高1で出会って以来、愛読してきた一冊がある。
森茉莉の『贅沢貧乏』である。
私にとって精神のパンとワインだった。
文章が血肉化しているので、
ふとした瞬間にそのなかの言葉が閃くように降りてくることがある。
息子が通っている保育園は、家から離れたところにあり、
片道7kmを15分ほどかけて送り迎えしている。
朝は渋滞にキリキリしたりして、景色を楽しむ余裕はないのだが、
この季節の夕方は、毎日が紅葉狩りといった気にさせられている。
保育園に向かう、長い下り坂は黄金に色づく山が近くに感じられ、
街路樹は焚き火を思わせる、暖かな色あいをみせている。
少し遅くなると、息子を乗せて引きかえす頃には、
陽が落ちかけて、紫色から薔薇色の、えもいわれぬ空に、
あーっ、とため息がこぼれる。
お金を遣ってやる贅沢には、想像の余地がない、と森茉莉は記していた。
お金を使ってやる贅沢には、あまり縁がなかったが、
年々歳々、その言葉が深く沁みて感じられる。