{20078786-ADC0-4D9A-A286-4DC5A3CD479E:01}


劇団ゼミナールの「芸人のジレンマ」、
初演は2000年2月、2009年3月に再演を行っているそうです。

タイトルの「芸人のジレンマ」はもちろん心理ゲームの「囚人のジレンマ」が元になっていますが、

二人の囚人が互いに警官に、

1、どちらかが自供したら無罪、黙秘した方は懲役10年、

2、どちらも黙秘ならどちらも懲役5年

3、どちらも自供したらどちらも懲役2年

というような条件で選択を迫られるわけだ。

私は対人関係のアドバイス本で、けっきょくは「信じる」のボタンを押し続けるのがいちばんゲームの勝者になれる方法だった、だから実際の対人関係でもまず相手を信じよう、


てな風なアドバイスとともに「囚人のジレンマ」を知りました。でもそんなアドバイスを読んだ後に限ってひどく人に裏切られるんですよね(笑)。本に裏切られたのか人に計られたのか。囚人のジレンマ、それはリアルゲーム(笑)。


舞台が始まる前に主演のWアニキ(という芸人役)が長めの前フリをしていて、

おかげで1、2分遅れた私も息を整えてメガネをかける余裕が…。


主演のひとり、斎藤さんは今回もホタテ貝で作られた「もりげき王」の優勝冠を頭に笑いをとっていて、

最前列真ん中の席の息子が特にウケていたもよう。ちなみに私は舞台下手よりです。でも遅れて入ったのに最初から見られたし、最前列だったので大満足だ。
視力というより夕方から瞼が下がってくるらしく、メガネをかけていても視力がでないんだよね(笑)。早めの老化現象。


暗転から舞台の上手と下手にまさしく「囚人のジレンマ」の警官と容疑者登場。


責める警官がWアニキだが、まだ2人が劇中劇の刑事とはわからない。

責められる黒いパンツスーツの女性2人はどうやら「レズホモ取締法」によって逮捕されたらしい。

お前が相手を密告すれば相手は十年、お前は無罪、二人とも黙秘なら5年だが、二人とも密告すれば3年だ(だったかな?)、

などと責められるふたり。

このあたり、確かに14年前だなあと思いました。ホモレズ禁止法で笑いながらも、この間にどこか苦いものを感じてしまいます。「笑いは差別だ」という言葉を代入して棚上げしているうちに、


尋問の警察官と容疑者の女性が、なぜか社内不倫中の上司と部下になり、

懐かしい「ラブ・ストーリーは突然に」が流れ、

あ、これは芸人のコントなんだ、と気づき、

いやここで気づいてねというサインを送られます。

コントならコントとして見よう、と構えていると、

二人の口の硬さに派遣されたのはキャバ嬢。

この女優さんがふつうにきれいでナイスバディでした。

二人が密告のご褒美に彼女を自由にしていいよーと言われてガルルと唸りいまにも襲いかからんばかりの勢い。

さてレズホモ取締法の仕事が落着したあと、じつはお前がすきだったんだ、と、告白を始める先輩刑事。あせる後輩…。




というところで舞台が変わって、

(幕が上がって)

デスクが4、5あって、その上にお菓子の袋が無造作にあったりして、どうやら控え室らしい。

そこをお掃除する女性と不思議な女の子。
「あなたは誰?」と問われてひゅーっと逃げていく。

つづいて芸能プロダクションのマネージャー、番組のプロデューサーが入ってきて、仕事の話をしながらもこの二人も不倫中らしい(笑)。不倫ネタが多いのも時代か?


そこへ先ほどの尋問されていた二人の女性が黒のスーツから芸人っぽいお揃いの衣装に着替えて入ってきたり、一緒に所属事務所がちがい、女芸人二人とは仲が悪いらしいキャバ嬢役だったタレント(女優志願らしい)。

Wアニキの二人が入ってきたりして、



そこにこの掃除婦の女性、

カズコが掃除をしながら、絶妙に楽屋の会話に絡んでくる。

笑いの芝居をする本人が笑ってはいけない、となにかで読んだ気がしますが、

カズコは笑わないんですよ。でもその動きとポーズ、キメ顔が可笑しい。

「レレレのおじさん」を裏返してタレをたっぷりつけて香ばしく焼きました、みたいな。ツーツーという擬音が似合いそうな動き。

Wアニキのメガネをかけた方、小林は地方営業大好きで、東北いいねーとか言っていると、

じつは八戸でひっかけた女の子がいて、ロリコンファッションのロリ満艦飾というか妹萌え風味の女の子がいきなり楽屋に突入してきて、

八戸から会いにきたの!お煮しめを作ってきたの!と迫る。Wアニキ小林、ピンチ。

そこへ局長がこの深夜枠の番組をゴールデンに、という朗報が飛び込んでくる。ほんとうか。条件はイチゴナルト(イチゴタルトのもじりか)、Wアニキがネタをやってそれを見て判断、テストは1時間後というシビアなもの。

