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「ドミトリーともきんす 」高野文子 (中央公論新社)



あとがきにあった、自然科学の本を読んでいると、


乾いた涼しい風が吹いてくる


という風は「ドミトリーともきんす」の中にも吹いている。


 製図ペンを使い、気持ちを込めずに描いたという。

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高野文子は以前、ユリイカの特集で、本を読むのは知識を身につけて賢くなるため、
というような発言をしていて、


その衒いのなさ、清々しさに驚かされた。当たり前のことのようでなかなか口に出して言える人はいない。


「ドミトリーともきんす」の4人の寮生は、
朝永振一郎、牧野富太郎、中谷宇吉郎、湯川秀樹。


朝永振一郎と湯川秀樹は同じ高校・大学を経て、無給の研究室助手で席を並べていたことがあったのだが、4人が山小屋のようなつくりの寮でくらしている、というのは物語の中の物語で、

お母さんが小さな娘に4人の科学者たちの言葉を詩のような言葉と絵で伝えるために、


「たとえば、あなたとわたしがちいさな下宿屋さんをまかなっていたとしてみましょう」の言葉からはじまった空想のなかの寮。

「黄色い本」では「チボー家の人々」をよむ女子学生をジャックに重ね合わせ、家族や時代や学友たちとともに描き、文学の世界をマンガで紹介した。


本書では、マンガで実用の仕事はできないかな、マンガで読書案内がしたい、と、
4人の科学者とその言葉を紹介しています。

読後感はちがっても、

本を読むということを大切に思っている作者が向こう側にいる、
その安心感は変わらないのです。

このふたつの本の間に、福音館書店のこどものともから「しきぶとんさん かけぶとんさん まくらさん」があり、

ちいさなひとに向けて語りかける、その視線を自分のものとして世界を見る、という点で本書にも通じる。

マンガを読むのは仙台から大宮に新幹線はやぶさで移動するくらいの時間だけれど、

描き手はおなじ距離を自分の足で歩いたくらいの時間をかけて作り上げたのではないかと感じる。

紹介されていた4人の本を読んでみたいと思った。