それは、50冊以上完食、じゃなくて、完読(って言うんでしょうか)した
生徒と、読書週間の標語、ポスターなどの表彰式を明日にそなえた、
放課後の掃除の時間だった。
菅たんは小学校一年生から、高校三年生まで、
学校に遅刻したことは数知れない劣等生だが、
掃除だけはさぼったことがなかった。
褒めてくれとは云わないが、ま、そういう、気の利かない、
冴えない、愚図なやつだった。
そこへ。
菅たんの友達が来て。クラスは違うんだけど、
時々、一緒に帰ったりしていたんである。
彼女は菅たんと正反対で、本は読まないが、成績優秀。
運動神経抜群、手先も器用で、まあ、音楽は苦手だったが、
美術も得意で、表彰台の常連といっていい少女。
なんで友達なんだとお思いでしょうが、
保育園時代の「居残り組」仲間ですよ。
居残り組で、一番良くやったのが、
魔女ごっこだった…。
話はもどって。
「ねー、菅たんも明日、賞状もらうでしょ。
だって、いつも図書館に行ってるし。100冊は読んだでしょ」
と、グーちゃん(仮名)が話しかけているところへ。
「こいつなんか、ダメだよ。全然、記録つけてないし」
突然、割って入った男の子がいた。S君としよう。
なぜか菅たんを毛嫌いしているS君だった。
どういうわけか、菅たんが他の子と話していると、
割って入って、菅たんをひどく悪く言う、のが常だった。
いじめっ子というわけでもなく、
菅たんに対してだけそうだったんである。
なぜだ。
勉強がまったくできないくせに、妙に堂々として、授業中も平気で居眠りをして、
算数だけは分かっている、という、大柄な女の子は、いけ好かないのだろうか。
好かれたいわけでもないのでいいですよべつに。
S君が、こいつなんかダメダメダメ、と、宣言して踵を返したあと、
ムラムラと燃えたのが、グーちゃんだった。
「あんなこと、言わせておくつもり!」
って、菅たんを怒らないでほしいなあ。
昔から思っていましたが、人は、怒るべき相手に怒らず、
その場にたまたま居合わせた、罪もない、大人しい人に
怒りを炸裂させがちじゃないですか?
グーちゃんは云った。
「図書室いこ!今日中に50冊読むよ!
菅たんは賞状もらう権利があるんだから!」
えー。そんな権利返上していいですう。菅たん
おうち帰りたいよう。おうちで本を読んでいたいよう。
しかし、グーちゃんはどんどん突き進んでいった。あわてて追いかける菅たん。
さあ。図書室の閉館時間まで2時間を切った。
菅たんは、S君に一泡吹かせてやることができるのだろうか。
ってか、本当に賞状なんてどうでもいいと思っていることを、
菅たんは、グーちゃんに言えるのだろうか。
愚図な子ども、菅たんの受難のはじまりであった…(つづく)