ああ正妻 姫野カオルコ | 菅原初代オフィシャルブログ「魔女菅原のブログ」

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これはほんとうにあったことなのだ、と、繰り返し語られるのは、


ひとりの男の悲惨な結婚物語。


太宰の「男女同権」に通じるものがある…といいたいところですが、


太宰の短篇とちがって、こちらは、


いや、ほんとうにあったこと、というより、ありふれている話じゃないのか、

と、ゾッとするんですが…。



小早川というひとりの、一見風采の上がらない、けれども

よくみると顔立ちは整っているし、


肌はきれいな、でも小柄でやや太めかな?という若い、


一流出版社に勤めている男性の結婚のありさまを、


偶然知り合った女性作家がときどき彼と会うたびに聞かされる、


という体裁をとっています。



一流出版社にアルバイトで来た、ちょっと可愛い、

成城に住んでいて(でもじつは成城からバスでだいぶかかるのですが)、

白鳥という名門女子校出身であることを誇っている女の子。


彼女がじつはとんでもないタマだったんですねえ。



うぶな小早川はあれよあれよというまに、「でき婚」を嵌められ、

なぜか妻のいいなりに、次々とローンを組まされて、


マンションを買い替え、家を買わされ、毎朝出社前に1時間、


「ハードな家事と育児で疲れている妻」のためにマッサージを

することになっている…。


お小遣いは給料日4日前には残り1000円。煙草は戦時下なみの

3日に一度の配給制。


なんでこうなったんだろう。


奥さんとその母親、ふたりの娘(もちろん、母親とおなじ名門女子校)。



小早川は消耗しきっている…。


出版を仕事としているのに、家では本を読むことをゆるされない。


妻が猛烈な勢いで責めるから…。そう、小早川はつねに責められている。

まるで魔女裁判だ、と、女性作家は思う。



水に浮いたら無罪、と言われて体を縛られて水に投げられる。

浮かぶと、やっぱり魔女だといわれて、火あぶり。


沈めばもちろん、水死。


そんな魔女裁判。勝ち目は全くない小早川。



あるとき、奥さんのきまぐれで子犬を買うことになった。

もちろん、ブランド志向のプライドを充たしてくれる可愛い子犬。


しかし、奥さんは室内飼いの犬がおしっこやうんこで部屋を汚すことを

厭がって、おむつをあてて、あろうことか、キャリーバッグにいれて飼っているのだった…。


作者自身と非常にまぎらわしい名前をつけられた女性作家は、さすがにここで、

これはホラーなのではないか、と頭を抱える…。



小早川のホラーな結婚生活はぞくぞくしてくるのだが、しかし、

こういうグロテスクな支配欲というものは、案外、思っているより多く、


存在しているのではないだろうか、と思ってしまうのだった。



…最後の方に、姫野カオルコらしい、ある流行語への分析とみられる

部分があって、膝を叩いて笑った私です。


個人的には、三日間のひとりですごす暮らしを堪能する小早川に

涙しました(笑)。


あの三日間はちょっといいなあ…。


というか、ちょっと散歩に行ってくる、が許されない生活って、

考えただけでも、「おむつをされた犬」になったようで息が詰まります。


2004年刊。