このタイトルの「李さん一家」の最後の一頁は落語のようで、シュールなところもすきですが、

水木さんが(妖怪マンガとして)失敗作だね、
と評してたという「沼」が読みたかったんです。




山奥のさびしいところで、蛇を飼っている謎の美少女。

時々目が妖しい。







しかしなぜこの青年が首を締めるのか、明確な理由はなく、

そうせざるを得ない内面の衝動だけが感じられる。

でも妖怪は出てこないです(笑)。

水木さんはすべてを妖怪マンガとして読むから、というようなことをつげさんが「漫画術」で話していて、

だから水木さんは強い、というニュアンスが感じられました。妖怪を描かなくても、背景などに水木さんの影響を感じます。



ラストの、ズドーーーーン。

このラストについてはつげさんも、

思いついた時もうこれしかないと思った、

と語っておられ、何度も読み返させる力があります。




こちらは「山椒魚」。

というと井伏鱒二を連想しますが、井伏鱒二の「山椒魚」はあまりすきではない、という発言がある一方で、

発表の1967年当時、井伏鱒二、梅崎春生、椎名麟三、島尾敏雄、カミュ、カフカ、サルトルなどを読んでいたそうです。




この絵で井伏鱒二の「山椒魚」を絵本にしたらどうだろうなあとか思う。

中学時代に国語でやったものは蛙と山椒魚のやりとりがあるものですが、

そこを削った「山椒魚」のヴァージョンで。



このあと、奇妙なものが流れてくるのですが…。

この「山椒魚」は私のツボでした。文庫本の解説にあった当時のつげさんの読書傾向もわかり、

梅崎春生と椎名麟三は全然読んだことがないのですが、島尾敏雄とカフカは、すごーくわかる気が。

カミュ、カフカ、サルトルは当時の若者(昭和10年前後生まれの作家が若い頃読んだ作家にいずれか、あるいは三人があげられているので)に大人気だったらしいですね。

私は70年代の終わりに、倉橋由美子を読み始めて、影響を受けたというその三人を読んでみようかなあとなったのですが、

当時もまだ読書感想文の課題図書になっていたカフカとカミュはともかく、

サルトルは私の世代だったら野坂昭如の「ニ、ニ、ニーチェかサルトルか~♪」のひと(笑)。そのCMソングが頭に焼き付いて離れないままサルトルってどうよ。

いまは読まれているのかなあ。

けっきょく、カフカだけがすきで、カミュは一部しかはまれず、サルトルは「水入らず」でシーツに体をこすりつけるのがすきな女性のことしか覚えていない。

「李さん一家」もカフカっぽいと言えなくもない、と思ってみるのですがどうでしょう。


つげ義春コレクションは全9巻で、このあいだ青山ブックセンターで買ったのは4冊でしたから、

まだ長く楽しめるなあと思っています。

今後マンガを描かれることはないので、出された作品をスルメのように噛みしめ味わおうかと。