シネマ歌舞伎、あらすじはみなさんもご存知の「古事記」ベースですが、
一卵性双生児の大碓命(おうすのみこと)(兄)と、小碓命(おうすのみこと)(弟)(ヤマトタケル)
の創造が梅原猛。
「ヤマトタケル」を読んでいないので、これは私の想像でして、
原作を読んだら全然見当違いなのかもしれないけれど、
なぜ父帝はあれほどヤマトタケルを憎み、まるで死ねとでもいうような
厳しい命令をし、朝廷から遠ざけたのか。
女装して舞い踊り、熊襲を油断させて討つ。
一人の人間の中に二人の人格があるようだ…というところから
一卵性双生児の兄と弟を思いついたのでは…。日嗣の皇子である兄を
殺したという大罪を犯した弟は、父帝に疎まれるのも仕方ない…。
パンフレットはカラーでありがたかったのですが、
映画館で大きな絵としてみたあとでは、もっと大きい写真はないのか!
と思ってしまう。
この二人、小碓命が帝の命をうけて征伐に行った熊襲の兄弟です。
綿入れのようなあきらかに綿でふくらませて、さらに背中に立体のアップリケがついた
豪華というかグロテスクというか過剰というかそこが魅せてくれる衣裳で、
着物の後ろもちゃんと見せようと黒子が裾をもちあげております。
ピンクの顔は猿弥さん。弟であります。
兄は坂東彌十郎。このふたりのかけあいも絵になりますが、
目の覚めるような真っ赤な衣装をまとい美女に扮した小碓命と兄弟の
やりとりも見もの。油断させて、明かりを切り落とす。真っ暗になった屋敷のなかで、
小碓命は兄を殺し、熊襲の国民たちを脅し従わせる。
豪勢なお屋敷が、小碓命があちこちの柱を蹴飛ばし、荷物を投げ飛ばしているうちに、
あっという間になにもない、ガランとした舞台になってしまう。
その舞台の上から熊襲の民たちを武力で従わせ、
「俺は勝った、俺は勝った、俺は勝った!!」
と哄笑するヤマトタケル。そう、このときからヤマトタケルを名乗ることになるのでした。
私がいちばん泣けたのはこの哄笑するヤマトタケルですね。
優しい性格だった弟。
兄が朝廷(父)に背こうとしているのを止めようとして殺してしまい、
父に憎まれ、熊襲征伐に追いやられた小碓命が、
ほんとうの自分を失って兄の性格を憑依したと思えたから。
ほんとうの小碓命はここで死んだのだと思え、
あの哄笑は彼の中の兄が弟に「勝った」ということなのかもしれないと。
火を放たれたヤマトタケルと従者のタケヒコ(市川右近)。7月の地方公演の大歌舞伎では、
「毛抜き」で弾正を演じていたなあ。きりっとしてかっこいい。
猿之助(四代目)のいわゆる見得を切るポーズと表情、どこかに
女性的というか両性具有的なものがあるように感じました。
愛嬌のある、それでいて悪いこともできそうな目なんですよね。
熊襲を退治したあとは蝦夷征伐へやられ、
父帝に憎まれ、死ねと婉曲に言われているようなものだ、と嘆くヤマトタケル。
それでも叔母で伊勢神宮の斎宮(だと思う)の倭姫に剣と布袋を授けられ、
蝦夷成敗も果たしてやっと大和へ戻れると思った矢先、
今度は大和に戻る途中で、伊吹山の山神を征伐してこいという命令が…。
さすがに言葉もなく、瞑目するヤマトタケル。見得を切る顔もいいけど、目をとじて
堪えている姿もいいですな。
しかし、苦いものを飲み込んで伊吹山に向かう。
伊吹山の山神ってこうですよ(笑)。
家来の者どもはほとんどが鬼みたいなんだが、衣裳がすごいですよね。
リボンキルトの歌舞伎ヴァージョンでしょうか。
この山神が白い猪に変身した姿がもう最高なんだが、その写真はなかった…。
緑と金色とグレーの隈取をファンシーにしたような顔立ちの巨大な白いむっくむくの猪(なのか?)。
しかし、あれほど叔母が手離すなと言っていた草薙の剣(炎をよけるために草を切り払ったときから
草薙の剣という名前になった)を、伊吹山の山神なら大したこともないだろうと侮って携えていなかったのが敗因だった。ついにヤマトタケルはここで命を落とす。
「市川中車 46歳の新参者」香川照之
この本を読んだのは7月の大歌舞伎を見たあとだったかしら。
それとも予習で読んだのかな。
本を読んだ時はどうしてそんなに血にこだわるのか、役者香川照之で
充分、そして個人としても自分が育ったゆがんだ家庭の連鎖を見事に
断ち切って、健全な家庭生活を送っているんだから、
もうそれでいいじゃないか、と思っていました。
でもシネマ歌舞伎で息子さんの政明くんが市川團子として、
ヤマトタケルの息子、ワカタケルを演じている姿を
みたら、分かるような気がしました。
自分ではなく、息子に継がせたい方が大きかったのかもしれないと。
これは「市川中車 46歳の新参者」に載っていたのですが、
この場面はほんとうに胸を打たれるものがあった。
襲名披露で小さな子が歌舞伎の台詞を口にしているところは
昔からテレビで何度も何度も見てきたけれど、
きょうはほんとうに胸に響いた気がした。
「46歳の新参者」のなかで香川照之さんが、
「私たち親子にとっては重なるどころではない。物語の内容は、
実に我々の家族の物語なのである」
と語っていることがすべてだった。
映画の最後に市川猿翁丈が黒っぽいジャケットを召した姿で舞台に登場した。
病後ということをあとで知ったけれど、弱弱しい小さくなった体で、息子と孫の
ダブル襲名の舞台に立つ姿は、痛々しいともとれるけれど、
これが「ヤマトタケル」のほんとうのエンディングなのではないか、とも思えた。
ほんとうの家族の物語、という。
華やかな衣裳や効果、海神の花嫁となって怒りを鎮める弟橘姫の入水の場面もよかった。
兄橘姫の藤の髪飾りと衣裳。姫たちの衣裳はあでやかで髪飾りも豪華でみごたえがあった。
そしてセリフの中に針を含んだものもあった。
「この国は嘘つきだ」
伊吹山の山神の台詞だ。そのセリフは大和朝廷に向けられたものだが、その裏に、「謝罪の王様」とおなじ、大きな権力をもつものが平然と差し出す嘘を批判しているように聞こえた。
考えすぎかな?
ではでは~。
パンフレットの中に、次回のシネマ歌舞伎の予告がありました。
「春興鏡獅子」勘三郎の魂が、ここにある というコピーもいいねえ。
上映予定館に盛岡フォーラムもあって一安心であります。
次も見に行こう!
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