「重版出来!」3巻4巻、
一緒に買ってから2ヶ月くらいになりますが、
何十回となく読み返しておりますよー。
1巻2巻では、柔道でオリンピックを目指していた黒沢心や、
編集者、営業社員など、出版社につとめる人たちの視点が多かった気がします。
3巻4巻では、主人公が黒沢心なのは変わらないですが、
彼女の前に現れた3人の新人のそれぞれのデビューまでの道が
描かれています。
大塚シュートこと、大塚翔さんは、このコマの印象通り、
まっすぐで熱心で、絵もストーリーも誰からも好かれる、
そんな王道マンガ家になりそうな予感の新人さん。
持ち込み一発目で五百旗頭さんからかなり力強い言葉をもらい、
まっすぐ家に帰ってすぐ書き直ししてきました。デビュー決定。
そこから単行本が出るまで、順調です。
東江絹(あがりえ・きぬ)という名前からしてマンガ家になるために
生まれてきたようだね、と言われた東江さんは大学生。
女子大のマンガ研究会でもマンガ家を目指しなよ、と言われていますが、
ボーイフレンドにはそんな夢、やめろと冷たく言われ、自信をなくしていました。
でも、人気漫画家のサイン会に並んだときに、
「マンガ家を目指すか、目指さないか、キミはどうしたいの?」
と問われて自分の本当の気持ちに気づきます。
マンガ家になりたい、と。
絵が上手く、pixivでも人気が高かった東江さんですが、
ネームが通らず、黒沢心が新人であることに不安を抱き、
自分を早くデビューさせてくれるという安井さんを選んだのですが、
「つぶしの安井」の異名をとる、安井さんは絵のうまい新人に
確実に売れる原作を組み合わせてヒットを出し、
新人を使い捨てにする、と言われていました。
東江さんも、いきなり5日間で50Pの描き直しを、コミカライズの原作者ではなく、
その映画の主演であるアイドルの事務所からクレームがあったということで、
安井さんから要求されてしまいます。
白黒のバランスもしぐさも、すべてが崩れてしまう。
デジタルで作画していて背景は使えるとはいえ、相当なプレッシャーです。
おとなしくて、人の意見に左右されやすそうな東江さんですが、
絶対に間に合わせなきゃ、と、ついに5日間で50ページを描き上げ、
黒沢さんに心配されながらも連載は終わり、単行本も2冊同時に
出されることになりました。
カバーの絵は、映画の写真で東江さんの絵は帯にちょこんと入っているだけ、
という仕打ちでしたが…。
絵がきれいで情熱もある東江さんですが、この先安井さんにつぶされないで、
ひとりでやっていけるマンガ家になれるのでしょうか。
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その世界に「どこにこんなに惹かれるんだろう」とマンガを預かります。
その後、編集部を真っ二つにする中田伯(彼の名前です)のマンガを載せるか載せないか、
の会議の結果、編集長が
「見たことのないものが載っているのがマンガのおもしろさだ!」と決断。
彼のマンガは掲載され、その絵のヘタさぶりと強烈な世界観に
話題を呼びます。
が、同時に中田伯君も、
「ぼくって絵がヘタなんですね。個性的だと思っていました」
と気づきます(笑)。あまりのことに編集者一同、ふてぇな、と。
自分の絵がプロのマンガ家と並んで載って、はじめて絵のヘタさに気づいた
中田くんですが、彼はクールというより無表情でなにを考えているかわからない
ような青年ですが、
マンガに対する思いは誰よりも熱く、
老人ホームの調理の仕事をしながら、夜は応募作のマンガを一心不乱に描き、
大塚シュートのデビューの話を聞けば、
(黒沢さんが中田さんの先生のところに帯への言葉を依頼にきたのです)
「次はオレだ」と思って、ネームに一心不乱。
絵はほんとうにヘタで、黒沢さん以外の編集者には、
ペン入れして、と言われてしまうレベル。いやペン入れしてるんですけど。
しかし、絵の見せ方は素人離れして上手く、構図もきれい。
吹き出し、コマの配置など、すべてが卓越しているのですが、
絵だけがずば抜けてヘタ…。
とはいえ、誰もが彼の物語を作る才能は認めているのです。
中田くんに嫉妬するあまり、彼のネームノートをインクで汚し、
隠してしまったチーフアシスタント。
中田くんが自分の母親に受けていた虐待の話を聞いて、
胸に突き刺さっています。
犬の首輪でつながれていた子ども時代だったと。
「漫画がありましたから。」
という言葉に、おそらく、自分より深い漫画への思いを感じ取って、
敗北感を味わったのではないでしょうか。彼が先生にすべてを
告白するのはこの後です。
すべてをまとめて故郷に帰ることを考えていたとき、
中田君が昔描いた漫画のネーム原稿を見て、
これ、読んでみたいです、と。その前には大塚シュートの漫画について、
あんなぬるいマンガ、と先にデビューした者への嫉妬もあったのかもしれませんが、
批判的だった中田君を見ているだけに、読まないでくれ、と思っていたチーフ。
しかし、読み終わった中田君の滂沱として流れる涙を見てしまいます。
3、4巻の中で、唯一と言えるくらい、ふつうの人間らしい涙、に見えたのですが、
やはり中田くんはふつうではなかった。
編集者もほかのアシスタントも読み取れなかった意図を、
中田くんだけが読み取り、そのマンガを読み取る力のの深さにも
チーフはおそろしいものを感じます。
どれだけの作家になるのか、と。
出ていく日、チーフの忘れ物をみつけて届けに走ったのは中田君です。
一見、ぶっきらぼうで気配りなどないような彼ですが、
たぶん、チーフに対して尊敬の念をどこかで持っていたのだと思います。
袋の中身は描けなかったマンガのネームと、落語が何百と入ったiPodでした。
中田君が泣くほどその世界観に打たれてたチーフのネームのもとも、
落語でした。おまえの勉強にもなるから、と中田君に託したかったのです。
しかし、その感動的な別れの場面で、
「俺の分もがんばってくれ!」
と言われて、
「無理です。僕は僕です。他人にはなれません。」
と即答する中田君はいつものこの無表情。
チーフは笑って、お前らしい、と去っていきます。長距離バスの中で、
ずっとマンガの中にいた十年を楽しかった、と思い出しながら涙を流します。
このチーフアシスタントの沼さんはけっして卑怯なひとじゃないんです。
公平に中田君の才能がはかりしれないこともわかっているし、
自分の弱さを正確に見抜いてもいます。
その分析力が自分に向きすぎてしまって、苦しんだのかもしれないと思います。
デビューに必要な気迫というか執念が足りなかった。
いまのままでも幸せだと自分をごまかし続けていた。
その甘さや弱さを突き付けたのは中田君でした。彼は人と関わらないタイプですが、
その無心でマンガにだけ向かっている姿が、いろんなことへの思いでがんじがらめに
なっている沼さんには居たたまれなかった。
三人の新人さんがどう育っていくか、特に中田君がどうなるかが気になります。
と、同時に、1巻の黒沢さんの入社面接で、自分を作って面接を通過しようとした青年が、
落ちた後やけくそになって素で草波社(草思社と岩波書店をミックスしたような名前からあんな感じか~と想像)を受けたら合格した、でも一か月でやめていまフリー編集者なんだ、と登場したように、
この心優しい、実家の酒屋を継ぐために四国の実家に帰った沼さんにも、
また違う展開で再会したいと思ってしまうのです。