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三沢厚彦ANIMALS in 岩手 

岩手県立美術館 

10月13日まで 


どちらの美術館でもそうですが、美術展に関連したさまざまなイベントがあり、
それに参加すると美術展の理解と楽しみが深まるので、

うまいことタイミングが合えば参加するようにしています。強欲だからね。


きのうは30人くらいの参加だったかなあ。人数が少ないより多い方が聞き甲斐がある気がする。
展示にもよると思うけど、ご覧のようにスペースにゆとりがある展示なので。



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会場のレイアウトと出品リスト。

今回展示には一切の作品名のプレートも解説パネルもないんです。

「壁に(見る人を)引き止めさせたくない」という考えからですが、

三沢厚彦さんの作品のタイトルの付け方、


ANIMALS 2014ー01

にも通じています。

三沢さんは、


動物との出会いを体験してほしい、

という気持ちで名前をつけないそうです。

たとえばクマという名前を持たない、森の中にいる巨大で凶暴な、

あるいは石井桃子訳が私たち日本人には馴染んでいる、クマのプーさんのような
すこしまぬけで可愛らしい、テディベアのイメージ?

名前をつける以前の動物のイメージに、美術館の中にある、白い森で出会う。

解説を伺いながらそんなことを考えました。

岩手県立美術館の展示室の壁は白く、イメージを固定しません。

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ところでこの動物のシルエットを書いたのは、学芸員さんなのかな。
三沢厚彦さんなのかな。小さいことなので聞きそびれました(笑)。







グランドギャラリーからすでに動物たちがお出迎えに参上しているわけですが、

受付前のクマに挨拶して中に入ると、入口のところにもふたつの象徴的な作品が待っています。

コロイドトンプの象と、ふつうのわんこです。


そして中に入ると、コロイドトンプと、「彫刻家の棚」という、

ANIMALS以前の作品が展示してあって、私はこのANIMALS以前の作品が
すごく気に入ってしまって、

ANIMALS2014のチラシには載っていなかったので、これこれこれ!と思ってしまいました。

おもしろい作品なんです。



コロイドトンプの作品は図録にはなかったので、画像をネットで探してきました…。
小さいですが、円いつぶつぶによってできている、

四角い台座の上のクマや、人馬や、謎のしっぽのあるなにか。


コロイド=液体と固体の中間の状態
トンプ=お墓

で、三沢さんの造語なんだそうです。

ちなみに検索したら、コロイドポンプという言葉がまず出てきた(笑)。

語感からだまし絵の手法を連想してしまいましたよ。


模索していた時期に海辺を散歩していたら、嵐のあとで流木が漂着していて、
それが砂浜に広がる大蛇のようで、漂着物を集めて作品をつくりはじめたのが
コロイドトンプの作品たちだそうです。

ところが、漂着物をあつめてつくった作品では、

労力がすごくかかる(そりゃそうだ!)。
全体と部分のバランスがわるい。


作り手もそうだろうけど、みている人もやっぱり、あ、ここに緑色のなにかがある、
プラスティックだろうか、とか、木片の濃さとか、やっぱりディティールに気をとられてしまう。


そこで、進化したコロイドトンプでは、今度は木を円く掘って、それを一個ずつ接着剤で止めていく…。

それもすごく労力がかかる気がするんですが気のせいでしょうか。




三沢厚彦さんのコロイドトンプ(彫刻ノオト)から連想したのは、
スボード・グプタの「ライン・オブ・コントロール(1)」2008年

インドの人たちが日常的につかっている金属製の食器や鍋などを
あつめてつくられた、きのこ雲の形の作品ですが、

この増殖する細胞のメージが重なって見えました。


図版はないのですが、すごくいい!と思ったのが彫刻家の棚。

彫刻家へのオマージュ、

画家へのオマージュ

の2つがあります。

木製のドア1枚分くらいの高さと幅の棚に、

フランシス・ベーコン(画家)とヨーゼフ・ボイス(彫刻家)にまつわるもの、

あるいは関係のないものがコラージュされている。


三沢さんが対談でおっしゃっていた、3つ目にはアンディ・ウォホールという言葉を
思い出しましたが、

もちろん、フランシス・ベーコンの三幅対になぞらえたもの。


私はヨーゼフ・ボイスを知らなかったので、家に帰ってから調べたら、

フェルトのハットを被った写真と、
うさぎの作品があることが判明。

棚の下に、デフォルメされた、ロボットっぽい可愛さのうさぎの頭だけあったなあ。

このふたつの棚が岩手会場版のミニ図録に載るといいなあ。


9月23日発売予定だそうです(美術館のショップのお姉さんから教えてもらった)。

大きな図録もあるけど、会場ごとのミニ図録(500円)はすごくいいです!
おすすめです。



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コロイドトンプのヒトウマの下には、ガラスケースに入った、
膨大なモノたちが。タバコの箱とかセルロイドのおもちゃとか、
紙切れとか写真とか…個人の記憶の海に打ち上げられた漂着物とでも
申しましょうか…


