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第29回国民文化祭・あきた2014 演劇フェスティバル参加「S.O.S.」


11月2日(日) 15:00~


雨にも負けず、やってきました康楽館。


盛岡劇場でもらうお芝居のチラシの中に、

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いつもこのちょっと気になるチラシがあって。


グリーンを基調にしたイラストもいいなあと思うのですが、

幟が立ててあって、明治の擬西洋館のこの建物、


旧盛岡劇場に似た香りがプンプンする。

そして青森中央高校の「もしイタ」と


劇団ゼミナール「S.O.S]は見逃せない!と思ったのでしたが、


11月1日のトップバッターの「もしイタ」と2日のトリ、「S.O.S],

けっこう迷いましたが、行ってよかった。


舞台の終わりに、出演した役者による、

メイキングではなくて、サイドストーリーのような

フィルムが流され、


その最後に、


いま大変な思いをしている方も、みんな幸せになれますように、

というような、言葉ははっきり覚えていなくて申し訳ないのですが、


あ、これは震災後に上演されたのだな、と思わせる言葉があって、

震災後に上演されたお芝居の再演ではないかと気づきました。


チラシやパンフレットを読んで予習すればいいものを、そこまできてから

気づく私。でもそれもいいんだと思うんです。


1日目のトップバッター、青森県立青森中央高校の「もしイタ~もし高校野球の女子マネージャーが青森の『イタコ』を呼んだら」も震災後に、なにか自分たちにできることはないか、という部員たちの願いから生まれたお芝居でした。


きょうは間に合わなかったのですが、2日目の13:00~14:00、

劇研麦の会「姉が泣いた」は、2012年8月4日に盛岡劇場タウンホールで見ています。


宮古の劇団で、震災の大津波で家も工場も芝居の大道具小道具も、すべて流されてしまったあと初めての

公演でした。


2日目のトップバッター、劇研椎の実は兵庫県丹波市からの参加でした。1995年の阪神淡路大震災で甚大な被害を受けた市です。


直接震災をテーマにしたお芝居はないのですが、底にはそういう思いがあるのではないか、

それはほかの劇団も共通してもっているのではないか…。


でもお芝居は思いっきりカラッとね!楽しくね!


辛いことがあっても、一瞬、舞台を見ているときだけでも腹の底から笑えたらいいね、

という気持ちを感じました。


とにかく最初から最後まで笑わせて、センスがよくて、スタイリッシュでした。



オムニバス、連作、というより、鎖の輪を連想しました。


ひとつのお話の脇役が次のお話の主役になり、またそのお話の脇役がつぎのお話の主役に、


最後にはエピソードとプロローグが閉じられ、大きな輪になっています。



福田豊四郎の「樹氷」の鹿が四角い光で浮かび上がり、緞帳があがります。


緞帳の向こうにあったのは、キャスト・スタッフの紹介フィルムの上映スクリーン。


盛岡劇場のタウンホールと違って、舞台に奥行きがあるので、そのスクリーンが小さく感じられ、

それもまた洒落ていてよかったです。


さて、「S.O.S」のはじまりはじまり。





5組の男女が、オクラホマミキサーを楽し気に踊っています。


む?しかし一人古代の神々のような、狸のような、不思議な男性が混じっていますよ?


スーツ姿の男性もいれば、袖なしダウンジャケットで防寒している男性も。


ダンスが終わり、ギャグの応酬がはじまり、にぎやかなやりとりがつづいていた、のですが、


一人の女性を残してみんなが立ち去ります。予言のような呪いのような、謎めいた言葉をひとつずつ

彼女に投げつけて。


そして暗転。紫色のスポットをあびて、

シリアスな表情で、


「あの時はほんとうに大変でした」



とつぶやく女性。この、「あの時はほんとうに大変でした」が、

物語の始まりの合図となります。




奇習 (ちなみにこのタイトルもスクリーンに映し出されます)


どうやら日本の秘境レポートにやってきたらしい、女性レポーターとディレクター。

ふたりとも工事現場のような黄色いヘルメットをかぶり、崖崩落の危険のあるところなのか?と。


「ネパール納豆」をなぜか腰にポシェット風につけた住民が登場。

流行を見放したような不思議なファッションの女性である。ほんわかしているかと思えば、

いきなり突き放すようなセリフを放ち、侮れない。


決め台詞は、「教えないよ」


村の変わった風習を聞き出すレポーター・エリカ。

村の女は淡々とびっくりするような風習を次々口にする。赤ん坊が丈夫に育つようにと、

年寄りの頭にカモノハシの玉子を投げつけるとか、

お地蔵さんに五寸釘をうちつけて平和を祈るとか、えええええ?


