生まれて初めて、
今年のお正月に箱根駅伝中継をみました。ラジオで聞きつつランニングという時間帯もありましたが、
競り合う選手の気持ちは痛いほど伝わってきました。
ギリギリのところで競り合って、一歩先んじられたら、勝負はそこでついてしまう。
生まれて初めての箱根駅伝でいちばん印象に残ったのは、
「風が強く吹いています」
でした。
アナウンサーが何度も何度も繰り返していました。
ただ天気を伝えているようなこのセンテンスが、箱根駅伝の比喩のようにも聞こえ、
ああ、三浦しをんはこの言葉をタイトルにしたのだな、と思いながら聞いていました。
映画版の「風が強く吹いている」でも繰り返しアナウンスされたこの言葉は、マンガの中では活字ではなく、
絵としてたびたび強く吹き渡ります。
マンガとはいえ、あまりに超人的な他の選手の中で、
私がいちばん共感したのはニコちゃん大王(ニコチン依存症だから)でした。
骨太で筋肉質のがっちりした体型、人一倍太りやすく、
高校三年間努力して努力しても、
5000m17分の壁が破れず、自分を見くびって生きるしかないと思っていた青年。
努力しても、努力しても、叶わなかった憧れが彼を苛みつづけていたのですが、
最後に彼は自身の力でその呪いを跳ね返します。
スパートで彼のシューズは焦げた匂いを放ち、
「俺の魂の焦げた証だ」
とほっと倒れこむ25歳の青年。
主人公の宇宙人的な走りに爽快感を覚えながらも、
膝を壊さないようにアイシングをしたり、ダイエットをしたり、諦めた顔と言葉とは裏腹に努力をつづける先輩。
素人集団が一年で箱根駅伝に出場し、
あまつさえシード権さえ獲得する活躍ぶり。
しかし、
そんないかにもフィクションの醍醐味を信じてみようという気にさせてくれるのは、
こんな不器用なキャラクターがいるからなのでした。
また、
どんなに無理と思える数字でも、
誰にでもある、憧れが自分を拒絶する悲しみや、報われないという思いが丁寧に描かれているので、
自分にはありえない数字だけど、でも、こういう世界もありかも、
と思えるのでした。
iPhoneからの投稿