カヴァーと挿絵が酒井駒子さん。
こんなすてきな本があるだろうか。
と思ったところで書き出しが。
さよは、いつも不思議に思っていた。なぜ母は、図書館がぃらいなんだろうと。
この母はテレビもきらいで、娘のさよに「あなた」と呼びかけたり、
「唾棄」という言葉の意味を涼しい顔で口にしつつ、テレビをバチンと消す、
ちょっと変わったお母さんで、さよは母のことはすきだが、もっとほかのお母さんのようになってくれないかなと思ったりしている。
この母は離婚について、
「一緒が、終わることなの」と小学校にあがる直前のさよに説明する。
私はなんって説明したかな~って離婚は離婚じゃ。
保育園にもけっこういたしな。
この母はいつも唐突に、変わった言葉遣いで話しかけてくる。
いつもの川上さんの大人むけの小説の女の人が、瞬間、こちらの本に降りてくるみたいに。
こういうゆるやかな始まり方で、小学校4年生のさよと、クラスメイトの仄田くんの「七夜物語」ははじまる。
昔読んだ、ミヒャエル・エンデの「はてしなき物語」(映画は全然おもしろくなかったけど)みたいに、
本のタイトルとおなじ本を物語のなかの子どもが発見し、手に取る。
巨大なネズミ、グリクレルは「ミス・ビアンカ」をなぜか連想させるし、
文房具たちがしゃべったり怒ったりするのは、佐藤さとるの「ぼくの机はぼくの国」と、
筒井康隆の「虚航船団」を思い出しました。
川上さんの小説もエッセイもおいしそうなものに彩られていますが、
今回たべてみたかったのはさくらんぼのクラフティです。
このお茶会はもちろん、アリスのティーパーティーでしょう。
挿絵と文章のバランスは福音館書店の、テニエルの挿絵のアリスみたい。
そんなふうにさまざまなファンタジーの本歌取りやパッチワークがイメージを広げつつ、
さよのお母さんの独特のものの見方や、言い方(おせち料理を作ろうか、なんて言って、正確な全貌はつかんでいない、みたいに言うところなどなど)が楽しい。
お母さんと小学生の娘の物語といえば北村薫さんの
「月の砂漠をサバサバと」
も良かったのですが、
小学4年生という、女の子と男の子が無性でいられるぎりぎりのタイミングで七つの夜を共に潜り抜ける物語でもあり、
いくつもの読み方ができるお話だなあと思ったのでした。
最後の方に、
あ、
宮澤賢治!
と思わせる文章があり、それもよかったです。
これは物理的に手元においておきたい気がします。
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