三宅智子さんと私 第35回 | 菅原初代オフィシャルブログ「魔女菅原のブログ」

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しかし、一皿目は白田さんがあっさりとお代わりをコールした。
菅原は、瞬間、むっとした。

どうせすぐ止まる予定なんだから、最初ぐらい花を持たせてくれたっていいじゃん。と思ったんである。


しかし、白田さんがこのペースで来たということは、もしかしたら、これは
早く食べてしまった方がいいのか。菅原は肉の一片をほとんど噛まずに飲み込んだ。
喉を油でコーティングされた脂身が落ちていく。


「おかわり!」。
菅原は、白田さんの方をちらっとみた。どこまで着いて行けるか、やるだけやってみよう。
脂身が苦手な菅原は、苦手だからこそ、先にどんどこ入れてしまう作戦をとった。

山本さんはにこやかな笑みを浮かべている。


「山本君は菅原さんが隣で食べているのって、どんな感じなの」
納豆かけご飯の時も、終始菅原を心配げに見ていた中村有志さんが話しかけた。
「おかしいですよね」
おかしいというのは、どうせすぐに止まってしまうのにはじめに飛ばしてしまうからだろうか。

それは考え過ぎで、単純に信じられないハイペースだという意味だっただけだが。

菅原はこの頃、だれでも本当は、自分くらいのスピードで食べることは簡単なのだと

信じていたのであった。他の選手が自分より遅いのは、そういう作戦、なんだと。


菅原は快調に皿を重ねた。レモンをこれでもかとばかりに絞る。レモンが無くなった。

「レモン、肉お代わり下さい」
「菅原さんはよっぽど肉が嫌いなんだねえ、肉と憎々しげにつけくわえてくれました」


菅原は追われるように、皿を重ねた。トップだという喜びはそこにはない。最後まで走れるか、
いつ、追いつかれ、ストップしてしまうのか。まったく分からなかった。
競技としての大食いを始めて間もない菅原は、この頃、自分が何をどれだけ食べられるのか、
皆目見当がつかなかった。


と、そのとき。

「ストップ、ストップ、豚バラ串が無くなっちゃった、原因は菅原さん」

急遽、豚バラ串のストックがつくられる。あんまり多めにストックを用意したら、豚バラ串のアツアツの
美味しさがなくなるから、ということだったのだが。そう、アツアツも菅原に有利だった。
ものにもよるが、肉や魚など、獣の匂いのするものは、充分熱されて、火傷する寸前くらいが
好ましかった。


休憩中に、白田さんが話しかけてくる。
「菅原さん、速すぎ」
「おっかしいですよね」
と、山本さんも軽口をたたく。
二人にとって、自分など蟷螂の斧にひとしいだろうに、と思いながら
菅原は笑って、
「いや、実は自分の限界は分かっているから」といった。


だが、この休憩時間は菅原にとって、ラッキーだったのだ。
急激に食べた肉の塊は、食道のあたりで固まっていたのだが、待っているうちに、
どういうわけか、胃の下部へ押しやられていった。

菅原に希望が生まれた。このまま、行けるか?
それとも、追いつかれてしまうのか?


試合が再開された。菅原はペースを落とさない。一定のペースでタッタッと口に入れていく。
咀嚼力があると、よく言われていたが、咀嚼力というより、喉の力があるのだと思っていた。

泉さんが、
「菅原さん女じゃないよもう。ショダイ!ハツオだよ!」と叫んだ。

これからあと、釣られたかのように、中村有志さんまでついつい、

「すがわらはつお」と口走ってしまうわけだが、泉さんの発言がカットされているので、

視聴者は気付かなかったのに違いないよ。って閑話休題だ。


30分経過。まだトップは菅原だった。これはいままでの試合展開からしたら、異様なことだった。
なぜ、追いつこうとしないんだろう?
菅原は、白田さんも山本さんも、余力を残しているのだろう、と思っていた。

40分経過。菅原はさすがに箸がすすまなくなってきた。レモンを水に絞って、それを飲む。
全身の毛穴から油がにじみ出しそうな気がした。


しかし、まだ山本さんは追いついていない。
と、そのとき、

「追い越しちゃうよ~」と、山本さんがおどけて、
「男らしい!」と、中村有志さんがコメントした。
「あったりまえじゃない」、
菅原はむしろなぜいままで抜かなかったと聞きたいくらいのもんだった。


白田さんが一口食べては水を含みしている姿を、なぜか憶えている。
最後になって、ペースアップしていたのだろう。菅原は、
ペースアップどころではなく、ただ食べ続けることだけで精一杯だった。


山本さん、白田さん、そして菅原は、もう安全圏内だった。
だが、菅原は最後まで箸を握り続けようと思っていた。

(菅原さん、残ってるから無理しないで大丈夫ですよ)
山本さんが心配げに声をかけた。
(大丈夫。ありがとうございます)


残り時間が3分、2分、と刻まれ、実桜ちゃんと曽根さんが熾烈なデッドヒートをくりひろげていた。
泉さんは、余裕を見せていた。落ちるのは、二人と決まっている4回戦。
実桜ちゃんはそれでも最後まで詰め込みつづけた。顎が壊れるのではないかと思うほど、
過酷な勝負だった。


(どうして、こんなことになったんだろう)


最後の最後に、実桜ちゃんは力技で押し込み、曽根さんは、あきらめた表情をみせて、
勝負は決した。

「終了~」。
二人の有力選手だった女性が落ち、はなっから期待などされていなかった菅原が残った。
誰よりも期待していなかったのは、菅原自身だったのだが。


(勝った。あたしは勝った。曽根さんにも、実桜ちゃんにも…)

菅原はぼうっとしていた。スタッフから手鏡が差し出され、口元の脂汚れをふき取ったとき、
かつて見たことがないギラギラした眼と青ざめた皮膚の女がいた。

名前をつけるなら、これは「魔女」という生き物なのだろう…