また農園へ帰るのかと思ってた。でも、そうじゃないんだ」
「わたしたちは二度とあそこへは戻らないわ。でもあなたにどうしてもわかってほしかったのよ。この何ヵ月かあなたが引きずってきた過去を断ちきるためには、こうするしかなかったの。別にファルドー農園がよくないと言ってるわけじゃないのよ。でも、ある種の人々にとってはふさわしい住まいではないの」


「そんなことを知るだけのために、わざわざあそこへ行ったりしたのかい」
「これはとても大切なことだったのよ。もちろんわたしだってファルドーの農園を訪れるのは楽しかったわ。あそこの台所には特別な思い入れがあるのよ――いつも心の中に抱いてる、忘れたくないものがね」
突然ガリオンの脳裏にある疑問が浮かびあがった。「じゃあ、セ?ネドラはどうなんだ。何で彼女にまで来るように言ったりしたんだい」
ポルおばさんは小さな王女をちらりと振り返った。彼女は何かもの思いにふけるようすで、ガリオンたちから数ヤードほど遅れてついてくるところだった。「別に連れてきたって、何の害があるわけでもないわ。それに彼女もまたあそこで何か大事なものを見たのよ」
「おばさんが何を言いたいのか、さっぱりわからない」
「そうね」ポルおばさんは答えた。「あなたにはわからないでしょうね」
続く一日半、白い大地の上を一直線に横切ってセンダリアの首庁センダーへ向かうかれらの上に、雪が思い出したように降りつけた。特にひどく寒いわけではなかったが、空は厚く雲に覆われ、西へ向かう一行をときおり突風がおそった。海岸に近づくにつれ風は勢いを増し、ときたま姿をのぞかせる海はきわめて険悪な様相をおびていた。風にあおられた巨大な波が、泡だつ白い飛沫となって砕け散った。
フルラクの宮殿ではベルガラスが、きわめて不機嫌な顔で待ちかまえていた。〈エラスタイド〉まであと一週間ちょっとだった。老人はまるでそれが自分に対する大いなる侮辱であるかのように、窓の向こうで荒れ狂う海をにらみつけていた。「いやはや、また会えるとは思ってもみなかったぞ」
「はしたないわね、おとうさん」ポルガラは落着はらった声で父をたしなめると、青いマントを脱いでかたわらの椅子にきせかけた。
「おまえの目にはあれが見えんのかね、ポルよ」老人は怒ったように窓に向かって指を突きだした。
「わかってるわよ、おとうさん」彼女はろくに見ようともせず、とがめるような口調で言った。「ちゃんと休んでないみたいね」
「外があんな天気だってのに、何で休んでなぞいられるものか」老人はふたたび指を振りまわした。
「そんなことしたっていたずらに興奮するばかりよ。今のおとうさんにはそれが一番よくないのよ。もっと落着いてちょうだい」
「だがわれわれは〈エラスタイド〉までにリヴァへ行かねばならんのだぞ」
「ええ、よくわかっていますとも。わたしの上げた強壮剤をちゃんと飲んでるんでしょうね」
「おまえでは話にならんわ」老人はガリオンに矛先を転じた。「なああの波を見ただろう」
「ぼくがそんな質問に答えられないのを知ってるだろう、おじいさん。特にポルおばさんの目の前では」
ベルガラスはかれをにらみつけた。「この裏切り者め」老人はくやしそうにつぶやいた。
だがベルガラスの心配は決して杞憂ではなかった。〈エラスタイド〉の四日前、みぞれまじりの嵐をついて見覚えのあるグレルディク船長の船が入港した。マストとへさきにはびっしりと氷がつき、主帆はまっぷたつに引きさけていた。
宮殿に足を踏みいれるやいなや髭もじゃの船長は、ベルガラスとブレンディグ大佐の待つ部屋に通された。かつてカマールでベルガラス一行を捕らえたきまじめなブレンディグ准男爵は、連隊長から大佐になっていた。あれからブレンディグはとんとん拍子に出世して、今ではセリネ伯爵と並んでフルラク王のもっとも信頼する片腕となっていた。
「アンヘグ王の命令で来たのだ」グレルディク船長はごく簡潔に述べた。「王はリヴァでローダー王やブランド卿とともに首を長くして待っている。いったい何でこんなに時間がかかるのだろうと全員首をひねっているぞ」
「この嵐の海のなかをわざわざ船出しようなどという、きとくな船長がおらんのだよ」ベルガラスが腹だたしげに言った。
「まあ、とにかくこうしてわたしが来たわけだ。主帆を修理しなければならんが、たいした時間はかからんだろう。明日朝には出帆できる。ところでここに酒はないのかね」
「天候はどんな具合だ」ベルガラスがたずねた。