「リベンジ終了!」
菅原は、湯島天神の二階のソファーに、のびのびと
身を伸ばして、さばさばと云った。
「もう、女王戦のリベンジは終わったからなあ。
ここから先は、オマケみたいなもんですよ」
そう、春に行われた、大食い女王戦で、自分より上位だった選手たちに、
勝ってしまったことに気づいてしまったんである。
出場していない、嘉数さんと三宅さんは別として、
「仲山さんでしょー、池田さんでしょー、正司さんにも、
今日は曽根さんにも勝ったしなあ」
なにかふっきれた菅原だった。
はっきりいって、態度でかすぎである。
でもまあ、いいのだ。
大食い王決定戦は、勝てば官軍。負ければ、ご帰宅。
その落差があるからこそ、勝つことが楽しいのだ。
湯島天神の境内で、しばし寛いで、それからバスで成田へ。
曽根さんは相変わらず、一人前の席にいた。
とうとう、菅原にも負けたということで、ショックを受けているのだろうか。
でも、バスの、後方に近づいているぞ。
「片山先生、綿棒ありませんか?」
曽根さんが、すぐ後ろに座っていた片山先生を振り返る。
あ。綿棒だったら。
「はい、これでよかったら」
菅原が手渡すと、
「ありがとうございます」
と、少しぎこちなく言うので、
「ネギもらったからねー、ネギのお返し」
と、こちらもややぎこちなく、笑顔で。
このブログで、大食い王のことを描き始めて、当の選手たちから、
菅原さん、よく憶えているね、と、感心されてきたけれども。
じつは、この成田行きのバスに乗っている間のことは、
あまり憶えていないのだ。
他の選手たちと、楽しく話していたのだろうか。
眠っていたのだろうか。
思いのほか早くバスが成田についた気もする。
ひとつ、憶えているエピソードがある。
成田空港での、出国手続きのシーン。
手荷物検査で、液体物や危険物などは申告することになっていて。
高橋実桜ちゃんが、果物の缶詰をバッグから取り出したんである。
桃缶だっただろうか。
はっきりしない。
なぜって。
実桜ちゃんは、持っていけない、処分していいか、と言われた次の瞬間、
いきなり缶切りで、キコキコやり出したんである。ゲゲゲッ。
ボー然としてしまって、それが、マスカットだったのか、桃だったのか、
はたまた洋ナシだったのか、憶えていないんである。
おいしそうにコクコクコクと、汁まで飲みほした実桜ちゃんに、
(ただ者じゃないな!)と、思ったけれど、
「せめて、フォークを借りればいいのに」と、辛うじて年長者らしい(そうか?)
アドバイスをしたところ、素直にうなずいた実桜ちゃんであった。
すごい。ここまで天然な人もいないよなー。
ここから先、菅原は実桜ちゃんと行動を共にすることが多かった。
(引き続き、みおちんをお願いします)
3回戦を勝ち残ったことを知らせたメールに、三宅さんからの
おめでとう、という言葉のあとにあったのは、
実桜ちゃんをよろしく、という、保護者のような言葉だった。
ちなみに、三宅さんの方が年下である…。
池田さんからも、応援しています、というメールが来た。
正司さんからは、成田へ向かう、ロケバスが停車している間に、
電話が来た。勝ったよ、残ったよ、というと、うれしそうに、
ぶわはははっは、と豪快に笑った。
勝ち進んだら、背中に負うものはそれだけ重くなっていくんだなあ。
そんなことを思いながら、菅原は、生まれて初めての、海外旅行に、
やはり、平常心を忘れていたのだった…。
このあと、本気の悲劇が菅原を襲う。
バリの夜、菅原に何が起こったのか。
乞うご期待!(つづく)
短かったけど、短くても毎日更新することが大切だ。
なんて、自己弁護したりして。
完璧主義より、不完全主義の方が、
したたか、なんだぜ。
私は不完全主義者です(笑)。
実桜ちゃんには、缶づめのエピソードを書いてもいいという、
許可をとりました。偉いよなー、ふつう、隠しだてしそうだけど。
やっぱり傑物だ(笑)。
ではまた、あしたもお目にかかりましょう。
菅原でした。