魔女菅原と私 第5回 | 菅原初代オフィシャルブログ「魔女菅原のブログ」

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「あ、ちょっと待って」。


準備はいいですか、と言われて菅原はまず水を一口飲んだ。
ペットボトル入りの水は、選手一人ひとりに渡されるものだ。


まず、おわんに蕎麦がひと口分、入れられる。


だが、これはまだスタートではない。競技開始の合図とともに、
このひと口分から食べ始めるのである。ちなみに菅原は、前年、
初参加の時、うっかりそのひと口を食べてしまい、また一杯入れてもらったという
恥ずかしい思い出がある。


これから参加ご希望の方、ぜひご参考に。


さて、試合が始まった。

一組目である。プログラムには、一般選手権A班、とある。

そうだった。


説明しよう!


一般選手権とは、中学生以上で一人で参加する人のことである。

こども選手権は3人一組の小学生チーム、グループ対抗選手権もあって、
これは3人一組の大人チーム。必ずしも、一人で参加しなくてもいいんである。


全日本わんこそば選手権は、なにも、競技だけやっているわけではなくて、
わんこそばの由来や民話の出前、わんこそば体験、肴町らっぱ隊による演奏などもあり、
全体におおらかな行事なのである。


さて、A班は11人であるが、一人欠場のため、10人が壇上に上がった。

うち、4人が女性である。去年出場した時の菅原は、女性トップになれれば、
と思っていたので、女性の人数をチェックしたものだった。だが、今年は、


そんなのカンケーねぇ!である。


菅原の給仕さんは、若い女の子だった。
給仕さんは袴姿で、長い髪は後ろにまとめられている。
神社の巫女さんっぽい感じである。


10人の選手一人に一人ずつ付く。

わんこそばのお店に行った人の感想に、グループに一人しか給仕さんが
つかなかった、というものがあるが、壇上に立つ若干の勇気さえあれば、
一対一を低料金(参加費は1500円である)で体験できますぞ。って余談でしたね。


さて。


お給仕さんと眼と眼とあわせて、するっと一杯目を口に入れる。
箸でつまんで、というより、箸で口に放り込む感覚だ。
口がゴールで、箸を使ってサッカーをやっている感じでもある。


若いお給仕さんは菅原が食べ終えてから、ぽんっと入れる。少し間がある。
食べて、箸をもって見上げる、蕎麦が入る。というリズムだった。


(なんか、今回はつゆが多いなあ)


中盤を過ぎたころから、菅原はつゆの多さにうんざりしてきた。
啜りにくい。啜りにくいというより、一緒につゆも啜ってしまって、
腹にたまるようだ。


そのうち、給仕のお姉さんがお椀に放る蕎麦がつらくなってくる。
胃の上の方に蕎麦が固まって、落ちていかない感じがする。
菅原は思わず熊落としをやっていた。少しでも胃を楽にしたかった。


ダンダカダン! ダンダカダン!


その時になってはじめて、菅原はカメラ陣が一斉にこちらを向いていることに
気づいた。いまさらであるが、ダンダカダン!を続けながら、蕎麦を啜る。

だが、そうしながらでも蕎麦を啜っている姿は、よーく考えてみると
変である。変なんだけど、お客さんも笑ったりしないで、ものすごく
真剣な顔でこちらを見ているのが、気配で分かった。
菅原は競技開始前にメガネを外していた。


つゆがたぷたぷ。禁断の水を一口すすって、なんとか蕎麦を
進める。水を忘れなくてよかった。たぶん、10秒ほどの間に、菅原は
目まぐるしくそんなことを思いめぐらしていた。


(あ、でも、去年よりは全然楽だ)


と、思っているうちに、15分間は終わってしまった。長いのに早い。不思議な
時間の進み方なのである。

記録は15分間で340杯。去年は298杯だから自己記録更新には間違いない。


司会の女性から、インタビューがあって、時間無制限だったら何杯行きそうですか、
とか、今年は何杯が目標でしたかとか、そんな内容だったろうか。

去年は会場に漂うそばつゆの匂いに、もう胸が悪くなりそうだったが、今年はそれが
なかった。

(食べろと言われれば、まだ食べられそう…)。


二組目には東京から来た、中島保さん、潤間健一郎さんが参加している。
例の、ビリーズブートキャンプで35㎏(108㎏→73㎏)の減量に成功したという、
長身の男性もこのB班である。常連の顔もちらほら見える。