カモノハシ、日本に住んでいないんですけど!と言っているうちに、そのカモノハシの

宿った謎の神様、「ヌレッポ神様」が登場。


あ。



それは冒頭のフォークダンスでギリシャ風の衣装になんとも言い難いしっぽらしきものを

つけていた男だった。


「ヌレッポ!」と叫びながら変なテンションで舞台を飛び跳ねる。その尻尾を強調した飛び跳ね方は、

バレエのコンテンポラリーのよう。


あの住民の女性が、


「しっぽが濡れているから、ヌレッポというのよ」


と教えてくれるが、神様ってしっぽがあってもいいんでしょうか。しかもこの神様、

ずっと飛び跳ねて「ヌレッポ!」と叫んでいるのですが。


レポーターとしてその謎のしっぽを触ってみようとしたエリカは、


「しっぽを触ったら、ヌレッポ神様と結婚しなきゃいけないんだよ!」と女に言われて、

結婚してくれると思い込んだヌレッポ神様に追いかけられる。



そしてその騒動の輪から残されたディレクターが次の

大変な目にあったひとなのだった。


遭難



遠野の奥の奥の奥のここは、来るのは2時間、降りるのは5時間という謎の場所で、


駅前のタクシーなみにうようよ待っていたカモシカが一頭もいなくては森から出ることさえできない。

エリカとはぐれてすでに一週間も森をさまよっている。

と、そこへ国会議員の弟がさっそうと登場。


どうやって。


もちろん、駅前のタクシー乗り場ほどもいるカモシカに乗ってやってきたのだった。


眼鏡をかけて黒っぽいスーツをきて、きちんとしている風の弟だが、兄と一緒に抱き合ったり、

遭難してしまったことに気づいてパニックになったり。


兄が去ったあと、残された弟の前にやってきたのは、、、。



注文の多い百貨店


もちろん、宮澤賢治の童話だが、森でさまよった狩人ならぬ国会議員の

弟は、最初謎のエレベーターガールに案内される。


どこかの老舗百貨店にいるような真っ赤なワンピースに黒髪がよく映えて、

きれいで可愛らしい外見の、しかし謎めいた案内係。


このエレベーターガールの口癖が、


「命拾いしたな」


慇懃な口調とその「命拾いしたな」のギャップはなんだ。

このエレベーターガールも、例の「教えないよ」という女とおなじ村

だけあるなあと。


さらに百貨店に入ると、やたらポイントカードを作れ、友の会に入れ、

とすすめる案内係の男が。ヌレッポ神様なんですが、弟はまだヌレッポ神様を

知らないので、素直についていく。


空腹の弟に、服を脱げ、クリームを塗と親切そうな声で舌なめずりをしていそうな顔で迫る

ヌレッポ神。賢治の「注文の多い料理店」ですな。いったいどんなレストランだったのか…



食文化


今度の主人公はフリルのシャツブラウスにきちんとした黒のスカートの

女性。ブログに食文化について書いているらしい。


この森の中の郷土料理を楽しみにレストランに入ったのですが…


ランチコースは壮絶なメニューのオンパレード。


スープに入ったイヌワシの丸ごと煮がけっこういろいろひどいかな。イヌワシ、

捕っていいのか、というのもあるし、そのまま丸ごと煮てどうなるの?という。


お魚料理のクリオネの躍り食いなど、よく考えるなあ~と笑いながら感心してしまいます。



デザートのシュー・ア・ラ・クレームだけは極上の一品。気にいった女性が

そのおいしさの秘密を聞こうとすると、じつはそのシュークリームに使われた

玉子を生んだのはあの…。


思わずこみ上げるものを抑えて駆け出す女性、

その背後には玉子を産んだヌレッポ神様がまたもや、


ヌレッポ!ヌレッポ!と。



誘拐


小さいほうのフライパンを盗まれたシェフと、

脅迫の電話をかけてきた男。


300tのブイヤベースを一時間以内に作れ!という、


水道を一時間ジャージャー流しっ

ぱなしにしても300tにならないわ!という

ツッコミを入れたいところですが、


なぜ、300tのブイヤベースなんだと思ったら、

被災したところへ届けたい、という志があってのことだった。



小さなほうのフライパンには「わさお」という名前がついているのだった。

なぜ!


しかし、その小さなフライパンはふいに掠め取られるように奪われ…



筋書きのないドラマ



盗んできた小さなフライパンを抱えている女。


そう、それは最初のオクラホマミキサーのあと、


「フライパンを盗んだのは私です」

と言って去った女ではないですか。


そこへやってきたのは、食文化についてのブログを書いているという

あの女。ん?腰のあたりがなにか、ヌレッポ神様と同じものになっている気が…。


どうやらふたりはある番組に出ているものらしい。


そこへウェディングドレスでやってきたのは最初のほうに出ていた女性レポーター。


ヌレッポ神様の玉子をたべて精神にも体にも異常をきたしたらしい料理の先生(たぶん)と、

そのアシスタントと、

段取りでそのあとウェディングドレス姿で現れることになっている女性レポーター。


どういうドラマなんだ!