アンディ・ウォホールにたとえば、1972年という年に買った本やでかけた
コンサートのチケットなどの一切を収めた箱という作品があって、

アンディ・ウォホールは収集癖とものを捨てられない癖があって、そういう
作品になったらしいのですが、「彫刻家の棚」にアンディ・ウォホールの話が
頭にあったので、うーん、こういう発想に共感するものがあるのかもーと
ひとりで納得する私だった。

これは解説ではなくて、私の感想ですが。

✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩


なぜどうぶつなのか、と聞かれて三沢さんが語るのは、


誰でも知っている。

ハダカのままで色や形を提供してくれる。

ワニなど大きなものから(6mのワニが会場で待っております)

12cmのカエルまでバリエーションがあって作りやすい

サイズにかかわらず等価である。


というのはたとえば絵だったら、大きな絵を描くと大作だということになるけれど、
大きければ大作、ってちがうんじゃないか。

動物彫刻では大きいから大作ということはないので、
ライフサイズにこだわって制作する。

そして展示についてですが

展示会場を見てから展示動物を決めるのだそうですが、

どうぶつ作品はたとえば、人物の彫刻と違って、

鳥だったら空中にあっていいし、トカゲが壁を這い上っていてもいいし。

人の彫刻が空中にぶら下げられているとそれはおかしい…。

たしかに人が飛んでいると、「フライングマン」とか、べつの意味合いになってしまいますね。


テナガザルは壁から突き出た棒につかまって下がっているし、コウモリやワシは空を飛んでいるし、
カエルやスズメは小さな独立ガラスケースにちょこんと入っていました。

壁や天井をキョロキョロするのも楽しいと思ったです。展示室全体の、壁や天井まで見るきっかけにも
なるというか…。




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白い壁のなかに立つ、巨大なユニコーン。


小学館の動物図鑑でサイズだけは確かめる三沢さんにしてめずらしい空想の動物作品。

しかも巨大で二頭が向き合ってたっている。


企画展示室の外に、三沢厚彦さんのアトリエを再現した部屋があって、
こちらも見逃したら損だと思うんですが、そこに、

「展示プラン」のレイアウト用紙(なのか?)があって、プランなので
どうぶつたちの位置や部屋が変わっているんだけど、


このユニコーン部屋は「白い動物の部屋」となっていました。




発想のもとになったのは、北海道でであった、
観光幌馬車を引く、でかい馬だそうです。




ばんえい競馬では性格がおとなしすぎて全然勝てず、
あやうく九州へ(馬肉となるために)やられるところを救われた、

銀太くんを思い出しましたよ。銀太くん、1tあるんです。

私はそれまで馬がすき、という感覚がわからなかったんですが、
この銀太くんを見て、観光幌馬車に乗って、触って、

馬ってめんこいなあと思ったです。

銀太くんじゃないかもしれないけど、銀太くんを思い出した、
それだけのことですが、

だから三沢さんが大きな馬に感動して、もどってから馬をおもわず
大きくつくりすぎてしまった、というのも共感できます。彫刻はできないけど(笑)。





銀太くん、人間の年にするとおじいさんなんですが、
真っ白に地紋のような模様があって、すごくきれいでやさしい目のうまでした。

巨大につくりすぎてしまった白い馬を前に、

ふと、角をつけてみたら、これがすごく似合ってしまい、ユニコーンになったそうです。


だれかが、ユニコーンにしては大きすぎだろう、と言ったら、
三沢さんが、お前はユニコーンを見たことがあるのか!と言ったそうで、
それもおかしい(笑)。

グランドギャラリーから2階へ向かう途中の、光の広場には、
これも大きいペガサスがいます。


銀太くんで1tですから、ユニコーンの体重は2tくらいかな?
白い壁を背にして立っているのでその巨大さが際立ちます。



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このライオンのタテガミがすごくすきです。
ボリュームがあって、丹念に彫り込まれていて、みていると気持ちがいい。