菅原は今年はそばつゆの匂いから離れるようにロビーに行くこともなく、
B班の競技の行方を見守っていた。340杯を超えるものがいなければ、
菅原は優勝であり、テレビの取材、雑誌の取材にも面目が立つというものだ。
優勝が決まった時点で、カメラに取り囲まれることが分かっている以上、この
場にいなければならない。と、今年の菅原は異常に冷静だったんである。


5分もすると、みな勢いが落ちてくる。
10分を超えると、「にこにこ大食い」と言われていた中島さんも、苦しそうな表情になっている。
だが、それでも食べ進めている。菅原は、男だな!とエールを送りたい気持ちだった。
あのビリーの男性は思ったより食べていなかったが、それでも174杯たべていた。


常連の選手たちは去年の杯数より、食べていなかった。菅原は去年のプログラムを
持参しており、そこには去年の記録が書かれていたのだった。

(やっぱり、今年はつゆが多すぎたからなあ…)


結局。

1位菅原340杯 2位佐藤定男さん 219杯 3位中島保さん 218杯


2位と3位が一杯差であるが、競技中の選手には現在何杯か、正確な数字は伝わらない。
杯数は終わってからお椀をもう一度数えなおして(食べ残しはマイナスされる)決定するからである。
観客には、選手の前に置かれたカウンターの数字の変化で凡そのところは伝わるが、
それもやはり最後に数えなおされるので、判定までドキドキなんである。


さて、こうして、菅原の一般選手権の部優勝が決まった。

瞬間、ざわざわしたものが菅原のまわりを取り囲み、
低い唸るような音とともに、ロビーへ連れ出していたのだった。
それが、報道陣のカメラとマイク、記者の総体であった。


岩手日報、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、河北新報、日経新聞、産経新聞、デーリー東北
NHK、岩手朝日テレビ、IBC、テレビ岩手、めんこいテレビ…

ただ、菅原としては前年の優勝者・泉さんが階段の上で、カッコよくインタビューに応じていた姿が
頭にあったので、扉を背にした格好で受け答えするのは、なんとなくだが、


(まぬけ)


ではないかと思っていた。でも自分から、カッコつけたいから階段の上でやってよーとは言えないもんですよ。

主な取材インタビューが終わると、女子高校生がやってきた。新聞部の記者であるらしい。
菅原は、時間がチューインガムみたいに、びよよーんと伸びる話をしたのを覚えている。
わんこそばで集中力が最高潮に達すると、時間が静止して、宇宙の中に自分と蕎麦の椀しか
なくて、音もよけいな光景も目に入ってこなくて、すべての動きがスローモーションになって
見える、という話だった。


共同通信社の記者さんが追加取材に来たことも憶えている。
いろいろインタビューに応じたが、出た記事に
「みちのくのギャル曽根」とあって、がっくりきた菅原であった。
40代の菅原に「ギャル」は、いやがらせか?って感じですよね…。


さて、優勝は確定した。ひとまず、子どもを迎えに行かなくては。
菅原はペットボトルのウーロン茶を飲みながら(いくら飲まないようにしていても、
340杯も啜れば、相当量のつゆを飲むことになるのだ)、保育園に向かった。

賞状授与では、思惑通り、優勝の賞状と、女性トップ賞(敢闘賞)を頂いた菅原だった。


その時、壇の下でビデオを回していた日テレ制作会社から、

「菅原さん、賞状二つ両手に持って」

と、声がかかった。

ということで、菅原は両手に一枚ずつの賞状を持って、


どーだ!


みたいなポーズをとったんである。恥かしいなー。でもやれというんだから…
という気持ちであろうか。まあ、いいや。優勝したんだし。

無事責任が果たせて、すべてが終わった気がしていた菅原であったが、
翌日、思いもかけない展開が待ち受けていたんであった…(つづく)




というわけで、第5回でした。
今月中にどこまでいくんでしょうか。2008年に達することができるんでしょうか。
それは疑問だーそれは疑問だー♪

ではまた~