こちらは本日発売(ギャラリーショップ、ガレリーナにて)の
岩手版 三沢厚彦ANIMALS2014 のミニ図録です。
対談のあと、ガレリーナに寄って出たら、三沢さんがファンの
若いお嬢さんたちに囲まれてサインをなさっていたので、
便乗してしまいました…。サインだけでも申し訳ないくらいなのに、
イラストと私の名前まで…申し訳ない。かたじけない。
さて、きょうの午後は美術館ですごしまして。
アーティスト対談「三沢厚彦 × 中沢新一」
「動物と人間と-木の中から生まれるかたち-」
出 演:三沢厚彦氏 × 中沢新一氏[人類学者、明治大学野生の科学研究所所長]
日 時:2014年9月23日(火・祝) 14:00-15:30
場 所:ホール
早めに行った甲斐があって、一番前の席でした。
それはいいんですが、演劇だといちばん前の席がいいに決まっていると言えますが、
対談だと目のやりどころに困る…。お芝居じゃないんだから、あんまり凝視するのも申し訳ないし。
申し訳ないと言いながら、
中沢新一さんが思ったより若々しく、イメージと全然ちがっていたのに
驚きました。なにかこう、学者というか二枚目というか鋭利というか…。
「動物のお医者さん」ファンの方になら、漆原教授を若くした感じ…と言ったらわかってもらえるでしょうか。
動物がものすごくすきで、もちろん、宗教学者・人類学者でもあるので、神話や民俗学の動物の話もふんだん
ですが、動物の話になったら止まらない感じです。
クマ部屋があったり、イヌ・ネコの部屋があったりするのを見ても、
イヌ・ネコ・クマが特別な存在だとわかります。
イヌ・ネコ・クマの形のコードみたいなものを自分の支柱に入れるのに苦労したけれど、
それができたらなんでもつくれる、と。
こちらが岩手県立美術館にできたクマ部屋です。
巡回展ですから、美術館ごとにレイアウトも違うと思われます。
三沢さんが岩手県立美術館をほめてくれたのがすごくうれしかった。
そうでしょ!いい美術館でしょ!
「つくったひとの名前の出ていない美術館はいいね。
名前の出ている美術館は美術館としては…」とほんとうに漆原教授なみに歯に絹を着せない
中沢さん。きょう1日でファンになっちゃったなー。私は南方熊楠がすきなので、熊楠の文庫本の解説や監修を
なさっているひとだな、と思っていたのですが、なんかご本人が熊楠がかっていました(笑)。
おふたりで時間をすぎるのも気がつかないくらい、ほんとうに
たくさんの動物と祭りや神話、彫刻、土地、縄文など多岐にわたる
お話をしてくださって、
質問はありますか?とおしゃったときにはすでに時間を8分超過(笑)。
私はこのころんと転がっているクマがすきだったので、
どうしてこのポースなのか、伺いたかったんですが、8分超過だしなー、
とめずらしく遠慮してしまったです。ははは。
ら、勇者が聞いてくれましたよ!
「三沢さん、萬鉄五郎はどう思いますか?」 すごいすごいすごい。
それは私が聞いてもよかったくらいだ。ありがたいです。
三沢さんに萬鉄五郎のことをいい!と言ってもらったので満足です。よく聞いてくれた。
もうひとりの方は、三沢さんのでっかい作品をみて、なにかに似ている~と思って、
そうだ、長沢芦雪だ、と思ったそうです。それもナイス!私は内心、
ワニやユニコーンを見て、もうひとふんばり、クジラをやってくれないかなーと思っていました。
これについては、中沢さんが、東北はね、でかくなきゃダメなんです!
