主人公星由良子さん、40代後半。
女優さんみたいな名前と美人とは言えないけれど、背筋のピンと伸びたセンスのいいこの女性は、イラストレーター兼エッセイスト。
姪がお目付役としてつけられるほど、現実問題に対して頼りない人らしい。
仕事はイラストよりそのイラストに日常をつづったエッセイが人気で、順調。
で、由良子さんの現在の家は20代で建てた一戸建てなのですが、駅から遠いのが悩みの種。
よーし、駅に近い更地を買って、家を建てよう!と思いつく由良子さん。
ストーリーもさることながら、由良子さんのスタイルとポーズ、なにか「テレプシコーラ」の後だからなのか、以前に比べて顔はテキトー(失礼)ですが、そのポーズや姿勢がどのコマを見ても、筋肉質だというか。
マンガの中で、由良子さんがダンスを習っていることがわかりますが、
(そのダンスシーンはなく、ダンスで習った姿勢を取ろうとする場面がある)
さらに失礼ながら、マンガ家ってなんでも吸収して成長し続けるんだなーと感慨深い。山岸さんがはじめは痩せるためにバレエを40代で始めたことは、絵にも反映されている!
あと、最近読んだ本に書いてあったのですが、姿勢が悪いと、空間認識も歪み、絵のデッサンも狂うのだそうです。ほんとうに重ね重ね失礼なんだけど、確実に絵が上達しているんでは…そしてその上達した絵で描くのがエッセイコミック風と取れないこともない「ケサラン・パサラン」…。
家を建てるエッセイコミックは伊藤理佐さんの「やっちまいました一戸建て」内田春菊さんの「ほんとに建つのかな」を読んでいたのですが、
一人用一戸建て(伊藤理佐)でも子ども4人大人2人、人の出入りの多い家(内田春菊)とも違う、一人用だけどゲストルームが必要(結婚することになっている姪が来た時のため。由良子さん、常識がないないと言われているわりにしっかりしていますよ)な由良子さんのおうちは…。
「国有地よ!」
ってこのあたりほんとうに山岸さんの経験を反映しているのではないかと。
どこがしっかりしてないんじゃ!
家をどうするかで1年も無駄にひとりウロウロして、最終的にはネットで即決した私なんかと違ってすんごいしっかりしている気がするんですけど!
しかもこの国有地について、若い頃にもな何度か申し込んで、外れつづけたあとに当たった土地が、けっきょく因縁つきのものだったので断ったら、
当時はあった、一度お断りしたら5年は申し込みができない、という規則にひっかかり。
でもって、この国有地の土地は競売なのですが、入札でギリギリの低めの価格を出して負けちゃうんですね。
運がない、と思っている由良子さんですが、マンガを読んでいる方がからすると、
よかったー、由良子さん、セーフだよ!と言ってあげたいくらいのものだ。なんと現在の家のローンも終わってないんだもん。
しかし、Kの土地に対する由良子さんの執念もすごいものがあり、
17年前に買った土地、お父さんの遺産の北海道の土地、いま住んでいる家の土地と建物、すべてを売っても土地を手に入れたいというんですから。
てかしっかりしていないと言いながら、由良子さん、ちゃんと資産形成してるじゃないの。しかし土地を買った理由がアパート経営をするため、って、どこかで聞いたなような。
森村桂さんの小説にもアパート経営をして生活を安定させようとしたものの、入ってくるのは一癖も二癖もあるひとばかり、という「お隣さんお静かに」があり、読んだのは小学校のころだけど、
幼心に、
(ないわ! 夢見る桂さんにアパート経営はないわ!)と思ったです。しかし桂さんも常識がない、頼りない、という他人の評価もわかってそれを文章に書きながらも、誰にもできないことをドンドンやっちゃうバイタリティはあった。
でもアパート経営、しっかりしていない人ほどやりたがる気がするんですけど、なんで?
けっきょく入札に負けた土地ですが、買ったひとも事情があったらしく、家を建てられずまた売りに出されていたんですね。
もうこれは運命だと盛り上がる由良子さん。ああ、伊藤理佐さんのマンガでも「運命」を感じて盛り上がっていたなあ。
私もそうだからわかるんですが、しっかりしていない人ほど、運命なんだわ!と酔ってしまいがちです。ははは、自覚はあるのよ。
とはいえ、先立つ物がない。
だって入札の時より値あがってるし(そりゃそうだ)。
ところが、由良子さんは本質的には運のいい人らしくて、天の助けが。
彼女を可愛がってくれていた伯母さんが遺産を遺してくれていたんです。
彼女だけにではなく、彼女のきょうだい達にもですが、町一番の資産家だった伯母さんですから、税金を払っても、三人で分けても、かなりの遺産がもらえたようです。
由良子さんも子どもがいない、この伯母さんのことが気になって顔を出したり、それなりにお付き合いしていたのでしょう。
マンガに描かれてはいないのですが、このあたりは作者の山岸さんを反映している気がします。
しかし、なんだ、ちゃんとしているんじゃない、と安心させたところでのこの発言。
金沢に行ってみた忍者屋敷に憧れて自分の家を忍者屋敷にしたい、ってアンタ。
家のデザインは施工会社とはべつに探して、デザイン料を払っても、気に入る家を建てたい由良子さん。
このデザイン会社のモデルも気になるところですが、デザイナーズハウスが必ずしも住むひとの快適さには結びつかない例として、編集者の男性が、某代々木にある、オリンピックの時に建てられた体育館がメンテが大変で、という話をするのですが、
いろんな個性的なおうちについてもそれはいつも考えるところですね。
ne*do(由良子さんが頼んだデザイン会社)の設計の中で由良子さんにはどうしても了承できないことがありました。
それは家を真っ黒にするということ。自分の家は白がいい由良子さんですが、白にしてくれ、と言うことがどうしてもできない。
自身もイラストレーターだから、この家のデザインは黒じゃないと、と分かっている。もし白にと言えば、作り手のモチベーションが下がることも。悩む由良子さんがアドバイスを求めてやってきたのは、
方位の鑑定士の先生のところ。
このおじさんの後ろから出ているのは集中線ですが、まるで光背のように後光がさして見えるおじさんなのでした。
(2巻へつづく)