金井美恵子の「ピース・オブ・ケーキとトゥワイス・トールド・テールズ」
の「光」の中に、
「少しすえたような体臭や羊毛のラノリンや防縮材や糊や煙草のにおいと混じりあって
化粧品の劣化した油のにおいと香料と香水のにおいがこもっていて鼻をくすぐりは
しないのに、私はくしゃみをして光のまぶしさに眼を閉じる。」
という、これでもか!と言わんばかりの長いセンテンスがあり、金井美恵子は肺活量が
あるなあ!と思う。谷崎だったか井上ひさしだったか三島由紀夫だったか、「文章読本」を
とにかくたくさん集めてよんでいたときに(短大の卒研のためだったと思われ)
誰だったかが、短い句点の文章は作家の体力がないからだ、というのを読んで、
おお!と思った。それだけかい。そう、それだけしか覚えていないです(笑)。
だから句点の打ち方も少なく、ながーい文章を書いている作家って、
もの凄い体力の持ち主!と思ってしまうのだった。句点も読点も一切打たず、原稿用紙に1マスの空白も
ゆるさじ!みたいな作家もいたそうで、きっと潜水をやらせたら相当なものではないかと
妄想している…。
って、ちがくて!
「鼻をくすぐりはしないのに、私はくしゃみをして光のまぶしさに眼を閉じる」ですよ
入り混じったにおいの描写は昔から金井美恵子の得意とするところで、
読んでいるとうっとりしてしまうのですが、具体的に再体験しようとすると、
微妙(笑)。あまり芳しいにおいじゃないですよ。でも刺激されてくしゃみなんかでないにおいであることも
確かでして、
これは、「光のまぶしさに」「くしゃみ」が出たのだと思われます。
池田暁子さんの「人生モグラたたき!」の中に、「光くしゃみ反射」について
書かれています。
光のまぶしさを脳の中で鼻の担当者が混乱してくしゃみが出てしまう…。
私は残念ながらその体質ではないようなのですが、この本を先に読んでいたので、
「金井さん、それは光くしゃみ反射だよ!」
と金井美恵子が住んでいる地区のクリーニング店のおかみさんだったら、
このページにしおりをしておいて、金井美恵子が来たら、金井さん、見て、
と見せるだろうなあ、と思ったです。金井美恵子のエッセイにはクリーニング屋さん、
美容師、獣医師などなど、ふうつの人たちとの会話が生き生きしているのが特徴。
でも、
金井美恵子も池田暁子さんも、お互いの本をよみあって、
あ!これは!ってことはない気がする。惜しい(なにが?)。
余談ですが、池田さんは文系寄りのひとじゃなくて、理系寄りの
ひとなんだなあとこういう文章や興味のあり方をみていると
思う。手が男性並みに大きいとか、方向音痴とか、すぐ眠くなるとか、
他人とは思えない共通点をこの本のなかにたくさん発見しました。
池田さんの本の中で、なぜかこれがいちばんよく読み返す本であります。
ではでは♪