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ワールドツアー 作・演出 高村明彦


現代時報第17回公演 プロデュース5th


2014年11月1日 14:00 19:00

2日 14:00 19:00

3日 14:00


(開場は開演30分前)



盛岡劇場 タウンホール



チラシは青い空をまっすぐ飛んでゆくヒコーキと飛行機雲、というシンプルな

もの。ワールドツアーって世界一周旅行?でもそんな大胆なことを盛岡劇場タウンホールで

どうやってやるんだろう…。


と思いながら地下への階段をたたたと降りていくと、万国旗が手すりの下の壁に張り巡らされていて、

おーーー、とうれしくなりました。

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時々、この階段をお芝居へのアプローチとして使っている劇団があるのですが、舞台が楽しみになります。ちょっとしたおまけのような楽しさ。



セットは白、青、緑の3色で色分けされた四角い舞台と、

白い、病院にあるようなパイプベッド。シンプルで爽やかな配色だなーと思っていたのですが、


お芝居の中で「私」が大きな地球儀を持ってある場面があって、


青と緑は地球儀のベースカラーだった、と発見しました。


舞台挨拶があり、最初にウォーミングアップをしますね、と、国旗のカードを手に、

国名あてクイズがはじまります。


一人が中央に立ち、まわりを囲むようにほかの人たちは座って、

楽し気に国名を口にしています。


どこかで見たような景色だなあと思っていると、みな退場し、いよいよ舞台がはじまります…


ベッドに入院患者らしい女の子「私」が登場。


一方、メインの舞台にはパイプ椅子が置かれ、そこに大きな登山用のようなリュックに海外旅行用の

大きなスーツケースの女性が。なかなか活動的な雰囲気の女性です。


やがて女の子はヘッドフォンをつけ、海外にいるらしい女性に、「先生」と呼びかけます。



どうやら少女(高校生くらい?)である「私」と「先生」はスカイプで話をしているらしいのです。ベッドの上のノートパソコンで。


先生は生き生きと旅の楽しさを語ります。はじめに行ったのは中国の山西省。ジャーーーンと銅鑼の響きから先生の中国旅行篇。


英語でペラペラ話す現地ガイドに、日本語でおねがい、と頼むと、まだ若い娘さんのガイドは

達者な日本語で話しはじめ、お母さんが映画「敦煌」のスタッフにやさしくされて、日本びいきなの、と。


実際にあった海外旅行のエピソードが織り込まれているとそうなので、

ひとつひとつの土地の様子が立体的に伝わってきます。

会場に花道がつくられていて、そこからラクダが悠々あるいてきたり、花が撒かれたり、タウンホールの小さな舞台が客席まで拡張されたような気がします。

客席はヒコーキのシートであり、砂漠だったり、インドの雑踏だったり、「先生」のワールドツアーの中にすっぽり入ってしまったのではないでしょうか。

「先生」は旅をつづけ、


さまざまな動物や人や景色に出会い、その楽しさはスカイプで教え子である「私」に届きます。


入院中の「私」のところには、亡きおじいちゃんとともに海外旅行をたくさん楽しんできたおばあちゃんが

お見舞いに訪れ、こんどはおばあちゃんの体験した海外旅行の話になります。


ひらひらとスカーフを手に舞うおばあちゃん。包み込むような雰囲気と、

茶目っ気のある不思議なおばあちゃん。


そして「私」の幼馴染で、長い特攻服を着ている男の子が見舞いにやってきて、

「いきものがかかり」のCDを貸してくれます。ちょっと言葉を単語をならべるようにしか話さない男の子で、

ぶっきらぼうな感じがしますが、


やがてなぜ先生が海外旅行に出かけたのか、というお話の中のお話のエピソードがはじまります。


オレオレ詐欺を仕掛けていた「亀梨」という男(かけていた相手はあのおばあちゃん。だまされたふりをしてからかっているのですが、亀梨は気づかない)を見咎めた米ヤンが、ケンカを仕掛けて相手を一瞬にして改心させてしまったのです。


米ヤンが通行人に暴力をふるっていると勘違いした先生(どうやら「私」「米ヤン」ふたりの担任であったらしい)が亀梨にこの子はこんなカッコウをしているけど、悪い子じゃない、と代わりに謝ろうとするのですが、


亀梨はおかげで罪をおかさずにすんだ、とすっかり人が変わったようになり、

なぜか先生にお礼ということで旅行代理店に連れて行って、海外旅行をプレゼントすることに。

先生が選んだのはワールドツアーでした!