青森県立美術館の「青森犬」、三内丸山遺跡、ねぶたまつり、
花火…と例をあげてくれて、
だからでかいものをつくりなさい、と、
でもでも、東北人だからなのか、私もでっかい作品がすきなんです…。
いつかクジラもやってくれたらうれしい。
これは本美術館が初公開の、三沢さんの初期の作品、
「彫刻家の棚」です。載せてくれてうれしい。
左がフランシス・ベーコン(画家)、右がロイド・ボイス(彫刻家)。
三沢さんも中沢さんも、岩手県立美術館の建物自体もずいぶん
ほめてくださって。
三沢さんは搬入路、搬入口が完璧!と絶賛でした。
大きいものもすんなり入れられると。
建設会社は日本設計です。
ジブリの森美術館や石ノ森萬画館、藤子・F・不二雄ミュージアム、
アクアマリンふくしまなど手がけています。これは私がお客様から
聞かれたら話そうと思っていたネタですが、いまのところどなたも質問してくれない(笑)。
中沢さんも、デザイナーの名前が出ていない、大手の建築会社の
美術館がいい仕事をしていると最近思うようになって、と話され、
大阪のあべのハルカス(竹中工務店)がいい、というお話をなさってました。
三沢さんは、痛ましい、とは捉えていなかった。
中沢さんもこのボディー部分が全然傷がつかず、こういう状態で
残ったことがすごい、とおっしゃっていて、そこに打たれた。
傷ついても、部分が失われても、この彫刻の存在感は損なわれない。
そういうふうに言われたのが、岩手のことのようでしみたのかもしれない。
私がいちばん気になっていた、あの転がった姿勢のシロクマについても
書かれてあって、引用します。
「寝ころびながらも身をよりじ、場を満喫している…。
そんなシロクマが空間のど真ん中にいると面白いと思った。
存在の強さは数や大きさではなく、
常に空間との関係性によって導き出される」
(『文學界 2011年6月号』)
やっぱり、「大きさではなく」とおっしゃっておられる…。
中沢さんの「東北は大きくないと!」の声が思い出されて笑えてくる。
前回の対談は、おなじ彫刻家の舟越桂さん、しかも木彫、ということで、
ふたりでぐいぐい深くもぐっていくようなところもあった。
今回は異種格闘技!
中沢さんが繰り出すパンチが、思いがけないところに入り、
たとえば、
「ぼくは動物をみると、すぐにお尻に回って、オスかメスかみるんだよ~。
三沢さんの動物はなにもついてないね」
じつは私も動物のお尻にまわって尻尾を持ち上げるタイプの人間であって、
去勢していないオス猫のふぐりが梅の実みたいで可愛い、という、
中上健次の言葉をなにかで読んで、中上健次、そこだけですきだ、と思ったくらいです。
これに対して、三沢さんは内心、そこ?そこなの?と思ったと思われますが、
彫刻は性を持たない存在だと思っているので…とパンチを避けると、
今度はなぜか、コウモリの睾丸の大きさについて話し出す中沢さん。
もちろん、今回の展示のコウモリ(動物たちがいっぱいいる部屋の天井にさかしまに羽をひろげている)には
睾丸なんかないです。だって彫刻なんだもの!
異種格闘技だから、すれ違いもあります。
でも思いがけない方向への広がりもあって、すごく楽しかった。
動物をみると撫でたくなる、というのも同じで。
しかし、展示のライオンをなでなでして注意されたとおっしゃっていて、
そんなすごいことをするひとがいたとは…と。漆原教授そのものだ。無法地帯だ。
でも、なでてみたい、と私も思っていたので、そこも共感しました(笑)。
木彫の彫り跡の質感を手のひらで直に感じてみたいんですよね。
(やりませんが)
興味深かったのは、
北欧の狩猟民族のあいだでは、クマは人間にもっとも近い動物だ、と思われていて、
クマの毛皮を剥ぐと、その中身は驚く程人間に似ている、ということ。
全身の毛皮を剥がれたクマなんてなかなか見る機会はないのですが、
思わず、よしながふみの「大奥」のクマと人間だけが罹る風土病、赤面疱瘡を連想してしまいした。
また、稲作が最初にはじまったのは九州の福岡、佐賀だけれど、三内丸山の縄文人が
稲作がはじまってわりにすぐに九州に行って、稲を持ち帰っている、という中沢さんのお話がなぜが残りました。なんでそんなに早く情報が?と思いきや、その時代にすでに日本海側を舟で行き来していたもよう。
(メモなので、このとおりお話になったわけではなくて、だいたいのところです。
間違いがあったらすべて私の責任なので申し訳ない)
青森も岩手も、東北ですから、東北ってすごかったんだ!と言われたようで鼻が高い(変?)。
平泉文化についてのお話もおもしろかった…もちろん、中沢さんも、これは私がそう考えているんですが、
と断っていらしゃって、仮設ではあるのですが。
アーティスト対談、その1その2とも楽しかった。
作品を鑑賞にきて帰る、だけでは到達できないところへ、
舌の翼にのって、さーっと連れて行ってもらったような気がします。
三沢厚彦展は10月13日までですが、できたら、三沢さんご自身による
ギャラリートークにも参加したいなーと。
✩ギャラリートーク(三沢厚彦氏による)
場所:企画展示室
日時:10月13日(月・祝) 14時~15時
ではでは。