悔しがっていた。じつはほんとうに過去の
自分を見ていたわけではなく、小学生の男の子たちの姿に
自分の過去をだぶらせていたのでしたが、

この野宮君の表情がまた、どちらとも取れる顔でして。


でもすぐに、あのころ悔しがっていた俺を取り戻して頑張ろう!
とはならない。その展開もあったかもしれないけれど、それを
描かないのが「リアル」。



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「バスケがあったから生きてこられたよ」


野宮君はいま、はっきりとバスケにさよならを告げた。

ここはそういう場面です。


けっして、立ち上がる場面ではなく。


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野宮君の暗夜行路はつづく。

つぎに彼はバイクの事故で下半身不随にしてしまった夏美を訪ねます。

最初は口も利いてくれなかった夏美に、何度も何度も訪ねて、
次第に打ち解けてきていました。

再会の第一声はお互いに、

「てか太った?」。


夏美もマンガの持ち込みで挫折して太ったのでしょうか?


確かに夏美のマンガは、編集者にすぐに掲載しましょう!とか、
一緒にがんばりましょう!とは言ってもらえなかった。王道マンガは
間に合ってる、描くなら可愛い女の子を描けるんだから、

ニッチ(隙間)を狙いましょう、ゆるエロで、と言われてしまいました。

けれど夏美は、あたしの真ん中にあるものが王道なら仕方ない、
と懲りずに王道ど真ん中で勝負することに決めました。


考えてみればトライアウトを決めた時も、

夏美の、マンガを描くことがやりたいことだった、
笑うなら笑え、という強い言葉が背中を押してくれたのでした。

夏美はあきらめない。

太ったけど(笑)。


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けれど、そう簡単にいままで目指してきたバスケのプロになる夢に
また戻れるものでもなく、

野宮君の目は優しいけれど、



自分の戦いから降りて、その代わりに応援にまわった人の目になっているのでした。


人を応援することは自分が戦いをやめる言い訳には
ならないと気づいていながら。


一つの大きな物語だった13巻はカタルシスがありましたが、
14巻はエピソードをつないで、3人や3人の周りのひとたちの前進する姿、
あるいはとどまり続ける姿を描いているので、

例えばフルマラソンを走り切ったあとのような爽快感はありません。

ありませんが、一つ一つ胸に突き刺さるような巻で、
3人の主人公のうち、ほかの2人は障害があっても所詮イケメンですが、
リアルなあまり顔でどうこうというタイプではない野宮君に一番シンパシーを
感じているので、

野宮君が凹んでいる展開は、


悪くない。

のでした。

きっと大きくジャンプするまえのタメの時期なのだと信じて待っている。
と同時に、応援に回る人生でいいのか、と考えさせてくれます。

そしておそらく、作者自身もこれを描きながらタメの時期なのではないかと
思われる。そんな14巻でした。



戸川君の友達で、全身の筋力が次第に衰えていく難病にかかっている
ヤマさんと戸川君の再会も、希望の一歩でした。

ヤマさんは呼吸器をつけてはいましたが、元気でした。

俺は二十歳で死ぬ、と言って、一時荒れて戸川君とも連絡を絶っていましたが、
自力で見つけ出した病院で、症状は良くならなくても、二十歳よりもっと長く生きられる
希望を見つけて、また前のヤマさんに戻っていました。


そしてジャパンオープントーナメントに出場することが決まったタイガースのもとに
現れ(介護ボランティアの青年が付き添っています。その青年はかつて野宮君とアルバイトで
一緒で、プロレスラーでしたがいまは介護ボランティアをしつつ、整体師を目指しています)


東京の王座に君臨しているドリームスを引きずりおろせ、

と発破をかけます。


いくつもの挫折と、そこから踏み出す姿が描かれています。


それが野宮君をすこしずつ押し上げてくれるのでしょうか。



プロレスラーになるとかいう展開ではなく、

誰かの応援団になることで逃げるのではなく、


また、


笑わば笑え!の気持ちで野宮君にとっての王道ど真ん中に

立ち戻ってほしい、そんな巻でした。