こうして海外旅行に旅立った先生。


ふっくらした顔にくるくるした天然パーマ、好奇心いっぱいのまなざし、

魅力的なツーリストの誕生でした。


しかし、この先生には心配性で妹が好きすぎる兄がいて、

妹を案じてこっそりお目付け役をつけます。それが平良田。


彼は偶然飛行機で隣り合わせ、奇しくもおなじワールドツアー。

仕事で成功して、ご褒美に世界旅行にやってきた、と先生にはいい、

時々日本にいる先生の兄と電話をしています。


その間にも入院中の私と先生のスカイプでのやりとりはつづいていたのですが、


ある日、突然、先生からの楽しい旅行だよりは途絶えます。

もう4日になる、と「私」は病院を抜けて先生のことをお兄さんに尋ねに行こう、と

決心します。真っ赤なフード付きのトレーナーを着て、でかけようとしたところで

例のヤンキースタイルの米ヤンがやってきます。


ロングカーディガンをボタンを掛け違えてだらしなく着込み、入院しているひとのような雰囲気になっています。



あれっ?


ここでいままでのことはすべて、入院中で孤独な「私」の妄想じゃないのか?と考えてしまいます。

米ヤンはヤンキーではなく、やはり入院している男の子で、「ワールドツアー」は、なんでもネットで調べている「私」の作り出した世界…。


と思っていたら、米ヤンが先生からのメール、と「私」が出した紙を一瞥して、これ、手書きじゃないか、と。


真っ赤なトレーナーを来た「私」は止める米ヤンをけちらし、外へ出ようとします。


そこへなぜか先生のお兄さん、あの先生のお目付け役だったはずの平良田、

そしてその平良田になついてしまった亀梨が。


現実と妄想がほころびてしまったような展開。誰がなにを夢見ていたのか。


いままでのいい子の仮面を脱いで、小さな体で駄々をこねる子どものように荒れる「私」。


おばあちゃんが現れて、みんなにリンゴを剝いてあげる、と言いながらなぜか、

ミカンや虫のスナック(誰かの海外旅行のエピソードに登場するのです)を配ってあるきます。




やがて、ドクターが現れ、夜遅くまで寝ない子は誰だ、と。


やっぱりみんな入院患者だったんだ、と思っていると今度は、


あの「先生」がやっぱり旅行者の姿で現れ、白衣のドクターに向かって、

叱責。叱られて肩をすくめ、まるで幼稚園児が先生に叱られたような態になって

袖に引っ込む偽ドクター。


では、この先生はいったい誰?


還ってきた先生を囲んで、みなホッとした顔で楽しそう。



先生の「ワールドツアー」は「私」の空想であり、おなじ入院患者たちとの

交流の中から作られたもう一つの現実だったのでしょうか。


と思ったところで、あの、山西省で先生のガイドをしてくれた

女の子がやってきました。岩手に来て、と先生が言っていた言葉に

応えて病院にやってきたのです。





また、先生がリーダーになって国名クイズがはじまります。


楽しそうに答える人たち。最初とおなじ場面なのですが、

ツライことがあっても、

ひと時の楽しさを共有しようという、ほろ苦いやさしさに満ちた光景にみえました。



「先生」は(おそらく精神科の)ドクターだったのでしょうか。

集まったどこか子どもの心を残したような、

「お兄ちゃん」も「亀梨」も、「米ヤン」も「平良田」も、


みな、「私」とおなじ病棟の入院患者だったのでしょうか。



空想の中に現実がなだれ込み、現実が空想に溶け合うような最後の場面で、

リカ先生を囲んで、みんなが楽しそうでした。


入院患者がいる病院の精神科のドクターが海外旅行にふらっと出かけて戻ってくる、というのは

ちょっと考えられないので、


みんなに頼られている「先生」はある日、出張に出かけることになったけれど、

小さな子どものような心が弱っている患者たちに、ワールドツアーというおとぎ話をひとつ与えて出かけたのではないか。


あの魔法使いのようなおばあちゃんの存在は、じつは総婦長だったりして。

(先生とおばあちゃんだけがしっかりとした実在感を持っていた気がするのです)


しかし、そんなふうに理屈をキチッと立ててつじつまを合わせようとすると、

この舞台のシャボン玉の七彩の輝きのような魅力はパチンとはじけてしまう気がします。


次々と溢れるシャボン玉のあぶくのような夢を一緒に楽しんだ、

そう思います。