と思っているところへまたヌレッポ神様が乱入。



卒業


ウェディングドレス女、モテモテです。


山の中に置き去りにしてきたディレクターがプロポーズします。

ヌレッポ神様の呪縛からエリカを救い出し、逃げようというのです。

ああ、「卒業」ですね。



その弟で国家権力にものを言わせて電球を取り換えさせる衆議院議員、


ランチコースを毎日つくってあげるよ、というシェフ、


特になにもないが、いこうよ、手を引く、フライパン誘拐犯の男。



引く手あまたのエリカ!


しかしまた舞台が赤くなり(赤い照明はヌレッポ神様登場のお約束です)、

ヌレッポ神様乱入。



女子会


なんだかんだありましたが、

登場した女性たちはみんな知り合いだったらしい。


いくつになっても女子会とか和気あいあい(でもないが)と

楽しそうにしているところへエリカ登場。


今度は最初の、ごくふつうのファッションです。


みんなはエリカを遠巻きにしていたらしいのですが、

ある事情があって、フォークダンスを踊らないといけない。


そこでエリカが男性を呼ぶというので、一気にわだかまりも解け(そうか?)

期待にわくわくする女性たち。


現れたのはヌレッポ神、ディレクター、議員男、シェフ、フライパン誘拐犯。

しかしみんな和気あいあいと冒頭のフォークダンスのシーンを繰り返すのだった。


これで舞台は終わったのかな、と思いきやそこで流されるエンドロール。


例のスクリーンにあのヌレッポ神様が登場。

ひとり孤独に山にいるのですが、里へ降りてきて、

自販機で飲み物を買ったり、デパートでスーツを見繕ったりしている。


盛岡の八幡宮に現れたヌレッポ神様は、


その八幡宮前のバス停で並んでいたエリカたちの前に…。


ヌレッポ神のしっぽをつかんだものはヌレッポ神と結婚しなくてはならない

呪いはまだ続いていたのだった。


ヌレッポ神に追いかけまわされるエリカが逃げ込んだのはあの、



盛岡劇場だった…。



最後のフィルムまで楽しかった…。


ヌレッポ神様のあのヌレッポダンスというか、ヌレッポ!と叫びながら

シッポをピョコピョコさせる怪異な動きが忘れられない。


ネパール納豆をかき回して、これさえあれば熊が出ても、

マムシが出ても大丈夫、という変な土地の女も忘れられない。

間の取り方とか、なんでもないことのようにへんてこな風習を語る

ところとか…。


目の覚めるようなウェディングドレスと

ヌレッポ神様の古代出雲というのかギリシャ神話というのか、そこへ

オーストラリアにしかいないはずの有袋類のシッポと腰蓑が合体した

衣装もよかった。というかインパクトがあった。


最後のフィルムにあったメッセージがよかった。



会場は桟敷席で、地元の日ごろからこの康楽館でお芝居を楽しんでいる

人が多く来ていたんだろうなあと思うけど、


見知らぬ人たちと昔からの芝居小屋で笑ったりつっこんだりして

その一体感も忘れられない。



芝居小屋の造りを利用した演出もよかったなあ。こけら落としから歌舞伎の演目が

上演されたという芝居小屋ですから、セリからあのヌレッポ神さまが文字通りせり上がってきたり、


長い花道を駆けてきたり、花道って桟敷席の時にいちばん効果が出るんだとわかりました。

ふつうの席だと後ろまでくるっと振り向けないけど、桟敷席に座布団だと自在に振り向けますからね。


ひとつのお芝居をみた、というだけではなくて、康楽館ごと、昔からあるお芝居の楽しみを体感できた喜びもありました。


終演後の挨拶で、ゼミナール主催の斎藤さんから、

この演劇フェスティバル主催者へ、


「ご配慮で鳥も飛ばしてもらって」


とありまして、ネパール納豆のある遠野の奥の奥の奥、の山の中という設定の山奥だからか、

鳥がずっと飛んでいたんですよ。ナマの、も変だが、生きた小鳥が。


迷い込んできたのかな?それにしてもタイミング良すぎるなあ、と思っていました。

議員男が鳥を捕まえようとしたりして、鳥だけにダンドリだったのか、それともハプニングだったのか、

どっちなんだろう~と思っていましたが、鳥まで登場する舞台を楽しめたのも、


一期一会の舞台という気がします。

(真相はほんとうにわからないです)