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第29回国民文化祭・あきた2014 演劇フェスティバル会場康楽館。

はじめて行ってきました。国重要文化財のこの建物自体も魅力的ですが、
中の桟敷席なども当時のままで、お芝居がないときは「明治の芝居小屋」の
案内を黒子がしてくれるそうです。


小坂鉱山事務所もまた国重要文化財で明治の擬洋風建築で、
じっくり見たかった…あしたも行くのでその時に!とつよく誓ったのですが。



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さて、きょうの目的は、

「もしイタ~もし高校野球の女子マネージャーが青森の「イタコ」を呼んだら」

2011年震災後に、被災した方々のためになにかやりたい、という部員の希望から
生まれたお芝居で、どこでもやれるように、舞台装置や小道具、照明も音楽も用いません。

はじめて見たのは2013年5月31日、もりおかのおでってプラザでした。

舞台を駆け回る高校生たちのエネルギーと、笑わせて笑わせて泣かせる、
こちらの感情を絞りだすようなトルネードに巻き込まれました。

すごかった、という記憶のままにして、見ないという選択肢もあったのですが、
行ってよかった!!

前に見た時も来てよかった!と思ったのですが、
今回は康楽館という明治の芝居小屋で見られて、それがまたよかった。

桟敷席ですからみんなお客さんが座って見ているわけで、客席の一体感というか
温かさにつつまれる感じがまたよかった。



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(もらったリーフレットの写真を拡大してみました)

小道具や舞台装置だけではなく、ごらんのとおり、

演じる30名の演劇部員たちは衣装もふつうのまま。というより、それ以上に
匿名性を感じます。

黒のTシャツに、無地ではなくプリントやイラストがあって、下は学校指定のものでは
ないかと想像される紺色のジャージ。


最初に、甲子園の歌を3Dのような迫力で歌い、代表の男子が挨拶をして、

舞台がはじまります。


学校のグラウンド。やる気のなさそうな部員たちは
5時半になると練習をやめて帰ろうとします。

ここでカラスがかぁかぁ鳴きながら通るのですが、それも生徒。
翼のように腕を羽ばたかせて、カァカァーと鳴きながらあるいていく。

新しくマネージャーとして入った早紀は、もっとガッツリやってほしい、と
部長を引き留めますが、

「サンロードでデートだから」と帰っていく。サンロードとは青森サンロードのことです。
青森に住んでいたのでわかって可笑しい。ここは青森の高校、という設定なのです。



早紀は部員が8人しかいなくて、試合にも出られない現状を打破すべく、

4月に転校してきた、もとの高校では野球部だった松尾健司スカウト作戦を決行。


朝のジョギングが松尾健司の日課ということまで突き止め、早朝の森で待ち伏せ…。

この森も生徒たちが森になり、カッコウになっています。

すべてを自分たちの肉体と歌声と鳴き声で賄うのです。それがすごく可笑しかったり、
温かかったりします。



松尾は早紀に負けて放課後のグラウンドに現れたのですが、
丁寧にマウンドを均しながら、


じつは俺、下手なんだ、と告白。

この場面で松尾は震災の津波でチームメイトも家族も、コーチも、グラウンドも、
すべてを流されて失ったことを、

それまでのクールで淡々とした仮面をかなぐり捨てて語ります。

生き残った自分が野球を楽しむことに申し訳なさを感じているのだと。

早紀も父がやり投げの選手で、自分も子どものころからやり投げをやっていて、
高校一年でインターハイ出場をきめたものの、ケガによりやり投げができなくなったことを
話し、

やれる人がやらなきゃ、と松尾を励まします。


松尾が入って9人になった野球部。しかし相変わらずのやる気のなさの部員たち。
早紀がついに彼らにたいし、

「負け犬!」と挑発すると、それまでへらへらしていた部員たちが早紀に殴りかかろうとし、
部長が止めてなぜこんなにやる気のない部になったかを語りだします。


60-0。


去年の高校野球予選で彼らが出した、いや打たれた、弁慶の立ち往生のような凄いスコアです。
相手のチームは、笑って楽しそうに、バッティングセンター気分だったことも惨めな思いを倍加させました。