仏像にも髪が渦巻いているものがありますよね。あれも連想してしまいます。
コロイドトンプには奈良の大仏を連想したりして、仏像もなんらかの影響を与えていると思ったりして。


どの角度から見ても破綻がない三沢さんのANIMALSの秘密は、

ナタ彫りにあるそうです。彫り跡を見せる彫り方というか、木彫らしい彫りなんですが、

その彫りの大きさがどうぶつのサイズやパーツに合わせて、大きかったり細かくなったりしていて、

彫りの見せる表情が観る側にいろんな解釈を与えます。

彫りのおもしろさを堪能できるこの鬣。

うねる。あつまる。かたまり。
360度まわってみてください、とほかの彫刻のところで言われたんですけど、

私はこのライオンの鬣がすごくすきで、クルクルまわってしまいました。

図録では正面と斜めからの2パターンしかないですが、会場でぐるぐる回ると、
鬣のボリュームを味わえます。


いろんな画家や自分の体験や読んだ本や映画や、
すきなスポーツや旅行やみたものやきいた話や、友達や
家族や、風景や写真や部屋や…

いろんなものが三沢厚彦さんのリアリティをつくっていて、

ANIMALSのリアリティがたとえば動物園に通って研究し尽くして剥製のような
彫刻をつくるリアリズムとはちがうリアリティを生むのだと思いました。


写実的なリアリティではなく、印象としてのリアリティ、という言葉に
納得でした。


たとえばクマ。


実際の怖い凶暴なクマのイメージや、テディベアなどのかわいいクマの
イメージ、親しみやすさ、怖さ、爪などいろんなクマのイメージの融合したものが
リアリティ。その自分にとってのリアリティをドローイングで固めで、

丸太をチェンソーで大まかに切って、あとはひたすら彫っていく。


三沢さんが使っているのは樟です。

粘り気があって、彫っていて割れたりせず、シャキシャキした彫りの味があるそうです。


ということで、その樟の香りをかがせてもらいましたよ。
ガーゼっぽい布に三沢さんが彫った木屑を入れたものを、
ギャラリートークの中で、参加者にまわしてもらって…。

クスノキは楠という字もあり、南のものなので(南限が福島だそうです)、岩手の方へ樟の香りを
という思いが伝わってうれしかったです。

クスノキといえばアボカドがクスノキ科ですよ。
暖かいところの木なんですね。


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クマの部屋には立っているクマ、テディベア座りのクマ、

転がっているクマ(笑)がいます!


転がっているクマは白くはなかったんですが、図録にいたヒトを
貼ってみました。

「白い動物の部屋」もいいですが、
「クマの部屋」も楽しいですよ。

立ち上がっているクマはやはり巨大ですが、

顔立ちは可愛いらしいわりに、爪はこれでやられたら瞬殺されるね、
と吉村昭の「羆嵐」を思わせる巨大グマ…。


ここの部屋のクマは下に丸太の台座がついているのですが、その丸太から
の一本作り。

ますます仏像っぽいなあ…。そういうお話はでなかったんですけどね。




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初期のものといまのものを見分けるコツもお聞きしました。

眼がちいさくて、カラーリングが素朴なものは初期のものだそうです。

このひとは初期ですねー。


まんまるな目で、んるっ?と啼いていそうな子がやっぱり可愛くみえてすきです。


最後のコーナーには、

フェニックスがいます。


会場ごとに新作をつくるそうなのですが、岩手にちなんだものということで、
岩手の県鳥はキジで、キジの夫婦がこの美術館の森にも少し前まで住んでいたそうですよ、

というようなお話から、

復興とキジのイメージから、

真っ赤な鶏冠と白い羽毛につつまれたフェニックスが誕生。

このフェニックスのとくに尾羽の彫りが深く、こまかく彫り込まれていて、
そこに復興への願いの深さを感じました。




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展示会場を出てすぐの部屋(いつもは関連の映像をみせてくれる小さなホール)は
三沢厚彦さんのアトリエを再現した部屋になっていて、



ドローイングや「文學界」の表紙や、小さな粘土の作品がぎゅーっと集まったテーブルや、
見に来たひとが楽しくなる部屋になっているので、見逃したら損だと思います(笑)。


このあと、

9月23日(火・祝) アーティスト対談「三沢厚彦×中沢新一」14:00~(整理券は10:00~)

10月3日(金)14:00~ 学芸員によるギャラリートーク

10月13日(月・祝)14:00~ 三沢厚彦さんによるアーティストトーク

などのイベントがあるので、

見逃したらもったいないと思うのでした…すみません、強欲で(笑)。