「お義父さんから電話が有ったよ。すぐ電話して」
「どうしたんだろう、親父から電話なんて珍しいじゃん」
「うん、須磨子おばさんが今日亡くなったんだって」
「えっ、嘘」
義父の義和から電話があることは珍しい。義和は普段から穏やかな性格で、何かに急いでいる姿を私はあまり見たことがない。その義父が留守番電話に「至急電話を下さい」というメッセージを残したのだから、何かただならぬことがあったに違いなかった。
私は不安を抱きながら電話をした。そして、浩輔の親戚が亡くなったのだと教えられたのだった。
須磨子は、とても存在感の強い女性であった。90歳の今日まで元気に食事をし、眠るように息を引き取ったのだと言う。浩輔との結婚が決まった時、私は秋田まで挨拶をしに行った。呼ばれたわけではなかった。しかし、須磨子には人を呼び寄せる魅力があったのだと思う。そうでなければ寒さの苦手な私が、もっとも寒く積雪の激しい2月に秋田を訪れる筈はなかった。
マイナス7度の雪の中、出迎えてくれた須磨子は薄着だった。
「ああ、あれは危ないねえ」
私が見ると、須磨子の家の一階の屋根から透明な氷の塊がいくつも垂れ下がっていた。それはテレビでしかみたことがないつららだった。須磨子は歩み寄り、棒のようなもので一番大きなつららを地面にたたき落とした。つららは折れてまっすぐに落ち、ズボリと雪を突き刺して止まった。
「これもだね」
さっきよりは小さいつららも須磨子は同じように落とした。
「ここを人が通ったりしたら危ないからねえ」
つららは、大きくなると自然に落ちるのだと言う。間違ってもつららがある下には行きたくないと私は身震いする思いだった。
つららをいくつかたたき落とすと、須磨子は何事もなかったかのように、私達を家に招き入れた。
須磨子が出してくれたお茶と羊羹がとても美味しかった。
「須磨子おばさん、綺麗な人だったねえ…」
そしてちょっぴり怖かったという言葉は飲み込んだ。
「うん。なんだか信じられないよ…」
雪の中傘もささずに駅の方まで送ってくれた須磨子の声を思い出す。
「また来てよ、絶対よ。今度は夏にいらっしゃい!」
あれから10年以上の月日が経っている。夏は毎年来ていたのに、私は約束を果たさなかった。
「須磨子さん、幸せだったよね、最後まで」
私は茶を運びながら浩輔に言った。
「うん、大往生だって親父も言ってたよ」
浩輔の言葉に少しだけ救われたものの、茶の味はほろ苦かった。
「どうしたんだろう、親父から電話なんて珍しいじゃん」
「うん、須磨子おばさんが今日亡くなったんだって」
「えっ、嘘」
義父の義和から電話があることは珍しい。義和は普段から穏やかな性格で、何かに急いでいる姿を私はあまり見たことがない。その義父が留守番電話に「至急電話を下さい」というメッセージを残したのだから、何かただならぬことがあったに違いなかった。
私は不安を抱きながら電話をした。そして、浩輔の親戚が亡くなったのだと教えられたのだった。
須磨子は、とても存在感の強い女性であった。90歳の今日まで元気に食事をし、眠るように息を引き取ったのだと言う。浩輔との結婚が決まった時、私は秋田まで挨拶をしに行った。呼ばれたわけではなかった。しかし、須磨子には人を呼び寄せる魅力があったのだと思う。そうでなければ寒さの苦手な私が、もっとも寒く積雪の激しい2月に秋田を訪れる筈はなかった。
マイナス7度の雪の中、出迎えてくれた須磨子は薄着だった。
「ああ、あれは危ないねえ」
私が見ると、須磨子の家の一階の屋根から透明な氷の塊がいくつも垂れ下がっていた。それはテレビでしかみたことがないつららだった。須磨子は歩み寄り、棒のようなもので一番大きなつららを地面にたたき落とした。つららは折れてまっすぐに落ち、ズボリと雪を突き刺して止まった。
「これもだね」
さっきよりは小さいつららも須磨子は同じように落とした。
「ここを人が通ったりしたら危ないからねえ」
つららは、大きくなると自然に落ちるのだと言う。間違ってもつららがある下には行きたくないと私は身震いする思いだった。
つららをいくつかたたき落とすと、須磨子は何事もなかったかのように、私達を家に招き入れた。
須磨子が出してくれたお茶と羊羹がとても美味しかった。
「須磨子おばさん、綺麗な人だったねえ…」
そしてちょっぴり怖かったという言葉は飲み込んだ。
「うん。なんだか信じられないよ…」
雪の中傘もささずに駅の方まで送ってくれた須磨子の声を思い出す。
「また来てよ、絶対よ。今度は夏にいらっしゃい!」
あれから10年以上の月日が経っている。夏は毎年来ていたのに、私は約束を果たさなかった。
「須磨子さん、幸せだったよね、最後まで」
私は茶を運びながら浩輔に言った。
「うん、大往生だって親父も言ってたよ」
浩輔の言葉に少しだけ救われたものの、茶の味はほろ苦かった。