イチゴナルトのふたりがひとつしかない持ちネタをやってみる…笑えなくて笑える。観客はウケるが、ダメでしょそれじゃ。

こうなったらあれだ、未完成のあのネタをやるか!とかけるがこれが全然わからない。

いかりや長介さんが「ダメだこりゃ!」の中で、駆け出しのコメディアン時代(もともとはバンドマンで音楽志望だった)、

「これはよ、未完成だけど、だんだん上達して行くその過程をみるのが通にはたまらねえっていうネタをやりまーす」

などとテキトーなことをいいつつ、持ちネタのストックを貯めて行った時代を活写していましたが、何と無くそれを連想しました。

その後カリスマ催眠術師が現れ、マネージャーにワッとおどかされるとエロおやじになるとか(女性マネージャーです)、全員に手を叩くと動物になるとか、

そんな催眠術をかけて、特に動物になりきるところは理屈抜きで笑った。

でもこれは演劇。

芸人を演じているわけで、ほんとうのお笑い芸人がやっているまんまじゃダメだし、

かと言って全然笑えないネタでもね。


他ジャンルの話をやるのって難しいなあと感じます。特に笑わせる系は。

マンガで漫才、
小説で漫才、


ともに笑わせる傑作も全然笑えない上にパクリまくりの駄作も読んできました。駄作にしようと思っているわけじゃないと思うんですが、

お笑いをお笑いじゃないひとがそれらしく見せるのって、

ハードルが高い。

暮れに見た劇団ゼミナールの「井上ひさしコント集」(もりげき8時の芝居小屋)でも、

芸人に扮したコント、金髪のカツラの似非外人さんコントなどを見て笑いましたが、

この「芸人のジレンマ」では途中で、


あ、これはコントじゃない、コメディだ、とその微妙な違いにやっと気づきました。

(ずっとコント集のつもりで笑っていて、そう思うくらい可笑しい)

最後の30分は「芸人のジレンマ」前半の伏線が効いて、粋な構成でもありました。

舞台最初のホモレズ禁止法の刑事と容疑者ネタが、

終盤、笑えないネタをやって金髪の巨匠に気に入られたらハリウッド進出、笑えるネタなら局長にゴールデン枠進出を認められる、

または番組のゴールデンもハリウッドもボツの可能性も


と、Wアニキの後藤と小林が互いの出方がわからず、それぞれプロデューサーとマネージャーに説得されて苦悩する場面と、

シンメトリーになっています。

また、

後藤と小林がそれぞれ上手と下手でスポットライトと効果音の切り替えで説き伏せられているのもシンメトリー。

気づくと、

女スパイとロリ少女も小柄で小林にベタベタという点でシンメトリーですし、

女芸人のふたりも、グラマラスとふつー体型という差はあっても、キャラクターが対照的というより双子のよう。

様々なところにペアとなるふたりの葛藤を織り交ぜていて、そこもおもしろかった。

{A4A33985-BE2A-4308-A11E-BEBEEB9AAA50:01}


舞台がはねてから撮った画像。撮影OKです、と言われていても上演中はね…。



このシンプルなセットで楽屋にお笑い芸人、女優の卵、追っかけのロリ少女、謎の女スパイ、カリスマ催眠術師、マネージャー、プロデューサー、巨匠映画監督(笑)、掃除婦のカズコ、

が立ち代り入れ替わり、物語を展開していたんだと思うと感慨深い。

劇団ゼミナールの舞台では動きが楽しみです。キャラクターによって動きが違っていて、

当たり前といえば当たり前なんですが、案外、ひとりひとりの動きが違うコチをはっきりくっきり見せてくれる劇団は少ない気がします。

カズコのスーイスーイと氷上を流れるような歩き方、身重の女スパイのコミカルなのに重い逃げ足、Wアニキ後藤のバッタのような跳ねた足取り、ロリ少女のくねくね、


キャラクターその動きがまず印象に残って、そこから出てくるセリフがブレない、

そんな風に感じられました。