ああ。

野球のスコアじゃないスコア。それは昔、おなじ青森県内の深浦高校が
打たれに打たれて出した、122-0を思い出させます。相手は私立の名門高校とはいえ、

3桁のスコア。


部長がピッチャーなのですが、投げても投げても打たれ、学校でもバカにされ、
部員もどんどんやめて、新入生で入ってきたのは(推薦目的の)花梨だけ、と
自嘲的に語る部長。

俺だってほんとうはガッツリやりてぇ。

早紀はこのチームを甲子園に連れて行ってくれるコーチを探します。

そしてそれはすぐ身近にいたのでした。


「うちのおばあちゃん」

やる気のない野球部のやる気のない、推薦に有利だからマネージャーやってるんです、という花梨が
うちのおばあちゃんならできる、と腰の曲がったおばあちゃんを連れてきました。

全員高校生なんです。この腰の曲がったおばあちゃん役の女子生徒は、
ずっと腰をまげて歩くのです。すごいきつい演技だと思います。

腰が曲がっていて、ひょこひょこあるきつつ、イタコとして威厳もあるおばあちゃん。

そう、イタコなんです、新しいコーチは!

イタコの技をもってして、史上最強の野球選手をおろして、
その力で甲子園へ!という作戦です。

健司が自ら名乗り出て、山籠もり1か月、1週間の断食3回、読経1万回の苦行を成し遂げもどってきます。


健司ががんばっているから俺たちもがんばろう!という熱い練習をつづけてきた
部長と部員たちの前に、

伝説の野球選手、沢村栄治の憑依した健司が。

ここまでが前半。

最初に、舞台は60分です、と挨拶した代表の言葉を思い出し、時計をみたら
30分たったところでした。


明日から甲子園予選という日に、早紀は誰もいないマウンドで、
やり投げをやってみようとします。

しかし、肩に力が入った瞬間激痛が襲い、痛みともうやり投げができない辛さから嗚咽をあげる早紀。

そこについこないだまではやる気のなかった花梨が、生き生きとした顔でやってきます。
彼女も部員たちと一緒に息を吹き返したかのようです。

きょうの締めの挨拶は早紀先輩に、とみんなが待っています、と。


…やり投げを失った代わりに、新たに得た信頼と友情が早紀を温かく癒すようです。
やり投げの場面は、黒い背景の布に、早紀が小柄なので、広いグラウンドにたったひとりいる、
実はずっと孤独だった早紀の心情が伝わってくるようでした。

そして予選開幕!

1回戦2回戦3回戦、破竹の勢いで勝ち進む健司たち。
それは職員室にかかってくる電話を取る先生たちの過剰なリアクションでわかります。

よっぽど弱かったんですね。

昭和か!というリアクションの数々に吹いてしまいました。

試合ではなにしろ沢村栄治がのりうつっていますから、
文字通り鬼気迫る力投を続ける健司の前に敵なし状態。


そしてついに決勝!これを勝てば悲願の甲子園です。

しかし、非情なるバント作戦に出た相手高校。健司を疲れさせて
試合を有利に運ぼうという作戦です。

ついに延長14回の裏。

沢村栄治の魂がもうこの肉体はもたない、と、イタコのおばあちゃんコーチに
頼んで健司の肉体を離れます。

健司は自分の力だけで15回の表を投げ、0-0のスコアが一気に
15-0になり、大差で敗退。


でも、ここで物語は終わりではなかったのです。


健司がうけた過酷な修行を夏休みのあいだ受けた野球部員とマネージャーたちが、
夏休み明けに、

なんで1か月もシカトしてんだよ!ときれる健司の前に現れ…。



この最後の場面はもう涙がとまらなくて、てのひらで涙をぬぐってみていました。

会いたい人たちに逢えた健司に泣いたのか、

野球部員の友情に泣いたのか、

この舞台を力いっぱい駆け抜けて、被災を受けたひとたちのためになにかやりたい、
と思った青森中央高校の生徒たちに泣いたのか、

そのすべてだった気がします。


歌もアクションもなにより熱が前に見た時よりもパワーアップしているようでした。

2011年9月から全国各地で上演をつづけ、きょうの舞台は51回目だったそうです。


また出会えてよかった。

前に見た時とキャストは高校ですからたぶん、卒業があったりで変わったと
思いますが、バトンはたしかに渡されていると感じたのでした。

ほんとうにおもしろくて、見てよかった!と思えるお芝居なので、
近くで見られる機会があったらお見逃しなくです。


ではでは☆