字が読めない、書けない人がいることに気づいたのは販売の仕事をしていた時でした。
40歳前後の男性で、視力検査の文字が読めないとおっしゃって、
検眼していた社員はすぐにランドルト環に切り替えて検査し、なんなくメガネを作ってお渡ししたと思います。
その時はいったいどういう理由で40歳のこの人が(顧客カルテの書き込みは連れの女性が代筆したので年齢がわかった)字が読めない書けないということになったんだろう、と思った。
8年間に1度だったから余計印象に残っている。
この絵本は長野ヒデ子さんの講演で、一冊通しての読み聞かせではなかったけれど、
その背景などをお話になって、それがつよい印象を残したので会場で買うことにしたのでした。
絵本の元になった日記を書いた吉田一子さんは小学生のお孫さんにすすめられて、
識字の学校に通いはじめ、字をおぼえて日記を書き始めるのですが、
大正14年生まれの吉田さんは、
2歳で母親をなくしてよその家にもらわれていって、自分の誕生日も知らない。
親戚のお兄さんが一年のまんなかだから、と、6月15日を誕生日に決めてくれて、
名前も書きやすいだろうと「ならのにいやん」が決めてくれたんです。
吉田さんは字をおぼえるにつれて、字ってかわいいなあ、と思い、
駅の落書きに、
だいじなかわいいじ つこて
ひとのわるぐちかいて
ばちあたりまっせ
と憤っています。
絵本は吉田さんの識字作品をあつめた文集「なまえをかいた」をもとに長野ヒデ子さんと若一の絵本制作実行委員会が創作したものです。
長野ヒデ子さんに書いてもらったサイン。吉田さんの笑顔がかわいい。
隣の席の女性が子どもの名前にした、とおっしゃっていたので、
私も右にならえ(笑)。
だいじなかわいい字、
という言葉に打たれました。
ふだん私はちゃんと字を大事にしているんだろうか、おぼえた字をぎゅっと握りしめてなくさないように歩く気持ちがわかっているだろうか。
楽しく読みながらそんなことも考えて、いい絵本にであったなあと思いました。
まど・みちおさんの詩、
「言わずにおれない」
に重なるものがある気がします。
iPhoneからの投稿