坊ちゃんの時代 第三部 啄木日録 かの蒼空に 関川夏央 谷口ジロー
この本のことは、二兎社「鷗外の怪談」盛岡公演に先立ち、
開催された、永井愛さんと森義正さんのトークショーで知りました。
永井愛さんは「鷗外の怪談」で大逆事件と鷗外の官であり文人であるパラドクスを
描いていますが、
明治を描こうと思ったのは「坊ちゃんの時代」を読んだことがきっかけ、という
発言があったように思います。そして啄木日記にはほんとうに助けられたと。
図書館で「坊ちゃんの時代」全巻はなかったのですが、
三部 の啄木日録 かの蒼空に は 郷土資料 コーナーにありました。
ただの郷土資料じゃないのよ。さらに 啄木 というタグのついた郷土資料だったのよ。
谷口ジローは「孤独のグルメ」を何十回となく読み返した後、
NOTE読書部で「父の暦」が取り上げられて、まずそちらを読んで、
つづいて「父の暦」を読みました。すきなマンガ家だなーと思ったのですが、
そのあと新たに読んでいなかったので、また会えて二重の喜びであります。
マンガの中には明治の実在の人物たちが袖をすりあい、時には
すりの親分に財布をかすめられそうになっていたりもするのですが、
三部だけ読んだので見当をつけただけですが、このスリの親分、
全体の中の狂言回しとまではいかなくても、
編み物だったらモチーフをつなぐ鎖編みやピコットのような存在ではないでしょうか。
啄木の財布のかろきに泣きて、掏るのをやめた親分でしたが、
「この娘が 昭和六十二年八十四歳まで存命して、「週刊新潮」のテレビおばあさんに
なろうとは…」関川さん、茉莉がすきなんだねー。茉莉が連載していた
「ドッキリチャンネル」は週刊誌で読むのがおもしろかった。全集に収められたものは
全部ではなかったので、惜しかった。まあそれはいい。
私は明治文学は全然知らないけれど、森茉莉には詳しいので、
この大きなりぼんと髪型がどの写真を参考に描かれたものかもわかるぞ!
ってそんな自慢…(笑)。
関川夏央さんは山田風太郎との聞き書き的な本もあるくらいなので、
風太郎の明治ものを意識しているのは間違いないと思われる。
こんな場所であの人とあの人がすれ違っていたとは、的な。
啄木もバスの中で「煤煙事件」の平塚明子(平塚らいてう)に
ペラペラとデリカシーのかけらもなく、事件について話しかけ、
明子の連れの女性にひっぱたかれる、ということがあるのですが、
ひっぱたいたのは長沼智恵子。のちに高村光太郎と結婚して、
高村智恵子となる女性だ。才気煥発、スポーツマンで勝気な性格だったのだ。
啄木はつねにお金がないことや、借金の嵩を嘆いているのだが、
その浪費っぷりはまた凄い。お金はとりあえず下宿屋に少しでも入れればいいのに、
これから書く小説の前借のお金で勇躍、「パンの会」に出ちゃう。
そこで出会った、山本鼎の甥という少年が啄木の横顔をサラサラ描く。
(しかしいまネットで検索したら従弟とあったのであとで調べてみるつもり)
石井柏亭と並んでいるのは山本鼎。創作版画を主張し、雑誌「方寸」を
創刊するふたりである。
サインを頼んだら、
槐
と一字入れ、「村山槐多の槐」と。
なぜこんなに浪費しちゃうのか。
勉強のために本を買ったり、仲間と文学論をぶつのでお金がかかる…?
いやいや、けっこう浅草にかよいつめてもいました。
校正係の仕事も気分が乗らないと出社しないし。
その愚行を愚行とわかっていながら、そこに溺れ、溺れながら
歌をよまずにいられない。
自殺?
いや、このあと怪我をすれば出社しなくてもいいかと思って、といって
仮病で新聞社を休んでいます。
金田一京介はほんとうに心のすがすがしいひとで、こんな啄木に、
僕は君を守る、と語り掛け、見捨てたりしません。
ああ、続きを読みたい。